平成 16年度 基盤研究(C)(一般)研究計画調書
プエルトリカンのジェンダーとナショナリズムをめぐるパラダイム転換について 志柿(三宅) 禎子 ジェンダー部門
研究目的
1) 何をどこまで明らかにするか。
プエルトリコでは、 80 年代、女性たちが、 ドメスティック・バイオレンスを犯罪と規定する法制定に向けた取り組みの過程で、個別問題に活動の目標を絞った各グループが一つの利益課題に対して共闘するという従来見られなかった運動スタイルを生み出した。このような動きは、植民地問題を中心に対立を続けていたそれまでの既成政党政治のあり方に変更をもたらした。また、ビエケス島米軍基地反対闘争においても女性たちが中心となり、既成政党政治の枠組みを乗り越えた新しい共闘スタイルを生み出した。一方、米国本土では、マイノリティグループのトランスナショナリズムの影響を受けたプエルトリコ人女性のなかに以前とは異なるナショナル・アイデンティティが観察され、ラテン系女性のコミュニティ活動のなかにも植民地問題から距離を置いたプエルトリコ人女性の新たな動きが観察された。これらの諸要因が複合的に作用し合う中で、プエルトリコ人コミュニティ地域に支配的であった独立主義指導の政治活動に変化が生じ始めている。
本研究においては、これらの調査結果を踏まえた上で更に研究を深め、米国領土であるプエルトリコの政治の焦点である植民地問題が、プエルトリコおよび米国本土在住のプエルトリコ人のフェミニズムにどのような影響を与えたのか、また、その影響のもとでフェミニズムがどう変貌してきたのかを明らかにする。また、フェミニズムが植民地問題を巡って対立するプエルトリコの政治構造、および米国本土のプエルトリコ人社会にどのような影響を与え、同時に、米国社会に対して提起した人種概念、マイノリティ概念、文化の多様性に関するパラダイム転換の様相 を探る。
特に、現行の自由連合州体制への批判が一般化し、プエルトリコの言論界においても国民国家概念の相対化が進んだ 1980 年代以降の時期について、ナショナル・アイデンティティの問題がフェミニズムの議論のなかでどう扱われてきたかを解明し、ナショナリズムとジェンダーの関わりをめぐる研究への貢献を目指す。
2)学術的な特色・独創的な点および予想される結果と意義
米国領土でありながら独自の文化と言語を維持してきたプエルトリコにおいては、植民地問題に関して現行の自由連合州体制か、独立か州制移行かを巡る政治対立が政治の焦点となってきた。本研究は、このように今もなお脱植民地化が未完成の社会におけるフェミニズムの態様に関するケーススタディであり、ジェンダーとナショナリズムの関係を理論化する上で重要な貢献を成しうる研究である。特に、米国領土であるというプエルトリコの特殊性から、欧米先進国対開発途上国という図式に当てはまらない独自のフェミニズム理論を提起する可能性を持っている。
3)当該研究の位置づけ
本研究は、日本のジェンダー研究に欠落しがちである主権国家の周辺地域、あるいは、主権国家内のマイノリティ集団において急速に勢力を拡大するフェミニズムに焦点を当てるものである。また、ジェンダー研究先進国である欧米諸国による第三世界女性問題研究とは異なる視点を提供しうる点で従来の研究と異なる。そして、日本人研究者として現地の政治的対立からは相対的に自由であり得るという立場の利点を最大限に生かすことによって、客観的な調査・分析の視点を現地研究者らに提供し、グローバル化する国際社会におけるジェンダー理論の深化に貢献するものである。
従来の研究経過・研究成果
T . 研究種目:基盤研究 C 期間:平成 13-15 年度 研究課題:現代プエルトリコのフェミニズムとナショナル・アイデンティティ 研究代表者:志柿 禎子 研究経費: 2300 千円
