「児童・生徒からの発信」をしているホームページ


岩手県立大学ソフトウエア情報学部 市川 尚

はじめに

 今回は,学校ホームページの中で児童・生徒たちから発信が行われている事例を紹介します.このテーマは,本連載で以前にも取り挙げている内容です(1999年5月号).ホームページの黎明期には,子どもたちからの発信はほとんど見当たりませんでしたが,前回の紹介では,授業の中で子どもたちが発信していく事例や子どもたちが独自で発信を行う事例が増えてきたことを述べ,特に学校・生徒会・クラブ・生徒個人のホームページなど,公開主体の種類を網羅するような形で紹介しました.一方で,本連載ではこれまでにも,各教科紹介の中で子どもたちの成果(作品)や意見の公開など,随時児童・生徒からの発信を取り挙げてきました.
 児童・生徒からの発信といっても,本当にHTMLまで書いているものから,うまく教師が後ろ側に隠れ,さも子どもたちが発信しているかのように見せているページもあります.一見すると普通の学校ホームページながら,よくよく解説をみると実は子どもたちによって作られていたページという場合もあります.教師が児童・生徒の作品を公開したとしても,ホームページ公開を目的として作成したのであれば,子どもたちからの発信をみなすこともできるでしょう. また,学校ホームページで児童・生徒が中心となって公開しているホームページは,小人数校の比率が高い傾向にあるようです.
 田中(1998)は,ホームページを作成する際の児童・生徒の学習効果について分類を行っており,教師と児童・生徒のどちらが準備し作成するのかによって,学習効果が異なるとしています.学習効果は,自己の学習を振り返ることで内容を構造的に捉え直す「内省効果」,発信のために相手に分かりやすい表現や構成にする表現力を養う「再構成効果」,情報活用能力を育成する「育成効果」の3つに分類され,各作成場面においての学習効果の程度を示した表を提供しています.生徒が準備し,教師が作成した場合では,「育成効果」が希薄になるなど,子どもたちが実際にどのように準備や作成に関わってくるかで,同じ発信内容であったとしても学習効果が異なることになるわけです.  授業の内容を紹介するにしても,教師の視点で紹介すれば,指導案・授業の様子・作品・反省などの授業実践例となりますが,児童・生徒の視点で公開すれば,それは成果が主体の授業成果記録となります.どの視点で作成するかで,ホームページのイメージもだいぶ違うものになります.子どもたち中心で書かれたホームページは,他の子どもたちが見に来るのであれば,非常に効果的であると思いますし,子どもたちの言葉で紹介されていれば,より臨場感のあるものになります.
 また,子どもたちの発信を行う際には,情報モラルについて留意する必要があります.個人情報を不用意に公開することで問題が発生してしまうことや,著作権を侵害したり,他人に不快感を与えるかもしれません.子どもたちの発信を行っていくかどうかは,公開目的や対象者,環境,学習効果,情報モラルの側面を考慮しながら使い分けていく必要があります.
 今回は,子どもたちの手によるWeb作品や,子どもたち自身のホームページ,日常的な学校の状況などを発信している事例を紹介します.

子どもたちの発信

東京都桜丘女子中学・高等学校 (http://www.sakuragaoka.ac.jp/shs/;図1)
 ここでは,さまざまなホームページ作品を見ることできます.生徒のページの「Happy Library」では,生徒による多くの作品が収められており,まさにライブラリーと言えるでしょう.例えば,調べ学習として自分の興味のあるテーマを独自に見つけて徹底検証した報告や,英語の教科書の内容を紙芝居にしてグループでひとり一枚ずつ作った教材,「羅生門」の主人公の生き方を想像し描いた「続・羅生門」,書き順のアニメーションを見たり発音を聞いたりできる「ひらがなの教材」など,生徒たちがグループで協力しながら作成したものがあります.どのホームページ作品もきれいで内容も充実しています.これからの学校には,こういったホームページという共通のフォーマット上に,自分の活動や学習の成果をまとめて,誰でも見ることができるデジタルな作品として公開・保存していくことが増えてくると思われます.
 また,ホームページ上に公開していくことが当たり前になってくると,作品数が増加してくるので,その作品群をいかにまとめていくかということも考えていかなければなりません.ここでは,作品のメニューを観覧車や食事になぞらえて,年度ごとに作品がまとめられています.また,それをすべて包括したものが「Happy Library」として提供されています.このように作品集として整理しておけば,探すことが容易になるだけでなく, CD-ROM化による保存が簡単となります.

