市川尚・鈴木克明(1999)「Web構築を支援するシステムの詳細設計〜ガイドラインの現状とモジュール実装への課題〜」『日本教育メディア学会第6回全国大会発表論文集』


Web構築を支援するシステムの詳細設計
ガイドラインの現状とモジュール実装への課題

Detail Design of a Support System for Developing Web Pages:
Acceptable Use Policies and the Task for Module Implementation

市川 尚
Hisashi Ichikawa
鈴木克明
Katsuaki Suzuki

岩手県立大学ソフトウエア情報学部
Faculty of Software and Information Science
Iwate Prefectural University


 本研究では,教育機関から公開されているガイドラインの現状を分析し,ガイドラインの一般的な枠組みの作成を試みた.また,Web構築を支援するシステムへガイドラインモジュールを実装するための課題を検討した.

 Web,ホームページ,ガイドライン,構築支援システム


1. 研究の目的
 筆者らは,学校におけるWebの有効利用を促進するために,作成者の構築過程や目的に応じたデザインガイドを提供する構築支援システムを開発する研究を行っている(市川・鈴木 1999a).
 よい(あるべき)Web構築を実現するデザインガイドを作成するために,市川・鈴木(1998)では,Webを使いやすいもにするための「Webユーザビリティの原理」の側面を扱うガイドを調査し,代表的な4つのガイドについて比較・検討した.また,市川・鈴木(1999b)では,発信内容の調査から,公開目的の分類を行ない,効果的に発信するためのガイドとして「発信内容のアイデア」を提供する基本的枠組を作成した.
 本研究は,構築支援システムで提供されるデザインガイドを構成する上記以外のモジュールである「ガイドライン」について,その現状分析を行い,構築支援システムへ実装するに当たっての課題について検討した.

2. ガイドライン
 文部省はガイドラインを,「都道府県,市町村,学校等が策定した,インターネットの利用や個人情報の取り扱いに関するもの」という規約的な意味で捉えている(文部省 1999).なお,海外ではWebユーザビリティの側面をも含めてガイドラインと呼ぶ(市川・鈴木 1998).ガイドラインは,各学校が接続するプロバイダーの「利用規定」や自治体の「個人情報保護条例」を考慮しながら,学校の実態にあったものが作成される(佐賀県教育センター 1999).また,文部省は,インターネット利用に伴う留意事項として,各学校や教育委員会においてインターネットを利用する際(特に情報発信)のガイドラインが必要(文部省 1998)であるとの見解を示し,特に不特定多数への情報発信が絡むWeb構築については,早急に検討すべき課題である.