研究成果:本研究では、 1) プエルトリコで、 女性たちは、女性問題解決に道筋をつける過程でこれまで植民地問題を中心に対立を続けていた既成政党政治のあり方に変更をもたらし、 2) 米軍基地問題では、既存の政党組織を乗り越えた政治活動を女性たちが中心となって担い、 3) 米国本土では、プエルトリコ人女性たちが、マイノリティグループの女性たちとともにコミュニティ活動に携わり、従来のものとは異なるアイデンティティが生まれてきていることが判明した。これらの調査結果から、フェミニズムが既存の植民地問題を軸とした政治構造に対して新たなパラダイムを提起していること、しかもそれは、プエルトリコ社会のみならず、米国社会に対しても新たなパラダイムを提起していることが分かった。調査結果は平成 13 年度国立民族博物館・地域研究企画交流、特別共同研究「人口移動の基礎研究」第 7 回国際シンポジウム、 平成 14 年日本ラテンアメリカ学会第 23 回定期大会、 5th Conference of the Puerto Rican Studies Association, October 2002, Chicago で発表し、論文として成果をまとめた。
しかし、プエルトリコ女性のフェミニズムとナショナル・アイデンティティの関係に関して多くのことが判明した反面、研究として不十分な点も露呈した。つまり、 1)90 年代以降にプエルトリコの言論界に新たに出現した radical statehood と女性との関連、 2) 他のマイノリティグループとの関係および米国ナショナリズムとの関連、 3) 米国本土ヒスパニック人口増加に伴うプエルトリコ政党の対応変化、などについて、調査領域の拡大の必要性が浮き彫りになった。特に初年度のニューヨーク現地視察の結果、米国在住のプエルトリコ人社会が予想以上に多様化していることが分かり、研究が大幅に遅れた。特に米国本土においては、ヒスパニック全体の動向も視野に含める必要が出てきたため、二年目はイリノイ大学シカゴキャンパス Latin American and Latino Studies Program Visiting Fellow として米国本土現地調査を実施し、予定していたプエルトリコ現地調査を翌年に変更した。この変更に伴い、米国本土の研究者とのコンタクトが広がり、調査領域拡大の目途を着けることができたが、プエルトリコ本島のフェミニズムの調査が不十分となった。
U . 研究費の名称 :財団法人岩手県学術研究振興財団研究助成平成 14 年度研究助成金、海外等研修 研究課題: 現代プエルトリコのフェミニズムとナショナル・アイデンティティ 研究代表者:志柿 禎子 研究経費: 568 千円
研究成果: 5th Conference of the Puerto Rican Studies Association, October 3-5, 2002, Chicago において「米国およびプエルトリコ政治におけるプエルトリコ人女性移民」と題して研究成果を発表した。発表では移民女性たちが移民としての経験を経る過程で自らのナショナル・アイデンティティの内実が変容し、植民地問題に関する主張も相対化していく点を指摘した。また、この研修助成により 3 月には、ニューヨークマンハッタン北部地域を視察し、プエルトリコ人居住地区がマンハッタン全域に分散している様子を視察した。
準備状況など
I. 前回の調査過程で、 1970 年代に米国政府レベルでプエルトリコ女性たちの現状を訴えた女性活動家のリストが入手できたので、現在、インタビューの準備を進めている。また、同様に、前回、ニューヨークヒスパニック地区の女性リーダー Esperanza Martell 氏にインタビューを実施したが、同氏からもニューヨーク地区の他の主要なリーダーのリストを得、次回の調査で彼女の協力のもとに面接調査を進める予定になっている。平成 16 年 8,9 月に現地調査を実施すべく準備を進めている。なお、研究者とコミュニティ活動家の間の断絶、根強く残る政治的対立などからこのような調査研究がプエルトリコ研究者の間で未着手であることも分かっており、米国の研究者からも調査の重要性の理解を得、協力の承諾を得ている。なお、調査実施に当たって協力の承諾を得た米国研究センターおよび協力者については研究計画のところで詳述する。
