第5章 事例3:シャーマンオークス小学校

Sherman Oaks Community Charter School

URL: http://so.ca.campusgrid.net/home

1.はじめに

シャーマンオークス小学校(Sherman Oaks Community Charter School)は,ブライアン校長率いる児童数500人弱の先進的小学校である。カリフォルニア州サンノゼ市の低所得者区に4年前に設立された小学校には,幼稚園児から4年生までが通っている。児童の約半数はスペイン語を母国語とする家庭に育つ。教師の半数がバイリンガルで,スペイン語と英語の二カ国語教育を推進。オープン型の教室,テクノロジー利用,総合学習などを特徴とし,ジョージルーカス教育財団(GLEF;第4章参照)でフィーチャーされ見学者が絶えない(我々も数多い見学者の仲間として歓迎された)。

図5.1 シャーマンオークス小学校のホームページ

2.Webサイトについて

シャーマンオークス小学校のホームページを図5.1に示す。まだ完成して間もないページであるのかどうかは、開設日時が記載されていないために不明であるが、ホームページ上の情報量はかなり少なく、活用されている雰囲気はあまり感じられない。内容としては、学校を紹介する簡単な情報と、クラス(授業も含む)からの情報があり、これは日本の学校からもよく発信されている情報である。特徴的な活動を多数おこなっている学校でありながら、Webの公開には力を入れていない(あまり必要としていない)のか、もしくは後述するGLEFの情報に依存しているのかもしれない。

このホームページには、先進的な要素はほとんど見られない。むしろ、日本の学校の平均的な学校ホームページの方が、情報が充実していると思われる。あえてひとつだけ挙げるとするなら、スタッフの一覧があって、各スタッフ全員の電話番号とメールアドレスがわかることであり、連絡がとりやすいことである。日本でも教員紹介や教員のメールアドレス/ホームページ一覧などがあり、さほど先進とは言えないが、スタッフ全員の電話番号の記載があるものは日本では見かけない。

 以下では、ホームページの左側にあるメニューの項目に従って、このWebサイトを簡単に紹介する。

「Art Gallery」では、図工の授業(the weekly art meetings)で書いたものを紹介している(図5.2)。作品の一覧が出てきて、作品をクリックすると、拡大して見ることができるだけである。

「Classroom」は、いくつかの教師が作成した学級ページがある(リスト項目には、すべての学級があるが、すべてにページがあるわけではなく、逆に現在あるのはまだ少数であり、あったとしても単なる挨拶だけの1ページで終っているものが多い)。その中でも特に4th GradeのMaria Ross先生のクラスでは、子どもたちの何人かが自分の名前のページを持ち、作品(写真と説明文)を載せている(図5.3)。

「Message from the Principal」には、校長からの挨拶文がある。また、ビデオ版も用意されている。「Mission Statement」は、学校のmissionが示されている。

「School Information」では、哲学や、プログラムの特徴(Program Highlights)、コミュニティや助成金の情報、交通案内が載っている。哲学としては、学習のモデルをリーダーシップと効果的な学習に焦点をあてた学習モデルを提供しているそうだ。

また、「Program Highlights」では、以下の7項目が紹介されていた。

・ 伝統的な教室の3分の1くらいの教室群と、教師や子どもたちにもっと多くの学習環境を提供するための大きな共有の部屋がある

・ それぞれの教室には料理のプロジェクトができる台所がある。

・ 屋外には、作業や遊びができるように、科学研究室や花壇、芝生がある。

図5.2 Art Gallery

図5.3 生徒の作品ページ(4th Gradeのクラスのページより)

・ 中庭には、子どもたちが演技を楽しむためのステージがある。

・ 子どもたちが学習に基づいて有意義な行動をとれるような、適切で実生活での応用していく探究活動を行う。

・ すべての子どもたちが最新技術を利用できる。

・ 第二言語習得のためのバイリンガル教育を行っている。

「Staff Directory」では、スタッフ全員の一覧があり、名前、所属、内線、メールアドレスの情報が紹介されている。

3.ジョージルーカス教育財団(GLEF)のドキュメンタリー

 シャーマンオークス小学校の活動に関する情報は、同校のホームページよりも、ジョージルーカス教育財団(GLEF;本報告書第4章を参照のこと)が提供するドキュメンタリーに詳しい。GLEFからは、ドキュメンタリー記事が9件、インタビューが13件(3人)提供されており、その一覧を表5.1に示す。学校で力をいれている教師の現職教育や、指導方法の特徴、コミュニティとの関わり、学校の環境(建物、システム)、バイリンガル教育、電子メールの活用など、多岐にわたる内容となっている。