3. ガイドラインの現状
 文部省の調査によると,1999年3月にはガイドラインを規定している学校が5027校(全接続校の37.3%)に昇っている(文部省 1999).
 佐賀県教育センター(1999)は,こねっとプラン参加校へガイドラインに関するアンケート調査を実施した.その結果と先行事例を踏まえ,インターネット利用の情報モラルを@ネチケット,A著作権,B個人情報保護,Cセキュリティ,D有害情報の5つの指導項目に分類し,利用場面を(1)ホームページの利用,(2)ホームページの作成,(3)電子メールの利用,(4)チャット・電子掲示板の利用,(5)オンラインソフト・データの利用,(6)ネットワークの管理とした,ガイドラインマトリックス(利用場面6×指導事項5)を提案した.また,各利用場面において,教師が児童生徒に対して行う指導事項と留意事項をあげたガイドラインの骨子が示されている.
 市川・鈴木(1999b)のWeb公開目的の分類枠に,6つの利用場面を当てはめると, (1)ホームページの利用は,Web上のリンクをたどる「収集」に関連する.(2)ホームページの作成は,「広報」や「アーカイヴ」に対応する.(3)電子メールの利用は,Web上にメールアドレスを公開して返事をもらう,(4)チャット・電子掲示板の利用は,Web上に設置するなど,「コラボレーション」的な発信に位置づく. (5)オンラインソフト・データの利用は,ホームページを介してダウンロードする等,「収集」と対応する.(6)ネットワーク管理は,公開目的の分類枠には該当しないが,当然Webにも関わってくる部分である.つまり,Web構築に関わるガイドラインは,(2)ホームページの作成の項目だけでなく,ガイドラインマトリックス全般に渡る利用場面が関わる.このマトリックスは,筆者らが開発中の「目的や利用場面に応じたガイド項目のみを提供していくシステム」にとって,参考になる部分が多い.さらに,Webを学習ツールとして使用するときに,教師だけでなく児童生徒が指導項目(情報モラル等)を知っている必要があり,どう指導していくかについても参考になる.しかし,情報モラルに関する5つの指導項目がガイドラインを分類する枠組みとなってはいるが,Webのガイドラインの枠組みとしては,項目が不足していると考えられる.
 三重大学教育学部附属中学校(1998)1)は, 「Webページ作成,公開の規定」を作成している.校長を全体の総括責任者として位置づけ,その下に運営委員会を組織しており,そこでのWebの公開・更新・削除の手続きが詳細に記述されている.また,個人情報の扱いでは,保護者へのインフォームドコンセントの考えを基本に捉え,保護者へ説明し承諾を得るという手順が確立されている.その手順は,公開の範囲や発信内容によって,異なったものが用意されている.学校組織として運用することは,兵庫県利用推進協力者会議(1998)によると,情報教育担当教員に過剰な負担がかかっている点や小人数では十分に対応しきれない学校があるという問題を解消するものであり,責任の所在を明確にする意味でも,組織的な運用・管理の側面がガイドラインの枠組みには必要である.
 横浜市教育委員会(1998)2)は,「インターネット利用にあたってのガイドライン」で,インターネットの接続やWebの開設に関する,公的と私的な扱いを規定している.例えば,学校を開設主体とする公的なページは,教育委員会のサーバに置くことが義務づけられ,私的なページは学校の公的な名称を出すことが禁止されている.学校は教育委員会による指示を守る義務があり,また学校名を出す以上,学校代表のイメージは免れないため,公私混同を避ける意味でも,こういった接続・開設の項目が,ガイドラインの枠組みに必要である.
 滋賀県長浜市立北中学校(1998)3)の「インターネット利用に関する運用の手引き(指針)」では,最初に利用の目的や形態が検討されている.目的や利用形態によって,ガイドラインの守るべき項目が変わってくると考えられ,ガイドラインの枠組みとして必要である.
 上記の検討をもとに,一般的なガイドラインの枠組みを作成した.それを表1に示す.

4.ガイドラインの実装への課題
(1)ガイドラインのない学校に対応するため,自校のガイドラインの有無を尋ね,無いと答えた者について,まずガイドラインを作成するように促す.その際,ガイドラインの作成のための情報を提示する(表1を利用).
(2)ガイドラインの質のばらつきへの対応として,表1に基づいて,ガイドラインの項目をチェックしてもらい,含まれていない項目については,ガイドラインを修正するためのアドバイスを与える.
(3)公開目的や利用形態に応じて,ガイドラインを絞り込み,提示するようにする.
(4)個人情報保護条例等の地域差や個々のネットワーク環境(イントラネットやフィルタリング等)に適合したガイドラインを提供する.
(5)他のモジュールとの連携をはかるために,関係を明確にして,優先順位などを決める.
(6)ガイドラインの変化に柔軟に対応できるようデータを整理し,更新が容易にできるようにする.

表1.ガイドラインの枠組み

■目的 1) 3)
■利用形態  3)
■情報モラル --佐賀県教育センター(1999)の分類を利用
@ ネチケット
 公序良俗に反しない,誹謗中傷しない
A著作権
 著作権を侵害しない.著作物の許諾.著作権情報の表示,肖像権を侵害しない. 他人のページへのリンク
B個人情報保護
 原則は掲載しない.保護者・本人の承諾.公開範囲(氏名・写真・住所等),期限の設定, (状況による変化あり)
Cセキュリティ
 情報の漏洩防止,セキュリティホール,ウィルス
D有害情報
 有害な発信をしない,不適切なページへリンクしない
■運用/管理 1) 3)
 公開・更新・削除の手順,日常管理,組織の設置(責任者),対応
■接続/開設 2)
 インターネット接続の方法,公的・私的なWebの開設・禁止事項
■その他
ガイドラインの改訂・公開,教師による指導の徹底


参考文献
注:
 1) http://www.fuzoku.edu.mie-u.ac.jp/naiki.html (三重大学教育学部附属中学校
 2) http://www.edu.city.yokohama.jp/inguide/mokuji.html (横浜市教育委員会
 3) http://www.biwa.or.jp/~hirobe/work1/tebiki1.htm (滋賀県長浜北中学校

※URLは1999年8月13日時点のものである.


追記(!以下は,原稿に書いていないものです!)

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