II. 米国北東部の調査に当たっては、主に City University of New York, Hunter College, Centro de Estudios Puertorriquenos を本拠地にする予定である。場所の提供、資料利用の便宜はセンター長の承諾を得ているが、センター予算の関係上、余分のパソコン提供および金銭支援は難しいとの話なので、パソコンを持参することにしている。 State University of New York-Albany, Center for Latino, Latin American, and Caribbean Studies (CELAC), Center for Latin American Studies, University of California Berkeley おいては現時点で研究施設利用の申し入れは行っていないが、センター資料室は随時利用可能なので、現地で申し入れをすれば問題なく施設を利用できる見込みである。パソコンも空いていれば快く使用させてくれるが、センターの作業などに使用されていることが多く、専用の携帯用パソコンを持参する方が無難である。
研究計画
研究計画・方法 (平成16年度)
米国研究者の協力のもとに、米国本土在住のプエルトリコ人女性コミュニティ活動家との面接調査を前回調査より領域を広げて実施する。前回は研究者を中心としたコミュニティ活動家を主に調査したが、今回は労働者階級を中心とするコミュニティ活動家へ焦点を当てる。
前回の調査過程で、 1970 年代に米国政府レベルでプエルトリコ女性たちの現状を訴えた女性活動家のリストが入手できたので、現在、インタビューの準備を進めている。また、同様に、前回、ニューヨークヒスパニック地区の女性リーダー Esperanza Martell 氏にインタビューを実施したが、同氏からもニューヨーク地区の他の主要なリーダーのリストを得、次回の調査で彼女の協力のもとに面接調査を進める予定になっている。平成 16 年 8,9 月に現地調査を実施すべく準備を進めている。なお、 研究者とコミュニティ活動家の間の断絶などからこのような調査研究がプエルトリコ研究者の間で未着手であることが分かっており、米国の研究者からも調査の重要性の理解を得、協力の承諾を得ている。
調査実施に当たって協力の承諾を得た米国研究センターおよび協力者
City University of New York, Hunter College, Centro de Estudios Puertorriquenos, Director, Felix Matos 教授 (ニューヨーク現地調査に当たっては資金援助のない研究員として受け入れの承諾を得ている、資料利用手続きの便宜、場所、通信手段などの提供を受ける)
State University of New York-Albany, Center for Latino, Latin American, and Caribbean Studies (CELAC), Director, Edna Acosta-Belen 教授 ( プエルトリコ女性研究分野における先駆的研究者。研究内容に関するアドバイスの承諾を得ている )
Department of Sociology, University of Massachusetts, Amherst, Agustin Lao-Monte 助教授 ( 米国本土で住民全体におけるプエルトリコ人の比率が最も高いコネチカットハートフォード地区の調査協力の承諾を得ている。 )
Center for Latin American Studies, University of California Berkeley, Ramon Grosfoguel 助教授 ( radical statehood の提唱者の一人、 radical statehood とフェミニズムの関係、カリ地区のプエルトリコ人コミュニティ活動家の面接調査の協力の承諾を得ている。現在、紹介を受けたプエルトリコ女性、サンフランシスコ Women's Building 事務局長 Teresa Mejia との面接調査を準備中である)
1970 年代に米国政府レベルで活動を行った女性のリスト(主に National Conference of Puerto Rican Women のメンバーの連絡先一覧をもとにインタビューの申し込みを準備中である)
Edna Laverdi(South Carolina), Alice Cardona(NY), Carmen Delgado Votaw (Washington,D.C.)
