特徴のある学校のホームページ紹介
〜子どもたちによる発信
市川 尚(岩手県立大学ソフトウェア情報学部助手
はじめに
今回は教科別紹介ではなく,新学期特集として特徴のある学校のホームページ紹介と題し,特に子どもたちによる発信に焦点をあてて紹介していきます.
子どもたちの発信を考えてみると,学校がホームページを公開しはじめた当初は,ほとんどが教員が制作したホームページであり,そのなかで子どもたちの作品の紹介等が行われていました.これは普段の授業で作ったものを教員が公開したものであり,子どもたちはあまり「発信」を意識していないものでした.そこでは,ホームページ上に公開することを目標として動機づけの効果を期待したり,教室内での鑑賞会の延長線上として,作品に対しての感想(フィードバック)を得ることをねらうことがあります.特に,小規模の学校においては,こういった使い方により新たに共同学習者を増やしす事ができるという利点があります.
また,インターネットの普及にともない,徐々に授業の中で子どもたちが発信していくということが行われてきました.例えば,平和に関するアンケート調査や,海外への自己紹介や日本の文化紹介,子どもたちの視点による学校紹介,自分たちの考えを発信するなど,外へ向けての「発信」を意識して子どもたちが作ったコンテンツが見られるようになりました.外部の人たちに教えてあげようと,自分たちの地域のことを調べてまとめ,わかりやすいように発信することで,逆に自分たちのことを振り返る機会となります.作品等の発信だけでなく,交流などの情報交換の支援や実際の支援の場として,ホームページが使われています.また,学校のホームページ自体を子どもたちが中心となって企画・制作しているところなどもあります.そういった子どもの視点で書かれた学校紹介などは,そこに入学する子どもたちにとっても貴重な情報となることでしょう.
さらに,教師の指導の範囲をこえて,子どもたちの手によって(子どもたち中心で)情報発信が行われてくるようになってきました.クラブからの公開は以前から行われている,こういった発信の一例です.これはもちろん,顧問の先生との共同作業というものがほとんどでしょうが,やはり子どもたちがメインと言えます.さらに,なるべく子どもたちだけでホームページを制作していこうという動きもあります.例えば,学校とは独立して学校の情報を載せた個人的なページ,生徒会が中心となって作成しているページ,クラブが中心となって発信しているページなどがあります.今後ホームページは.教員(学校)が外部や内部に発信するツールだけでなく,新たに,子どもたちが学校内外に発信する,子ども同士をつなぐコミュニケーションツールとしても発展していくことでしょう.
しかしながら,学校から発信する場合,子どもたちにホームページ制作をまかせるにしても,教員はだまっていていいというわけではありません.情報発信をより有効に行うための環境作り等,子どもたちの活発な発信の原動力として,サポーター的な役割を担っていく必要があるでしょう.小学校・中学校のレベルでは,子どもたちの情報活用能力育成の一環として,教師主導のもとに授業などで,ホームページの企画・制作をさせることもいいと思います.高校では,より自由度の高い,子どもたちにすべてをまかせるようなことも考えられます.学外へ向けての発信を勝手にやらせることは,個人情報保護条例等のデリケートな問題を含むため,難しい部分もあります.しかし,世の中に制限や制約のないものなんて存在していません.その制限のなかで,どれだけよい発信をし,効果を得る事ができるか,よい方向に導いていくのも指導者の役割と言えるでしょう.
今回は,様々な子どもたちの手による(子どもたちが中心となって内容を作っている)学校関係のホームページを紹介します.
子どもたちが発信しているホームページ
●岩手県立岩泉高等学校田野畑校ホームページ(http://www.michinoku.ne.jp/~tanohata/;図1)
生徒と教職員(インターネット隊)が,自由な立場で制作しているホームページで、数々のコンテストでも受賞しているところです。生徒達が、インターネットを活用していることが伝わってくる、生徒達の視点からつくられているホームページです。高校を有名にする活動を繰り広げている成果を中心に編集した生徒会誌を全世界の人たちに見てもらいたいという理由で,このホームページを開設したそうです.
「世界高等学校総合文化祭」は、 様々な高校から公開されている特定の情報:生徒会、運動部、文化部、学校行事、学科・コース等についての,高校生活(=それぞれの文化)を探るためのリンクガイドとなっています。例えば,運動部なら,そこからさらに,ウェイトリフティング,応援,空手..などに細かく分かれています.高校生たちが,自分の興味ある(例えば自分と同じクラブが公開している)ページを即座に探すことができ,他の学校と自分達との違い(文化の違い)などを知ることができます.そこから,お互いを振り返り,かつ良い部分を吸収していくかもしれません.高校生がつくった高校生のためのリンク集であり,「文化祭」の新しいあり方を考えたこのアイデアはすばらしいと思います.ここから,生徒同士の交流が生まれてくることもあるでしょう.この文化祭に参加する方法も載っています.ここのホームページは,生徒たちの活動の紹介が主な情報となっており,他にも,放送委員会やJRC同好会等の活動の様子やその成果なども見る事ができます.
