Web構築を支援するシステムの基本設計
Basic Design of a Support System for Developing Web Pages

市川 尚
Hisashi ICHIKAWA
鈴木克明
Katsuaki SUZUKI

岩手県立大学ソフトウエア情報学部
Faculty of Software and Information Science
Iwate Prefectural University

<あらまし>
 本研究は,Web構築を支援するためのデザインガイド提供システムの設計に関する一考察である.Web構築プロセスについて,授業システム開発モデルを検討し,状況評価から処方するというリニアではない開発モデル(第4世代のモデル)がWeb構築に有効なことがわかった.またEPSSの特徴を取り入れた,実際の支援システムの基本的枠組みを検討した.
<キーワード> Web,システム設計,授業システム開発モデル,EPSS

1. 目的
 本研究の目的は,Web構築を支援するデザインガイド提供システムの枠組みを設計するにあたって,その効果的な提供(支援)方法を検討することである.

2. Web構築プロセスの検討
(1)Web設計プロセス
 Webデザインガイドを提供する際に,設計プロセスに沿って,段階を踏んで提供することが考えられる.これはデザインガイドに時系列的要素が入っているからである.例えば,Webの目的の明確化や聴衆の分析については,設計の早期で行うべきであることが示されている(Linch and Horton 1997)1).
 Web開発のプロセスについては, 例えばMorris and Hinrichs(1996)が図1のような流れを示しており,従来のマルチメディア製品の開発(伝統的な設計の流れ)のプロセスとほとんど変わらないと指摘している.



 しかし,Webに完成はないと言われるように常に更新し続けるものであるから,Web構築の場合,無から開発しないことのほうが多い.このような場合,リニアなプロセスを最初から辿っていくのでは冗長すぎる.
(2) 授業システム開発モデル
 ISD(Instructional System Development;授業システム開発)モデルの,これまでの変遷は,Tennyson(1995)によって4つの世代にまとめられている.それによると第3世代までは,リニア(流れのある)な開発モデルとなっている.例えば,先の図1のWeb設計プロセスは,これらの世代に入る.しかし,第4世代(ISD4)に入ると,図2のようなリニアではないモデルとなる.



 状況評価には,状況のアセスメントを提供し,処方の構築するという2つの目的がある.また知識ベースとして,分析・設計・制作・実行・保守の5つの領域と7つの下位領域を持つ.例えば,授業設計においてカリキュラムがほとんど確立していれば,目標を書くことからはじめる必要はない.このような場合,無から作るというよりは,状況評価において問題解決を行うモデルで行っている. 同様にして,Webでも作成したページがすでに存在し,追加・改善等を行う場合には,ISD4のような開発を行うだろう.逆に,最初から開発する場合には,リニアなモデルの方が間違いのないWebを構築できるであろう.このように,Web構築支援は,構築過程に応じた支援をする必要がある.

3. 構築を支援するシステムの検討
(1)EPSS
 伝統的なシステム的アプローチがリニアであり柔軟性に欠ける傾向があるのに対して(Seels and Richey 1994),Dick(1993)は,パフォーマンス技術のアプローチの要素を組み入れて,典型的なISDの所要時間を縮小しようとする,Electronic Performance Support System(EPSS)をますます重要視するenhanced ISDを提唱している. つまり,EPSSは第4世代のISDを反映したものである.
 EPSSは,Gery(1991)によると,他人からの最小限のサポートで,高いレベルのジョブパフォーマンスを可能にするための,統合された,情報へのオンデマンドアクセス,道具,方法を提供する,電子的なシステムである.Sleight(1993)2)は,EPSSの特徴を,(a)コンピュータベースである,(b)タスク中にアクセスできる,(c)仕事しながら使える,(d)作業者がコントロールできる,(e)事前トレーニングの必要性を縮小する,(f)容易に更新できる,(g)情報へ素早くアクセスできる,(h)不適切な情報を含まない,(i)ユーザに異なるレベルの知識を許容する,(j)異なる学習スタイルを許容する,(k)情報,アドバイス,学習経験を統合する,(l)人工知能が使われる,の12個に分類している.
 Web構築は,独自で試行錯誤しながら作成することが多く見受けられる.さらに作成の手間の問題も取り上げられており,短時間でうまく作成できる支援が求められている.そういった意味でも,個々に必要な情報だけを素早く受け取れるEPSSは支援方法のひとつとして有効であろう.
(2)Web構築支援システム
 デザインガイド提供システムは, EPSSの機能を盛り込み,個々の構築目的や構築過程などの条件に適した項目のみを抽出して提供する,以下のようなシステムが有効であると考えられる.
@Web上で提供
 Web構築をする人たちは,当然Webを見る環境に居ると考えられるため,システムをWeb上で提供すれば,情報へのアクセスの側面が格段に向上すると考えられる.また,デザインガイドの更新も容易となる.
A個々に必要な情報だけを必要なときに提供
 個々の目的や状況に応じてデザインガイドを提示するシステムとする.また,白紙からじっくり作りたい人,すでに開発していて問題部分を見つけて修正したい人,構築過程全体についての重要なデザインガイドを知りたい人など,構築過程に応じた支援をする. デザインガイド項目はその人にとって有用性の高いもののみを持つものを厳選して提示する.
Bデザインガイド項目は一行程度の文章を提示し,詳細な情報へのリンクを張る
 デザインガイドの提示の際に,デザインガイド項目から,その詳細な解説へリンクをはることで,早く項目だけ知りたい人,中身まで詳しく知りたい人に対応できる.
 なお,本研究の今後の展開としては,システム上で提供するデザインガイドをまとめ,データ化する作業,そして実際にシステムの開発を行っていく予定である.

注記
1)Linch, P. and Horton, S.(1997) Yale C/AIM Web Style Guide. Yale Center for Advanced Instructional Media. [URL=http://info.med.yale.edu/caim/manual/]
2)Sleight, D.A. (1993) Types of Electronic Performance Support Systems :Their Characteristics and Range of Designs.[URL=http://www.siweb.com/staff/dsleight/pss.htm]
参考文献
Dick, W.(1993). Enhanced ISD: A response to changing environments for learning and performance. Educational Technology, 33(2), 12-16.
Gery, G. (1991). Electronic performance support systems. Weingarten Publications, Boston, MA
Morris, M.E.S. and Hinrichs, R.J.(1996)Web Page Design: A different multimedia.Sun Microsystems, California U.S.A
Seels, B.B. and Richey, R.C.(1994)Instructional Technology: The definition and domains of the field. AECT, Virginia, U.S.A.
Tennyson, R.D.(1995) The impact of the cognitive science movement on instructional design fundamentals. B.B.Seels(Ed.), Instructional Design Fundamentals. Educational Technology Publications, New Jersey, U.S.A