Esperanza Martell の協力のもと実施するニューヨーク地区コミュニティ女性リーダー
Esperanza Martell, Alice Cardona, Yolanda Sundez, Dr.Helen Rodriguez, Ana Maria, Dona Adolfa Vera
また、 6th Conference of the Puerto Rican Studies Association, October 21-23, 2004, Graduate Center of the City University of New York, USA に 8,9 月に実施した調査結果を発表する予定である。
平成 17 年2月にも、夏の調査に引き継ぎ、米国本土北東部プエルトリコ人女性コミュニティ活動家にインタビュー調査を実施する。主に補充調査に当てる予定である。そのほか、シカゴのプエルトリコ人コミュニティにおいては、植民地問題を巡る対立に女性団体が弱体化する一方で、ラテン系女性たちによる新たなコミュニティ活動でプエルトリコ人女性が活躍するなど植民地問題から離れた場所で新たな動きが観察された。この動きについてもインタビュー調査などは実施済みであるが、資料収集などが不十分であるため再調査を実施する。実施に当たっては、現在当該地区の独立主義者指導によるコミュニティ活動衰退の研究を進めている University of Illinois at Chicago, Latin American and Latino Studies, Prof. Nilda Flores- Gonzales およびシカゴプエルトリコ人地区のオーラルヒストリーの収集プロジェクトに携わっている Center for Latino Research, DePaul University at Chicago, Prof. Marixsa Alicea の協力を依頼する。また、調査に当たっては University of Illinois at Chicago, Latin American and Latino Studies の研究室、電話、パソコンの提供を行う visiting fellow の申請を行う予定であるが、研究室などの都合がつかない場合は同学科の資料室、事務室を利用する予定である。また、コミュニティ女性支援団体 Latina Women in Action の活動実態についても調査する。
従って、当該年度の主な経費は、ニューヨークおよびその周辺地域、シカゴ、カリフォルニアで実施する調査・研究旅費、研究協力謝金およびインタビュー録画機器、聴き取り内容をディクテーションするための音声読み取りソフト、現地調査時に携帯する小型携帯パソコン機器、ニューヨークでの会議での研究成果発表のための外国語論文校閲料、旅費、および書籍代となる。なお、携帯用パソコン購入は、現在本研究者が別枠研究費で購入したノート型のものが、動画教材作成用として購入したため、重量が重く、研究所や女性団体事務所など数カ所を移動して面接調査を実施する際には不向きであるため、持ち運び用として軽量のものを新規購入として予定するものである。
研究計画・方法 (平成17年度以降)
(平成17年度)
当年 8,9 月にプエルトリコ現地調査を実施する。特に、プエルトリコ、ビエケス島における米軍演習中による住民死亡事件を巡る運動を中心に、女性運動と植民地支配の関わりを調査する。プエルトリコでの米軍基地問題では、米国本土とプエルトリコの人々が広範に連帯し、基地周辺に住む州制移行派の女性たちと独立主義者がともに闘争に参加し、既存の政治対立を乗り越えた運動を展開した。その運動が既存の政党政治のあり方にどのように影響を与えたかを中心に調査する。その結果は、前年度の調査結果と合わせて、
2005 June 2-5, The 13 th Berkshire Conference on the History of Women, “Sin Fronteras: Women's Histories, Global Conversations” At Scripps College, Claremont, California, USA (カリフォルニアのプエルトリコ人コミュニティの研究を行っているフェミニスト歴史家 Aurora Levins Morales とパネルを組む方向で連絡交渉している)
The Latin American Studies Association International Congress in the United States, March, 2006 ( 会場未定 ) で発表する。