神奈川大学附属中・高等学校 (http://www.fhs.kanagawa-u.ac.jp/;図2)
 ここでは,生徒の発信として,非常にクオリティの高いホームページ作品を見ることができます.「生徒の作品」には,生徒がHTMLをつかって作成したホームページが紹介されています.そのなかの「グループ学習によるホームページ制作」では,グループ研究によるホームページ制作を実施した授業実践(家庭科)が紹介され,全50作品以上の中から優秀作品を公開しています.週1時間の授業で半年を費やして作成したようです.テーマは,環境問題や薬,ダイエットなど様々なものがあり,ひとつひとつがかなりの力作です.
 また,前回(1999年5月号)にも少しだけ紹介しましたが,この学校の生徒はThinkQuestやVirtual Classroomをはじめとするホームページ作成コンテストに参加しており,その作品を見ることができます.外国の学生とのコラボレーションでホームページを作成するなど,作品は英語で作られています.学校でホームページ作成の実習を行った発展として,教師の側でコンテストなどの発表の場をきちんと把握し,その情報を生徒に提供していくことはよいことだと思います.コンテストは明確な目標となりますから,それに向けて作成していくというのもやりがいが生まれるでしょう.単に授業の中で作成しただけで終わらせいないで,それを材料にして,議論したり学習を発展させることはもちろんのことながら,せっかく身に付けたHTML技術をそのままにしておくのではなく,授業内外を問わず,それを活用して個々がチャレンジしていく道を示す工夫も必要でしょう.

静岡県久留女木小学校 (http://www.wbs.ne.jp/cmt/kurumeki/;図3)
 この学校のホームページは,子どもたちが前面に出ており,ひとりひとりの顔が見えてくるような,子どもたちが主役のホームページです.小規模校ならではの発信と言えるでしょう.学校のイベントの紹介には,その様子の写真だけでなく,必ず子どもたちが作ったCGの絵日記が付加されています.その絵日記は,さらに個人ごとの項目にまとめてリストされ,活動記録ともなっています.リストは,年度始めの入学式からはじまっています.さらに個々の作品として作った詩も紹介されており,その朗読を聞くこともできます.子どもたちの氏名は名前だけになっており,顔も似顔絵です.このように不特定多数への発信の場合は,個人情報にも気を使う必要があります.
 また,子どもたちの発信のほとんどがお絵描きソフトによるCGで提供されています.小学校などで,子どもたちがワープロが使えないとき,教師が手書きの原稿を受け取ってそれをホームページに載せる方法もあります.また,もっと手軽な方法としては,この事例のようにお絵描きソフトを使って,その画像を使うというのもひとつの手です.一方でページが重くなる,見にくいなどのデメリットはもちろんありますが,子どもたちの作品がそのまま載るか,先生が加工したものが載るかでは,前者の方が,子どもたちはより喜びますし,自分が情報を発信しているんだという自覚を持つかもしれません.

茨城県新東小学校(http://www.sopia.or.jp/sintou/sintou.htm;図4)
 子どもたちが日常の様子を発信していくという点では,この学校のホームページは,学校日記を毎日,子どもたちの手で書き換えています。学校日記が始まって1年あまりですが,ほとんど空白がなく更新されています.日記は,画像等を活用して紹介されており,子どもたちの間で作り方を教えあっているそうです.ホームページが頻繁に更新されることになるので,学校の日々の変化を楽しみにしている人も多いことでしょう.ホームページにとって更新は大切な要素ですから,子どもの手による日記の更新は,非常に面白い試みではないかと思います.また,子どもたちはその発信を通して,自分たちの日常を振り返り,より充実した生活を送れるようになっていくかもしれません.
 また,「宿泊学習」では,子どもたちの各班にわかれた報告が発信されています.教師ではなかなか表現できないような,子どもたちの言葉で,臨場感あふれる記録となっています.

