ホームページガイドラインの現状
〜インターネットリソースと関連文献への調査から(2)

Current Status of Guidelines for Web Page Design:
A survey of Internet Resources and References (2).

○市川 尚
Hisashi Ichikawa
東北学院大学大学院人間情報学研究科
Graduate School of Human Informatics
Tohoku Gakuin University

鈴木 克明
Katsuaki Suzuki
東北学院大学教養学部
Faculty of Liberal Arts
Tohoku Gakuin University


[あらまし]本論文は、インターネット上に公開されているホームページガイドラインを調査した報告である。検索された各ガイドラインの参照状況を調べ、他から最も参照されているもの上位3位のガイドラインの内容を比較検討した。それにより、哲学によってガイドライン間に相違があること、逆にお互いに重なった部分もかなりあったこと、お互いに必ずユニークな項目がすることがわかった。またガイドラインは、それ自体のユーザビリティを考慮しなければならないこと、ガイドライン項目に実証的なアプローチが必要なことがわかった。
[キーワード] WWW、ホームページ、ガイドライン、初等中等教育


1.はじめに
 WWWという新しい教育ツールを安全で効果的に利用するために、学校のホームページ作成者を援助するために、School Web Master's Guide(SWMG;学校ウェブ作成者のためのガイドライン)を提案する研究を進めている。筆者らは、過去に日本の初等中等教育のホームページの悉皆調査を実施し(Ichikawa & Suzuki、1997)、ホームページの使いやすさを左右する要因について文献にあたった(市川・鈴木、1996)。
 本研究では、SWMG提案への重要なステップとして、インターネット上に存在しているホームページガイドラインを調査した。なお、ガイドラインを検索した調査方法の概要については、市川・鈴木(1997)にて報告済みであるので、ここでは簡単に述べるに留める。

2.ガイドライン検索調査概要
 WWW上に公開されているガイドラインを対象とし、1997年7月4日から7日までの4日間に、日本語と英語のホームページガイドラインを、サーチエンジン(goo、Infoseek japan、Altavista、excite)を使用して検索した。その結果、日本語52件、英語94件の計146件のガイドラインを発見した。

3.参照数の多いガイドラインとその特徴
 ホームページガイドラインがどの程度参照しあっているかを調べた。146件のうち、他のガイドラインを紹介あるいは参照したと明記してあったものは40件(全体の27%)と少なく、逆に他のガイドラインで紹介・参照されていたガイドラインも40件(全体の27%)であり、ガイドラインが点在している様子がうかがえた。他のガイドラインから最も多く参照されていたガイドラインの上位4件は次の通りである。各ガイドラインの特徴も併せて記す。
(1)W3C (Tim BL)のよる"Style Guide for online hypertext"※1(11件より参照)
 WWWの開発者自身が作成し、コンソーシアムサイトで公開しているものである。日本語訳が、神崎氏より提供されている※2。
 1992年から毎年のように更新されているが、調査時点では、全部で約28項目あった。レベル1の見出しを1つだけ文書の先頭に置いて見出しタグを常に順番に使うことや、文書の形を整える目的で余分なスペースや改行を設けないことなど、HTMLを正しい用法で使用するようにと注意を促している。また、不完全な古い情報でもはずかしがらずに公開すべきだということや、サーバーのエイリアスを作れ、メカニズムについては書かないなど、他には見ることのできない項目も多い。
(2)Yale Center for Advanced Instructional Media (P.Linch & S.Horton)による"Yale C/AIM Web Style Guide"※3(11件より参照)
 エール大学から発信されているガイドラインである。PDFファイルのA4版で全183ページ(既発表関連論文3編と添付資料の部分を抜いても131ページ)であり、非常に分量の多いガイドラインである。すべて文章として提供されているが、指摘事項は95項目以上抽出できる。
 デザインとグラフィックが中心のガイドであり、伝統的なマニュアル作成(編集)のノウハウに基づいている。グラフィックの解説が多く、サイト構造についても言及している。指摘事項には、このガイドライン自身を例として挙げたり、守るべき値(ピクセル値など)を提示するなど具体的である。また、根拠も明示している。
(3)Sun Microsystems (Rick Levine)による "Guide to Web Style"※4(7件より参照)
 サンマイクロ社のガイドライン。97項目もあり、大きなガイドラインである。クイックリファレンスとして、本文中に出てくるガイドラインの項目がリストされ、読みやすい。内容としては、リンクの張り方(リンクを文章のどの部分にするかなど)の情報が充実している。また、発信内容やネチケットについても、多くの項目がある。企業から提案されているガイドラインらしく、「競争相手のサイトへリンクを提供することについて再考しなさい」などの商業系サイトのための項目もある。
(4)Jakob Nielsenによる、 "Top Ten Mistakes in Web Design"※5(7件より参照)
 実用的なガイドラインで、厳選された10項目のみが載っている。文章の表現がとてもユニークで、くだけた皮肉っぽい言い方をしているのが特徴的である。ほとんどがページの使いやすさに関する項目であり、これらを守らないとユーザは、いらいらしたり、困ってしまうことだろう。10項目しかないものの、技術へ走りすぎることへの警告や、「フレームを使用するな」「複雑なURLは避けろ」など、他のガイドラインにはない指摘が多い。

