第7章 事例5:カーネギー教育推進財団

Carnegie Foundation for the Advancement of Teaching

URL:http://www.carnegiefoundation.org/

1.はじめに

カーネギー教育推進財団(Carnegie Foundation for the Advancement of Teaching)は,1905年にアンドリュウ・カーネギーによって創設された歴史ある研究組織で,これまでの米国の教育政策に少なからぬ影響を与えてきた。現理事長リー・シューマン(スタンフォード大学教授)の強い要望で東部エスタブリッシュメントでの長い歴史を転換し,サンフランシスコ郊外に本拠地を移した。教師教育を行うプログラムCASTL(Carnegie Academy for the Scholarship of Teaching and Learning)では,大学での高等教育のスカラーシップに関する研究を取り分け推進している。知識メディア研究所(Knowledge Media Laboratory)に心理学者ハッチ博士と教育工学者飯吉博士(財団初の東洋人登用)をディレクターとして迎え,教育についての専門的教育におけるWeb活用の方策を探っている。

図7.1 カーネギー教育推進財団ホームページ

2.Webサイトについて

(1)概要

カーネギー教育推進財団ホームページを図7.1に示す。「Our Work」のリンクをたどると,この財団で行われているプログラムの一覧(図7.2)が示される。このサイトの中心的なページである。その中から財団の活動を、いくつかを紹介していく。

図7.2 「OUR WORK」のページ

1)CASTL

CASTL(Carnegie Academy for the Scholarship of Teaching and Learning)は、 カーネギー教育推進財団で今行われている一番大きなプログラムとのことである。高等教育と初等中等教育のプログラムに分かれており、高等教育は、3年目に突入している(図7.3)。

教師教育を行うプログラムとして,大学での高等教育のスカラーシップに関することで、研究中心で教える方がおろそかになっている現状があるので、教える力をどのようにのばしていくかを課題としている。

中心的な活動は、20〜40人の先生を公募しての、フェローシップである。お金と時間を用意して、3週間Foundationにおいて研修を行う。研修には,さまざまなカリキュラムが用意されている。教え方(ティーチングプラクティス)、ゴールを設定して、グループ学習などが含まれている。継続性・持続性に関しては、オンラインワークスペースでお互いの研究報告、データの交換を行っている。このページには、プログラムの紹介や、リソース(研究論文)などがある(図7.4)。

図7.3 CASTLのページ

図7.4 プログラムの紹介、リソースの紹介

2)Carnegie Classification of Institutions of Higher Education

Carnegie Classification of Institutions of Higher Education(図7.5)は、1973年から行われている歴史あるプログラムで,大学の分類を行っている。目的は、ランキングではなく、それぞれの大学が、アメリカの大学のどのような位置にあるかを見ることで、学生の選択の目安となったり、大学のアドミンが今後の運営においての指標を与えることにある。高等教育機関への情報技術革命の影響等もあり,分類の枠組みも含めて全面的に改訂中である。

図7.5 分類別の統計結果を示すページ

3)KML

 知識メディア研究所(The Knowledge Media Laboratory)のページを図7.6に示す。この研究所では,教授・学習プロセスの質を高めるためのテクノロジー利用について研究開発をしている。CASTLに参加している100人を超える教師たちのためにワークスペースをWeb上に提供し,彼らがティーチングポートフォリオを作成し、データベース化していく過程を支援している。

「Gallery of school teaching」は,教育を改善していく教師の試みをドキュメントしていくデータベースである。図7.7にログイン後のホームページを示す。教師のコミュニティの中で、授業に関してうまくいかないことを、ネットワークを介してどれだけ支援していけるか,すなわち「ナレッジビルディング」の過程を研究している。うまい先生たちの話ではなく、努力している先生たちの話を収集する。教育実践を人に見えるようにする。同僚に見せて批判してもらう。コミュニティの知識として積み重ねる。それらをいかに支援できるWeb環境を提供するか,様々な試みが見られる。図7.8に教師のポートフォリオのコレクション一覧(KML)の一部を示す。

図7.6 知識メディア研究所(KML)の紹介ページ

図7.7 KMLのホームページ(Login後)

図7.8 教師のポートフォリオのコレクション一覧(KML)

(2)大学教員によるティーチングポートフォリオの事例

CASTLに参加して,自らの教授方法をいかに改善していったかをカーネギー教育推進財団のホームページで公開している事例をここでは述べる。短大で音楽を教えている教員によるティーチングポートフォリオの事例である(図7.9)。

 コミュニティカレッジの音楽の先生は,音楽概論という授業を担当したが,生徒もやる気ない人気もないクラスだった。途中で放棄するドロップアウト学生も多かった。どうやって改善していくか,戦いの記録がポートフォリオとなっている。授業を、実際にクラスに出席する部分とオンラインで学習する部分など、いろいろな選択肢を用意するなどの改善を行った。図7.10に,いくつかの画面を例示する。The Dataでは,実際にどういうデータをとったのかといった評価の内容、カリキュラムの内容など、授業に関するあらゆるデータのアーカイヴへのリンクがある。

図7.9 ティーチングポートフォリオのページ(音楽の先生の例)

 

 The Project:構成メンバーの紹介  The Data:実践に関するデータ

THEMES:実践方法についてのさまざまな試み

 ディスカッション機能付コメントフォーム

図7.10 ティーチングポートフォリオの画面例

3.訪問聴取

(1)訪問日時2001年2月5日(月)午後2:00〜午後4:30

(2)応対者: Toru Iiyoshi, Ph.D.

       Thomas Hatch, Ph.D.

       Directors, Knowledge Media Laboratory

(3)聴取内容:

*カーネギー教育推進財団は,スタンフォード大学の広大な研究施設群の一角に借家する形でオフィスを構えていた。近い将来に独立したビルに移転を予定しているとのことで,新しいオフィスビルの完成予想模型が陳列されていた。

*Webの教育利用について,知識メディア研究所の飯吉主任とハッチ主任に説明を受けた。説明内容については,前述のWeb内容の報告に含めた。ハッチ主任は,心理学をベースにした研究関心を持っており,テクノロジーによってどのような影響があるのか,という観点で教育ノウハウの共有化を捉えている。一方の飯吉主任は,教育工学をベースにしており,人の知識処理や共有化を促進するメディアの開発に関心があり,NHKスペシャル「驚異の小宇宙:人体」のマルチメディア化プロジェクトでの経験から出発した研究者である。二人が異なるアプローチで互いに刺激しあっている様子が伺えた。

*事例を収集することから始めるという「現場主義」のアプローチは,ジョージルーカス教育財団(第4章参照)のアプローチと共通点がある。カーネギー教育推進財団では,発掘した事例を実践している人同士を結び付ける場を提供することで,互いに刺激を受け,啓発され,学びあう契機をクリエートしていくという面も持ち合わせている。

*飯吉主任には,事例4(第6章)で紹介したカリフォルニア大学バークレー校のWISEプロジェクトの紹介を受け,訪問聴取のお世話をしていただいたことを付記し,感謝の意を表したい。

目次に戻る


(財)日本放送教育協会(2001)『教育目的のホームページについての調査・研究報告書』NHK学校放送番組部からの受託研究、[鈴木克明・伊藤拓次郎・市川尚の共同執筆]