表5.1 GLEFから公開されているシャーマンオークス小学校のドキュメンタリー一覧

ARTICLES

Sherman Oaks: Treating Teachers as Professionals
Sherman Oaks Community Charter School: Overview
Sherman Oaks: Where Community Participation is Truly Valued
School Practices that Support Positive Teacher-Student Relations
E-Mazing! Using E-Mail for Effective Use of Time
Assessment: No Single Measure Tells the Story of Student Achievement
Sherman Oaks Soccer Club: Building Unity One Game at a Time
A Home for Learning: The Design of Sherman Oaks
Sherman Oaks: Maintaining Languages, Not Eradicating Them

INTERVIEWS

Peggy Bryan on Professional Development
Peggy Bryan on Project-Based Learning
Peggy Bryan on New Teacher Recruitment
Peggy Bryan on Leadership as Partnership
Peggy Bryan on Schools As Communities
Peggy Bryan on Moving Theory to Practice
Sandra Villarreal on Second-Language Learning
Sandra Villarreal on School Architecture
Sandra Villarreal on Innovative Teaching and Learning Practices
Osvaldo Rubio on School Philosophy
Osvaldo Rubio on the School's Success
Osvaldo Rubio on Second-Language Learning
Osvaldo Rubio on Project-Based Learning

 

 GLEFでは、特にこの学校に力を入れてフィーチャーしており、School Leadershipという項目に上記のドキュメンタリーがまとめられている(図5.4、図5.5)。以下に、ドキュメンタリーから得た情報を整理して紹介する。これらの情報は、ほとんど学校のホームページからは得ることのできない内容である。

図5.4 School Leadership at Sherman Oaks(GLEFの特集)

図5.5 Sherman Oaks: Treating Teachers as Professionals(GLEFの記事)

■Sherman Oaks Community Charter School

1997年に設立した,K-4Schoolである(幼稚園〜4年生まで)。児童数は現在、466名。

■環境

4つの建物がある。ひとつは管理棟として、サポートスタッフ、カウンセラー、現職教育センターがある。あとの3つは、教室が入っている建物である。各建物には、1つのGreat Roomと呼ばれる広い共有の部屋を中心として(入口から入るとすぐにGreat Roomがある)、6つの教室があり、それぞれの教室は、Great Roomに対して開かれている。

各教室には、教師用ワークステーションが1台、大きなモニター、ビデオデッキ、子ども用WSも2〜3台設置されている。WSはすべてネットワーク接続(Internet;T1)である。Great Roomには、複数のネットワークコンピュータ、スキャナ2台、レーザーディスク2台、ビデオカメラ2クラスに1台、そして壁には、子どもたちの作品が飾ってある。台所もある。

■特色

(1) 現職教育(Daily teacher collaboration:日々の教師の共同作業)

 「midday blocks」と呼ばれる、毎日90分のPlanning & collaborationが、11:30〜13:00に行われる。校長とすべての教師が教師部屋に集合し、教育理論や実践についての討論、起きた(もしくは起きそうな)クラスの問題を解決しようとすること、カリキュラムについての議論、アドバイスの模索、激励、レッスンプランの反省や改善を行う。曜日ごとのスケジュールを以下に示す。

月、金:Personal Preparation

火 glade-level meetings 第4週目:dual immersion language meeting

水 alternate literacy and math trainings

木 alternate stuff meeting(cross grade)

校長が、iBook持参で授業をまわってみて、問題のありそうなところを質問として、その場でプリントして渡す。なるべく毎日すべての教室を訪問するようにしている。これはフォローアップディスカッションのネタとなる。

(2) 地域を巻き込んだ教育(Community Involvement)

児童・生徒、教師、校長、他のスタッフ、親、コミュニティのメンバーが、共同学習体となっている。教師は子どもたちのすべてを把握しておくために、家庭訪問を実施している。また家庭訪問や通常の協議のほかに、1年3回個々に親と面会をする。そして秋にコミュニティオープンハウスや、そして各年2回の「夜の子ども展示会」(student exhibition evenings)を開催する。