4.考察
(1)哲学の相違
 Yaleは、現在のHTMLの制限のなかで、なんとかビジュアル的な表現をしていこうというデザインを重視したガイドとなっており、それがユーザのためになるというスタンスをとっている(ただし、このことはYaleの冒頭でも、HTMLは本来グラフィックページデザインを提供するものではないが、そこを曲げて提供しているという旨の断り書きがある)。
 逆に、W3Cは、HTMLの標準的な使い方を守ることがユーザのためになるという立場であり、HTMLは文書の構造を記述するためのものであるから、デザインは(ページをクールにするには)、すべてスタイルシートを使えと言っている。ガイドラインを提案する上では、目的や立場を明らかにする必要がある。
(2)共通の指摘事項
 4つのガイドラインともに、独特な指摘事項があり、すべての項目を包括したガイドラインはなかった。ひとつのガイドラインを調べただけでは不完全ということであり、多くのガイドラインを統合する必要があることを示していた。
 一方で、共通に指摘されている事項もあった。「長すぎるページは作るな」「ナビゲーションの援助を提供せよ」「ダウンロードタイムを少なくせよ」「紙への印刷を考慮せよ」「よいタイトルをつける」「リンクの部分はリンクしていないかのような文章で書け」などであった。
(3)ガイドラインの「ユーザビリティ」
 Yaleは、何ページにもわたって、文章で詳しく記述しているが、ガイドラインとしての実用性を考慮したとき、守るべき項目を探すことが容易ではない。Sunはその点、クイックリファレンスで守るべき項目のリストが提供され、一目でわかるが、なぜその項目を守らなければならないかは、よくわからなくなる。
 また、Top Tenの10項目は、重要性の順番に並べているのではなく、今、何に注目させたらよいかで並べている。何が現在インパクトを持つのかを問うことが必要である。ガイドライン項目が多すぎると、誰も読まない危険性がある。ガイドラインに載せる項目は、十分に厳選する必要がある。
(4)実証的研究の必要性
 Top Tenのすべての項目は、Nielsenの研究に裏付けられており、ガイドラインの信憑性を高めている。ガイドラインを形成していくうえで、項目を集めただけではなく、信頼性・妥当性・有効性などを実証的に明らかにしていく必要がある。

参考文献
市川尚・鈴木克明(1996)「ホームページの使い  やすさを左右する要因」『第3回日本視聴  覚・放送教育学会発表論文集』 pp.82-83
市川尚・鈴木克明(1997)「ホームページガイド  ラインの現状〜インターネットリソースと関  連文献への調査から」『教育工学関連学協会  連合第5回全国大会発表論文集』
Ichikawa, H., & Suzuki, K. (1997). Charac-  teristics of Web page uses by Japanese schools: Findings from three nationwide surveys. Webnet97, Toronto, Canada

※1 http://www.w3.org/hypertext/WWW/Provider/Style
※2 http://www.kanzaki.com/docs/Style/
※3 http://info.med.yale.edu/caim/manual/
※4 http://www.sun.com/styleguide/
※5 http://www.useit.com/alertbox/9605.html


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