高知県宗呂小学校 (http://www.edu.net-kochi.gr.jp/home/souro-e/;図5)
 ここは,子どもたち自身のホームページがあります.低学年のホームページ作成については,高学年の児童が面倒をみているようです.学年があがるに従って内容の項目が充実しています.地域のことや学校のことなどを中心とした発信となっています.例えば,学校にある水槽のはなしや,宗呂の秋の食べ物のことなど,好きなテーマで作っているようです.内容は,個人個人のペースで徐々に増えているようです.こういった発信が毎年積み重なっていけば,最終的には卒業時に自分のこれまでの歩みがわかり,授業のレポートや作品がまとめられた,ポートフォリオ的なものが自然とできあがることでしょう.
 また,これまでの多くの学校ホームページでは,各自のホームページが,授業の実習で作成されたものが多いため,発信することよりも作ることが目的であったように思います.時間的制約と技術の習得のためにはしょうがないことですが,テンプレートで作ったようなホームページのみが公開され,そこからまったく発展のないまま,ただの自己紹介だけで終わっている学校も少なくありません.自分のページを作ったなら,もっとそれを利用していく展開する方法を考えていってもよいのではないでしょうか.一回の発信で終わらずに,それを継続し更新していく,それは学校のホームページだけでなく,個人個人のホームページにも同様に言えることです.授業でも,ホームページ上に情報を追加していくような展開方法があるのではないかと思います.

子どもたちの情報を発信する際の留意点

 子どもたちの情報を発信する場合,教師の側は何もせずに自由に発信させてよいのかというと,そういうわけではありません.まず,子どもたちに情報モラルを身に付けてもらう必要があります.情報モラルについては,佐賀県教育センター(1999)が,@ネチケット,A著作権,B個人情報保護,Cセキュリティ,D有害情報の5項目に分類しています.これらは,情報発信を有効に,安全に進めていくために必要不可欠な要素であり,特に不特定多数に対して子どもたちが発信していく前に,留意しておく必要があります.子どもたちは学校だけでなく,いつでもどこでも(家庭でも)情報発信可能な時代になりましたから,学校よりもむしろ学校外のほうが,インターネットに接する機会が多くなってくることでしょう.そういう意味では,早急にどんな学校でも,こういった情報モラルの側面を考えていく必要があります.
 また,学校においても発信内容によっては,法律等にひっかかるなどの問題が生じてくる恐れがあります.教師の側はいつでも発信されている情報に気を配り,トラブルを回避していく必要があります.例えば,個人情報の公開の範囲は,自治体の個人情報保護条例によって規定されているが,その個人情報保護条例自体がある自治体とない自治体があり,かつその解釈の仕方も異なる場合が多いです.つまり,地域によって学校ごとに発信できる内容に差違が生じています.これは,自治体のインターネットガイドラインを参考にするか,ガイドラインがなければ自治体に問い合わせることが必要となってきます.そのような時に,他の自治体や学校から公開されているガイドラインも参考になります.
 兵庫県インターネット利用推進協力者会議(1998)は,文部省指定の平成9・10年度インターネット利用実践研究地域指定事業において,「インターネット利用のガイドライン」を作成しています.ホームページや電子メールなどの各利用場面について,児童編・生徒編・教職員編・管理運用者編のガイドラインが用意されています.この児童・生徒編はそのレベルに応じた表現で書かれており,発信の際にみんなで読むなど,情報モラル育成ための道具として活用できるかもしれません.最近はこういったガイドラインが多く提供されていますから,いくつかを見比べてみるとよいでしょう.

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参考資料
田中克昌(1998)「学校ホームページの機能と児童・生徒の学習効果について」『日本教育情報学会年会論文集14』p.2−p.5 [URL= http://home7.highway.ne.jp/ktanaka/ronbun14.htm ]
佐賀県教育センター(1999)『インターネット教育利用におけるガイドラインの研究』 [URL=http://www.saga-ed.go.jp/study/gaido.PDF]
兵庫県インターネット利用推進協力者会議(1998)『インターネット利用のガイドライン』[URL=http://www.hyogo-edu.yashiro.hyogo.jp/kenshusho/guide/]

図1 東京都桜丘女子中学・高等学校ホームページ
図2 神奈川大学附属中・高等学校ホームページ
図3 久留女木小学校ホームページ
図4 茨城県新東小学校ホームページ
図5 高知県宗呂小学校ホームページ


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