また,ホームページの作り方にしても,誰もが見られるページを考えたり,現在の問題点を洗い出したりと,いろいろ考えられている点が印象的なページです.
●福井県藤島高等学校ホームページ(http://www2.interbroad.or.jp/fujisima/;図2)
ここは学校のホームページながら,教員が作成しているページより,生徒の作成しているページが活発であるというところが特徴的です.「生徒の部屋」は,生徒たちの手によって作成されています.その中の,「生徒会」のページでは,「ディベート委員会」のとりくみとして,ディベート大会に向けての情報が発信されており,学内の生徒への情報提供にも使用されています.掲示板も外部からの意見を取りいれるために活用されているようです. 「学校祭」のページでは,校内展示の内容や舞台発表などが紹介されています.特に,「学校祭ホームページ作成」では,ホームページ作成の日程や,裏話なども載っています.また,以前の学校祭で公開したページも見る事ができます. 「全体会」は、全校でいろんな問題を考える会とのことで,情報の発信ばかりではなく、全国各地の様々な人々との交流を目的として作られています.また,「環境問題」では,生徒たちが社会の授業でグループに分かれてつくったレポートが公開されています.
●北海道稲里小中学校ホームページ(http://city.hokkai.or.jp/~inasato/;図3)
このホームページは,原則として児童が作成したものが中心であるということが明示されています.特に興味深いところは,児童が全員自分のホームページを持っているというところです.そのページの中には,似顔絵と自己紹介,そして,夏休みと冬休みの自由研究で作った作品の紹介があります.学年が上になってくるにつれて,コンテンツが充実していき,学校行事についての作文や,詩や習字,読書感想文などといった,授業中につくった作品も公開しています.桜の観察日記などもあり,自分の調べたことを発表する場となっています.また,すべての児童が自分のメールアドレスを持っている事も特徴的です.このあたりは小規模校ならではの活動とも言えます.
「行事などの様子」では,学校行事の紹介が頻繁に更新されており,これらのページには,必ず最後にページ作者として子どもたちの名前が書いてあります.子どもたちが学外へ向けて自分たちの身近な話題を,自分たちの名前を入れて発信するということは,情報に対する責任を学んでいくことでしょう. また,自分たちのホームページを持ち,常に自分たちでやったことを,記録として残しておくという作業は,将来さまざまな場面で役に立つことでしょう.
●東京都板橋第一小学校ホームページ(http://www.tokyoweb.or.jp/itabashi-city/ita-1/;図4)
「学校紹介」は,実際に子どもたちが取材をして作ったホームページとなっています.学校の歴史や,行事,日常生活,学校のまわりの様子などが紹介されています.4年社会でつくった東京を紹介する「東京トラブル・トラベル」や,3年社会科で制作した「商店がい調べ」なども公開されています.こういったものはできたコンテンツもさることながら,その制作過程における,取材,話し合い,などでの学習効果が期待できると思います.また,各学年で別々のコンテンツを作り,それを統合するといった,学年を越えた協調も図る事ができるかもしれません.
●山梨県湯田小学校ホームページ(http://www.hun.ne.jp/yudasho/;図5)
自薦のあったホームページですが,ここでとりあげます.6年生が国語の勉強の中で,内容の企画から、実際の作成まで、全てを小学校6年生の一クラスが分担して作成したものとのことです。ページコンテンツのほとんどは,ハイパーキューブで作成してあります.子どもたちが「自分たちが発信したいこと」をコンセプトに、学校や地域の紹介、特産品の解説などから、自分たちの作品紹介、メッセージといった項目を発信しています。コンテンツのほとんどが,子どもの視点で,子どもの言葉で書かれています.また,「地域紹介」や「山梨県の見所」などは,子どもたちが作ったCGなどで紹介されています.「学習のページ」には,宝石や武田信玄についての教材が公開されています.「みんなの作品紹介」では,短歌やCGなどが公開されています.例えば,短歌なども,ハイパーキューブを使って子どもたちがきれいに作ったものを公開しています.このようなホームページは,特に同年代の小学生に見てもらいたいホームページになっています.他校のこういった活動をみることで,自分たちもやってみようといった活動のきっかけとなるかもしれません.