学校統治評議会のメンバーが、家族が学校に対してどんな関心・提案・考えを持っているのかを聞くために、1カ月に2つの家族と連絡を取っている。また、学校を作る前の事前調査として、80〜90件の家庭の要望を聞いて回った。その際にPACT(People Acting in Community Together)というローカルな問題にとりくむ、草の根的な、信頼ベースの組織を作った。

(3) Looping

 Looping(ルーピング)とは、2〜3年間連続で同じクラスの子どもを受け持つことである。学校が教師と子どもたちの間に積極的な関係を築くひとつの方法である。校長は、過去の経験(事例研究)から、Loopingは子どもたちによい効果があることを知っていたので、ルーピングを導入した。これにより、教師は新しい学期のときに、6〜8週間を子どもたちとのお互いの初対面の理解に費やさなくて済む。子どもたちにとっても、教師の手順や学習スタイルは既知である。また、ルーピングによって、子どもたちだけでなく教師と親との強い関係も築くことができる。親と教師との会話も楽であり、親は、教師の提案や彼らとの問題の共有に対して、いっそうオープンになる。教師ではなく、家族の友人となっていく。

(4) バイリンガル教育。Bilingual instruction(education):dual immersion

 英語とスペイン語の両方を学習するバイリンガル教育を行っている(カリフォルニア州はバイリンガル教育を廃止しようとしている)。教師が2人でペアを組んで、片方は英語を学習するスペイン語を母語とする子どもとの作業をし、もう一人は、スペイン語を学習する英語を母語とする子どもとの作業をする。お互いが両方のクラスで子どもたちに平等な責任であると考える。

(5) テクノロジーの浸透(Extensive use of technology)

 学習や教授のすべての場面において、テクノロジーが浸透(普及)している。例えば、電子メールは、すべてのスタッフをつなぐ、すばやく(fast-breaking)ニュースを流すためのコミュニケーションツールとして生活の一部となっている。Sherman Oaksでは、電子メールは、授業と学習の環境にとって本当に重要なことをやりとりするための、リアルタイムなコミュニケーションを助けており、電子メールがあらゆる情報を網羅している。

4.訪問聴取

(1)訪問日時2001年2月5日(月)午前9:00〜11:30

(2)応対者: Thom Antang (算数教育コーディネータ;初任教師アドバイザー)

       Peggy Bryan, Principal

       各クラスの担任の先生方,子どもたち

(3)聴取内容:

* この学校は設立から4年、現在24名の教員がいる。幼稚園から小学校4年生までを受け入れている。以前にもここに学校があったが、これが廃校になってから長い間この地域には小学校がなかった。シリコンバレーのベットタウンとしてこの地域の人口が増えるに従い,地域住民からの要望によって学校が再開することになった。

* ブライアン校長が集めた6人のスタッフによって学校の開校の準備がはじめられた。当初は,チャータースクールとしてではなく,革新的公立学校として準備された。地域特命校(コミュニティー・チャータースクール)に指定されたのは2000年の9月からである。

* 本校の特徴のひとつは教員間の情報交換、訓練などを全員参加の元に実施するため毎日正午(12時)から1時まで職員会議を行っている。昼食は11時半から12時まで。援助者(両親等)が子どもの昼食と昼食後の遊びを監督する一方で,全校の教師が昼食をともにし,打ち合わせを行う時間を保障している。曜日ごとに,学年内協議,異学年集団協議,算数指導法研究,特別協議などが計画的に行われている。「お金もかからないMid-day Blockがこの学校の大きな支えになっている。様々な目的で来校する見学者の一番の収穫」だとする。

* しかしアナウンスや事務連絡はこの場を使わず、常にメールで各教員のコンピュータに送信される。すべての教員は毎朝自分のメールをチェックしてその日のイベントや訪問客などの情報を知る。我々の訪問のことも「日本からの訪問者あり」としてスタッフ全員が知っており,訪問するクラスごとに先生方と直接お話をすることができた。各教室の教師の机にあるパソコンは常時電源が入れられており,メールでの連絡が瞬時に伝わるようになっていた。