従って当該年度の主な経費は、プエルトリコ現地調査旅費、研究協力謝金、書籍代、研究成果発表のための外国語論文校閲料、旅費となる。
(平成 1 8年度)
上記の成果を総合し、米国およびプエルトリコの研究者と連絡を取りながら、最終報告書のとりまとめを行なう。 7th Conference of the Puerto Rican Studies Association October, 2006 (USA 会場未定 ) に於いて研究成果を発表する。
また、当年 6 月に開催される日本アメリカ学会大会に於いて、前述の Agustin Lao-Monte 助教授、 Ramon Grosfoguel 助教授らと "Postnationalist Decolonizations? Ireland, Puerto Rico, and the Coloniality of Power" のテーマでセッションを設け、 "Breaking Binaries: Puerto Rican Feminism and the Question of Diaspora" というテーマでこれまでの研究成果を発表する準備を進めている。
従って当該年度の主な経費は、書籍代、研究成果発表のための外国語論文校閲料、旅費となる。
平成16年度科学研究費補助金交付申請書
研究の目的
本研究においては、米国領土であるプエルトリコの政治の焦点である植民地問題が、プエルトリコおよび米国本土在住のプエルトリコのフェミニズムにどのような影響を与えたのか、また、その影響のもとでフェミニズムがどう変貌してきたのかを明らかにする。また、フェミニズムが植民地問題を巡って対立するプエルトリコの政治構造、および米国本土のプエルトリコ人社会にどのような影響を与え、同時に米国社会に対して提起した人種概念、マイノリティ概念、文化の多様性に関するパラダイム転換の様相を探る。
本年度(〜平成17年3月31日)の研究実施計画
米国研究者およびコミュニティ活動家の協力のもとに、米国本土在住のプエルトリコ人女性コミュニティ活動家との面接調査をこれまでの調査より領域を広げて実施する。また、プエルトリコ、ビエケス島反米軍基地闘争を担った女性活動家らとも面接調査を実施する
調査実施に当たっての協力を得た大学機関研究者および協力者
director, Felix Matos Rodriguez, el Centro de Estudios Puertorriquenos de City University of New York at Hunter College
Professor Agustin Lao-Montes , sociology, Latino/American, Caribbean and Afro-American Studies, University of Massachusetts , Amherst , MA
feminist, community activist, educator Ms. Alice (or Alicia) Cardona, National Conference of Puerto Rican Women NY branch
Universidad de Puerto RicoFacultad de Ciencias Sociales de UPR Dr. Alice Colon
Dr. Ramon Grosfoguel, Center for Latin American Studies, University of California at Berkeley
平成 16年度科学研究費補助金実績報告書(研究実績報告書)
研究実績の概要
2004 年 8 月、アメリカニューヨークにおいて、地域活動女性リーダーや女性団体などにインタビューを実施し、大学の女性センターなどを訪問、各種行事に参加した。また、9月にはプエルトリコ、ビエケス島で米軍基地被害に取り組む団体や女性リーダー、女性支援団体などに面接調査を実施した。同年 10 月には、その研究成果をニューヨークで開催されたプエルトリコ研究国際会議で発表した。地域における女性リーダーが地域で種々の問題解決に大きく貢献している手法、大学の地域活動への関わり方などが分かり、今後の研究に向けても多くの重要な示唆を掴むことができた。
ニューヨーク女性要約
多くのプエルトリコ人が居住するニューヨークにおいては、プエルトリコ女性たちが地域活動において重要な役割を果たしてきた。バイリンガル教育の要望や地域の貧困対策など、マイノリティが都市部で抱える問題の解決策を模索する運動のなかで、プエルトリコ女性たちは指導的役割を果たしてきたのである。移民当初の世代の政治活動は主にプエルトリコの政治的地位に関する者が主テーマであったが、アメリカ本土生まれのプエルトリコ人が増加するにつれ、女性たちが指導性を発揮した、マイノリティが直面する生活上の問題が具体的テーマと浮上していった。それは、女性たちの生活改善への努力が、新たな政治課題を提供していく重要な役割を担ったことを意味する。
