エンドユーザ(情報システムの利用者)がパソコンなどを利用して自ら業務の処理を行うこと。EUCの背景にはパソコンの高性能/低価格化、分散処理の発達、パッケージソフトの普及などが挙げられる。
また、EUCの発展形として、エンドユーザが自ら自部門の処理を行うための情報システムを構築するエンドユーザデベロップメント(EUD)がある。
情報処理の専門家でないエンドユーザが、自らの業務のため、自らが主体となって、自らの責任で情報を処理する。
エクセルを使った統計処理
アクセスを使ったデータベース
ワードを使った文書処理エンドユーザのタイプ(マクリード・ジュニア)
メニューレベル・エンドユーザ
あらかじめ用意されたメニューの中から必要な機能を選択し利用する。
コマンドレベル・エンドユーザ
ソフトウェアに備わっているメニュー以外の機能も利用できる。
エンドユーザ・プログラマ
プログラミング言語を使用してソフトウェアを開発できる。
機能支援要員
部門固有の情報ニーズに応えられる情報処理の専門家
エンドユーザの概念での注意事項
エンドユーザは、必ずしも1個人を指さなくてもよい。企業内における部門やプロジェクトチーム、委員会などの作業集団をエンドユーザとみなしてもよい。
情報処理の専門家とエンドユーザの立場は固定的なものでなく、仕事の状況に応じて立場が変化することがある。
エンドユーザコンピューティングの定義
狭義
「エンドユーザコンピューティングは、データ処理スタッフであるシステム専門家の手を借りた間接的な利用ではなく、エンドユーザによるコンピュータの直接的・実施の利用である。」スプレーグ=マクナーリン
エンドユーザがコンピュータを直接操作し、情報の検索や加工を行う。
「例」営業担当者が、コンピュータを直接操作し、注文処理を行う。
営業担当者が、案内状をコンピュータを使用して作成する。
エンドユーザプログラミングは、エンドユーザが自分で手続きを作り出し、それを蓄積し、繰り返し利用すること
広義
「媒体となるプログラマやアナリストによるものではなく、自分の行動によりユーザのニーズの満足化」エメリ
直接操作行わなく、間接的な操作であってもエンドユーザコンピュータが実現する。
「例」経営管理者が部下に命令し、情報処理のスタッフが開発したアプリケーションを操作する場合。
(1) 非定型的処理ニーズの拡大
受注・発注データ処理、販売実績レポートの出力、給与計算処理等の定型的処理は、組織全般にかかわるため情報処理部門で開発する事が多い
非定型的処理は、部門やグループごとに異なり、情報処理部門での優先順位は低い
定型的処理がコンピュータを利用して行われるようになるに従い、非定形的処理に対するコンピュータの利用のニーズが拡大
(2) バックログの存在
情報処理部門に対するユーザ部門からの情報処理要求が増大するが、情報処理部門での処理能力の限界から、バックログ(問題の積み残し)が蓄積してきている。
バックログの解消のためユーザが自分でシステム構築せざるを得なくなってきた。
(3) 自前のデータ処理
出来合いのデータではなく自前のデータを蓄積、処理する事に対するエンドユーザの関心が高まってきた。
(4) 情報技術の多様化
ユーザをプログラミング作業から解放する新世代言語により、エンドユーザが直接コンピュータを操作し、データ処理する環境が整ってきた。
(5) 価格性能比の向上
コンピュータの価格性能比が向上し、エンドユーザのニーズに合ったコンピュータの利用環境をエンドユーザ側で独自に用意する事ができるようになってきた。
(6) 作業環境の多様化
情報処理を行う場所が限られた場所や時間から多様なものに変化してきた。
出張中、休暇中、自宅、夜など
情報処理技術者から、非定型的処理の開発を引き離し、専門を十分に生かせる問題に専念できる → 情報処理技術者が職場独自の非定型的な問題を理解し、その実現のためのプログラムを作成するには、多大な専門外の知識を必要とし、実現までに多くの労力を要する。
行う処理についてよく知っているエンドユーザとよくわからない情報処理技術者間での処理の内容や伴う技術などについて理解しあわなくとも、変化する自らの要求に対応する事ができる。
組織内の他の部門などと資源について争いや調整することなく、自分たちで優先順位を決める事ができる。
ユーザが自らの情報ニーズを満足させるために、直接自分の資源を使用することができる。
エンドユーザが自らの情報ニーズを満足させるために自らが主体的に操作、開発するので、無秩序に行われるとIT部門や管理部門の統制が及ばず、トラブル(シャドーIT問題)を起こすことがある。ガイドラインを定めるなどのルールが必要となる。
シャドーIT:組織内で用いられる情報システムやその構成要素のうち、従業員や各業務部門の判断で導入・使用され、経営部門や情報システム管理部門による把握や管理が及んでいないもの。(対義語:サンクションIT)
→EUCツール EUCツールの枠組み
情報を使って仕事をするためのツール
文書情報:ワープロ、アウトラインエディタ、電子出版(pdfなど)
数値情報:統計、モデル、意思決定支援、表計算、エキスパートシステム
イメージ情報:グラフィックス、作画ツール
時間情報:スケジュール管理、電子カレンダー、Todo管理、プロジェクト管理
音声情報:音声入力、音声出力