●兵庫県村岡中学校ホームページ(http://www2.nkansai.ne.jp/sch/muraoka-jh/;図6)
ここのホームページは,「生徒」マークのついているものは,生徒が中心となって運営しているホームページで,「先生」マークがついているものは,先生が中心となっています.生徒による発信としては,「ふるさと村岡探検隊」として,生徒がクイズ形式で「ふるさと村岡町」を紹介しています.例えば,村岡町の自然・環境,文化・生活,歴史・町勢に関して計100問以上あります.英語バージョンもあります.クイズは,「ふるさと教育」の一環として、技術科、選択技術、学活の時間を利用して運営しているそうです.子どもたちが,「ちょっとひとこと」を載せるページもあります.
「ようこそ!花と歌声の村岡中学校へ」は,中学校の紹介のページで,生徒会の活動情報や,絵画の作品を展示しているギャラリー,届いたE-mailの紹介などがあります.「2年生の学級日誌」として,2年生が班活動で記録しているWEB日誌があります.このように,ウェブ上に常に順番をまわしながら,日記を書いていく事も面白いものです.
●東京都城北高校・中学ラジオ部(http://www.ja1yax.gr.jp/;図7)
クラブからのホームページとして,このホームページを紹介します.ここでは,活動の紹介や,部員達の作品紹介,OBたちへのお知らせなどがあります.また,「FMJ専科」として,クラブ局のデータベースやアマチュア無線のコンテストの結果検索,掲示板,クラブ局ページへのリンクなどがあります.このページは,有益な情報を提供してより親密な交流を持てる場としての学校クラブ局の総合情報ページをめざしているとのことで,クラブ同士の交流を活発にしていこうという意図が見られます.このホームページを見たときはまだできたてでしたが,これからの発展が期待できます.また,自分たちの学校の公式なページがないので,非公式ながら学校の紹介や,同窓会のページなども用意されています.こういった部分は,学校ホームページの一翼を担っていると言えるでしょう.
●横田幸之介さんによる「富高の杜」(http://www2.nsknet.or.jp/~koh/tomikou/;図8)
生徒やOBによる個人的な学校ホームページとして,このホームページを紹介します.ここは,現役の生徒が公開しており,普通に見かける高校のホームページよりも充実した高校のホームページとなっています.高校の紹介としては,学校の概要,校歌や進路をはじめ,一年間の行事,学校に関する百科事典があります.さらには,入試倍率なども載っており,更新も頻繁で情報が早いです.また,「富校日記」として,生徒の視点から高校の日々の出来事をつづったり,卒業生によって投稿された思い出なども載っています.このホームページは,現役の生徒,卒業生,PTAなどが見に来ているようで,ひとりの生徒の公開が,地域と学校をつなぐ役割を少なからず果たしているとも言えます.このような生徒個人によるホームページはまれではありますが,他にも例えばOB等から公開されている学校ホームページというのもあります.
●ホームページ作成コンテスト等への出典
授業やクラブなどで,コンテストに応募するWeb教材を子どもたちが作成しているところもあります.コンテストは,ThinkQuest@Japan(http://www.thinkquest.gr.jp/)や,AT&T Virtual Classroom(http://www.vc.attjens.co.jp/)などがあげられます.例えば,慶應義塾普通部の選択授業「Webページを作る」(http://www.kf.keio.ac.jp/web.html)では,ThinkQuest@Japanコンクールを目指しての授業展開の内容や,次年度の授業計画,実際に作成した教材,紹介されています.また,神奈川大学附属中・高等学校(http://www.fhs.kanagawa-u.ac.jp/projects/tqatt.html)や,常磐高等学校コンピュータ部 (http://www.urban.ne.jp/home/josame/tcom/index.htm)でも,子どもたちが作った作品が公開されています.
コンテストは,ホームページのできについての競争ですから明確な結果がでてきます.普段公開しているページは,アクセス数の少なさや,感想等のフィードバックによって,自分たちの発信がよかったのかどうかを見ることができますが,発信したらそれでおしまいという場合も多いことでしょう.コンテストであれば,必ず評価がついてきますし,他の作品が出そろうので,どこがよかったかわるかったか,他の人たちの作品はどうなのかを見て,自分たちの作品の改善点などを検討することができるでしょう.
自薦・他薦のホームページ募集中!ichikawa@soft.iwate-pu.ac.jpまで。
ホームページ紹介記事バックナンバーhttp://www.iwate-pu.ac.jp/home/ichikawa/new/
※URLが変わりました.
図1 岩手県立岩泉高等学校田野畑校ホームページ
図2 福井県藤島高等学校ホームページ
図3 北海道稲里小中学校ホームページ
図4 東京都板橋第一小学校ホームページ
図5 山梨県湯田小学校ホームページ
図6 兵庫県村岡中学校ホームページ
図7 東京都城北高校・中学ラジオ部
図8 横田幸之介さんによる「富高の杜」
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