平成17年度科学研究費補助金実績報告書(研究実績報告書)
本年度は、主にアメリカフロリダ、オークランドおよびサンフランシスコのプエルトリコ人女性移住者の研究を実施した。
90 年代以降、プエルトリコ人移住先はニューヨークからフロリダ中央部へと移動した。本調査では、フロリダオーランドに開設されたプエルトリコ事務所を中心に、その移民の実態を調査した。その結果、 60 年代、 70 年代にニューヨークでコミュニティ活動で活躍していた女性たちが退職後、移住してきている例や、ニューヨークの製造業の空洞化からニューヨークに移住する必要性が減少し、景気の良く物価の安いフロリダなどに移住場所が移動してきていることが判明した。同時に、移住地での経済的状況の相違などからプエルトリコ人コミュニティの政治的主張が変化し、コミュニティ活動やヒスパニック全体の生活改善運動に女性がかかわっている状況が把握できた。
また、サンフランシスコはプエルトリコ移民最初の移住先ハワイへの港となっていたため、古くからプエルトリコ人クラブなどあり、プエルトリコ移民の歴史的街である。現在では、のちに移住したプエルトリコ人女性が、サンフランシスコにおいてヒスパニックグループのリーダー格としてマイノリティ運動の要で活躍している。前年度までに実施してきたニューヨークなどのプエルトリコ人コミュニティ地区の移民の状態の相異などを今回の調査で把握することができた。
平成1 8 年度科学研究費補助金交付申請
研究の目的 |
1) プエルトリコで、 女性たちは、女性問題解決に道筋をつける過程でこれまで植民地問題を中心に対立を続けていた既成政党政治のあり方に変更をもたらし、 2) 米軍基地問題では、既存の政党組織を乗り越えた政治活動を女性たちが中心となって担い、 3) 米国本土では、プエルトリコ人女性たちが、マイノリティグループの女性たちとともにコミュニティ活動に携わり、従来のものとは異なるアイデンティティが生まれてきている。これらの調査結果から、フェミニズムが既存の植民地問題を軸とした政治構造に対して新たなパラダイムを提起していること、しかもそれは、プエルトリコ社会のみならず、米国社会に対しても新たなパラダイムを提起していることが分かった。しかし、 1) 他のマイノリティグループとの関係および米国ナショナリズムとの関連、 2) 米国本土全域に広がるプエルトリコ人移民の動向、などについても詳しく研究する必要があるため、これらの点を中心に本年度の研究を進める。
本年度(〜平成1 9年3月31日)の研究実施計画 |
18年度研究実績報告
移民社会の重要性が指摘されている他の地域でこれまで調査を行っていなかった地域のうち、プエルトリコ人市長を選出し、プエルトリコ人の割合の高いコ
ネチカットのハートフォード市、市の単位で全米でプエルトリコ人の割合が最も高いマサチュセッツ州ホリヨーク市を調査した。その結果、ハートフォードで
は商業組合がプエルトリコ人・ラテン系コミュニティの町づくりに取り組み、その中心地区に女性たちを支援するNPOなどがコミュニティへのさまざまな福
祉サービスを提供している実態が把握できた。また、マサチュセッツ州ホリヨーク市では、急激に移民人口が増加するなか、青少年の非行問題、教育の問題に
取り組んできた女性活動家がコミュニティ活動の中心を担っていることが判明した。
また、前年度に実施したフロリダ州オーランド地区への調査も実施した。2006年初頭にプエルトリコで生じた政府活動が一時マヒ状態になったのを受
け、多くの学校教師などが数週間で何十万とオーランドへ移動した実情、そこから派生するさまざまな問題点などが把握できた。急激なプエルトリコ人増加を
受け、行政、メディア、学校などが対応に追われている実態が行政側で働くプエルトリコ人女性郡長補佐官より語られ、有意義であった。
また、プエルトリコ人移民の最初の目的地であったハワイでも調査を実施し、ハワイのプエルトリコ人に関する研究論文を著わしたノーマ・カー氏に農業プ
ランテーションでのプエルトリコ人移民調査などの話を聞き、その調査の記録性の重要性を実感した。また、ハワイ島では、教師退職女性がプエルトリコ人コ
ミュニティ活動を行なっていることが判明した。またハワイ日系人とプエルトリコ人のプランテーションでの関係などの聞き取り調査にも着手した。
これらの調査で、地域ごとの移民の歴史および移民形態の相違のために、移民たちの政治的動向、女性の役割などにも地域の独自性がでていることが把握で
き有意義であった。