情報源
業務システムおよび企業データベースへのアクセス:
部門データベース管理システム:
外部データベース、コンピュータによる教育:
コミュニケーションのツール
端末をベースにするメッセージ・システム:テレタイプ、ファクシミリ
パーソナル・メッセージ・システム:電子メール、電子会議、マルチメディアメール
遠隔会議:テレビ会議、音声装置、共用画面
第4世代言語によるエンドユーザコンピューティングの普及
第1世代言語:機械語
第2世代言語:アセンブリ言語
第3世代言語:高級手続き型言語
第4世代言語:非手続き型言語
第4世代言語により、視覚的、感覚的、対話的にプログラムを作成する事ができ、従前のプログラム言語に精通しなくても目的のプログラムを作成する事ができるようになった。
[特徴]P.168参照
最近の話題:RPA Power Automate Desktopの例 例2
ノーコード kintone
スプレーグ=マクナーリンによるエンドユーザコンピューティングの12のカテゴリー(P170,171)
1:会計処理、報告書作成、計算支援:
予算・財務計画立案のために表計算ソフトを利用
経費報告用紙、売り上げ報告用紙への記入
ローン返済額・費用配分を計算する2:文書作成支援
メモ、ノート、業務日誌、議事録
構想をまとめる
ファイル検索
スペルチェック、文法チェック ⇒ワード
編集、改定3:探索・検索支援
データやデータファイルの検索
検索結果のレポート
商用情報の検索4:コミュニケーション支援
メッセージの送受信、転送
予約 ⇒例
会議5:プレゼンテーション支援
定型的な提案書の作成
プレゼンテーションの作成6:計画立案・日程計画・監視支援
プロジェクト管理
事業・財務計画7:分析支援
売り上げデータ分析により顧客動向などの解析
需要予測、予測との差異分析8:記憶支援
カレンダー機能
ToDoリスト
メモ例
EVERNOTE 記憶等
Google カレンダー等
9:レコード処理支援
定型処理の登録
活動記録10:学習支援
コンピュータベースの訓練、再訓練、促成訓練
例1就職支援サイトの利用
例2 e-larning
11:新規プログラム開発支援
自分用のアプリケーションの開発、意思決定支援システムの開発、
作成したアプリケーションの維持・管理12:意思決定支援
what-if仮説の検証用パッケージ
意思決定支援システムパッケージの利用
現在の組織ではインターネットの仕組みを利用した社内専用ネットワークであるイントラネットが整備されている。
EUCでは、このイントラネット上に、EUCの各カテゴリに対応したデータベースおよびWebサーバから構成される各カテゴリの支援システムがあり、各クライアント(エンドユーザ)が各々の機能を利用しながらEUCを進めている。
組織外のネットワークにつながる必要がある場合、ファイヤーウォールを経由してつながる。
組織内に互換性のないパーソナルコンピュータやワークステーションが乱立する。
→組織内に導入することのできる機器の規格を制定する。
過度の多様性:一つ一つの処理のため別々のアプリケーションを利用
→同じような事は同一のアプリケーションで行うような取り決めを制定する。
品質の問題:ユーザが独自に作成したアプリケーションは、品質が保証されない事があり、これが原因でデータ処理効率が低下したり、トラブルが発生する事態が生じる。
データベースの乱立:簡単にデータベースが構築できる事で、重複したデータ項目を含むさまざまなデータベースが存在したり、各データベース間の関係が見えなくなったり、データベース自体の存在が忘れ去られる事態が起こる。
→新規のデータベースを作成する必要のない、統合されたデータベースを作成する。
機密性の喪失:データベースに直接アクセスする事が多くなる事で、漏洩や改ざんなどの危険性が増大する。
→セキュリティーを強化する。
情報処理専門家の育成、開発されたアプリケーションの利用支援
⇒エンドユーザに対するエンドユーザーコンピューティングを支援する教育訓練
[情報処理部門に期待される活動]
ユーザの教育と訓練
ユーザ・マニュアルの作成
アプリケーション相談
全社的な情報センタの運営
ハードウェアとソフトウェアの選択
ベンダとの交渉や大量購入の取り決め
選択された製品についての技術的支援
通信ネットワークへの接続と共用データベースへのアクセス支援
ユーザ・グループと自助機能の奨励
ユーザ開発プログラムの共用と支援のための機構の開発
組織構造に与える影響
従来の垂直・水平組織から垣根をなくした組織構造になる。
→中間管理職的な立場はなくなっていく
仕事の進め方に与える影響
従来、研究、開発、生産、マーケティングなど時系列的に分かれて機能していたものが、同時に遂行されるようになる。
組織の開放性の向上
情報ネットワークの発達により、ユーザが直接内部の部門や組織外との情報交換ができるようになる。
エンドユーザ主体の組織活動になる可能性がある
エンドユーザによる直接的組織外との情報交換により、エンドユーザ主体の経営活動になる可能性がある。
エンドユーザーコンピューティングの発達により、シャドーIT等による脅威も増加します。組織としてシャドーIT等の対応を定め、実態把握や安全に使用できる仕組みや利用者のセキュリティに関する意識やリテラシーを高める必要がある