* 教員の動機付けを高めるためにブライアン校長はいろいろな努力をしている。公共の学校は予算が限られているため、ブライアン校長は外部から研究費などを確保し、それで先生たちを学会に参加させたり、他のチャータースクールへ見学に行かせたりしている(派遣は2人が原則;話し合って,それを学校で報告するため)。また時々ビーチで寝袋をもって合宿をしたりすることもある。こういった活動が先生たちの団結心と向上心をつくり、教育活動の改善に対するモチベーションを高めることにつながっている。

* ここの学校の大きな特徴のひとつはバイリンガル教育である。この地域は外国人が多く、中でもスペイン語系の子弟らの幼稚園や小学校低学年における語学の問題は深刻である。ここではそれらの移民系だけにではなく、純粋な英語系の子供たちに対してもバイリンガル教育を徹底し、将来は英語およびスペイン語の両方を自由に使えるように育てたいとしている。スペイン語系の子どもに対しては,幼稚園および小学一年ではスペイン語で実施する科目の割合が多く、徐々に英語にシフトしていく。小学校4年生の段階ではそれぞれの割合が五分五分になるようにしている。常に研究動向にも目を配っており,カリキュラムは柔軟に運営されている。来年度は,幼稚園当初から五分五分に二カ国語に触れさせる実践を試みるとのことであった。

* やる気のある教員、さらにスペイン語で教えることができる教員のリクルートにも苦労している。訪問前年にスペインから2名先生をリクルートしたが、アメリカの教育に必要な情報などはここでOJTで教えている。通常は州の教育部が実施する教育フェアなどで説明会を行ったり、Webやビデオを見た人たちが応募してきたりするが、この地域の家賃の高さからなかなか実際にここで勤めることができる人は少ない。

* この学校の教育方針としては,バイリンガル教育の他には,芸術教育と算数とプロジェクト学習に力を入れている。柔軟性に富み、コンパチブルであり、学習意欲に富み、協力的であり協調性がある子供たちを育てようとしている。「頭が切れる」(Smartな)ことが必ずしも重要とは思っていない。問題を解決する能力(Problem Solving)、柔軟性(Flexibility)、そしてクリティカル思考(Critical Thinking)を育てたい。そしてそれを客観的に評価するマルチプルテストが必要と考えている。「夜の学習成果発表会」は,以前は年3回やっていたが,負担が重すぎて現在は年2回実施している。子どもたちにとっては,プロジェクト学習の成果を親やコミュニティーに対して堂々とプレゼンテーションするイベントであり,これによって,学校をコミュニティーに開いていく効果もある。

* 校舎のデザインも有名な建築家と教員が一緒に考えた。子供たちのふれあい、教師間の助け合い、相互評価、競争などを考慮して、従来の箱型の教室から中心に共通の広場がある光線状(拡散状)の形状を考えた。教室間には壁がなく、広場からすべての教室が見渡せる。音を遮断する必要がある場合はパーティションを閉めることができる。校庭もできるだけ広く確保した。自宅では遊ぶスペースもない子供たちがここではのびのびとしたスペースが与えられている。教室も従来のサイズよりも大きめに設計されている。カフェテリアはなく,かわりに広場で昼食をとるスペースを設けた。図書資料もパソコンも分散配置をしているため,図書室もパソコン教室もない。

* ブライアン校長は,訪問時には2年生のクラス担任として勤務していた。出産休暇中の教師の代わりが見つからず,「この学校での教師体験をこの際やってみたい」という本人の希望もあり,午前中はブライアン校長が担任に入り,午後には別の教師(我々を案内してくれたアンタグ先生)が子どもたちを見て,ブライアン女史は校長職に戻るとのこと。我々がクラスを巡回中に,一担任教師として出迎えてくれたブライアン女史は,最後に校長室でインタビューに応じてくれた。

* ブライアン校長にとって,今一番欲しいテクノロジーは「手のひらサイズの情報端末(パームトップ)」。これを学校に通う児童の親に持たせて,学校との連絡に使いたいと言う。子どもたちは,何の抵抗もなくパソコンやホームページを使っている(「second nature to them(彼らにとってはごく当たり前のもの)」との言葉が印象的であった)。一方で,メールアドレスは子どもたちには与えていない。「将来的には,子ども一人ひとりがメールアドレスを持って,学内のコミュニケーションから使っていくようになると思うが,私にとって,現在の優先順位は,親にパームトップを持たせることだ」と述べていた。

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(財)日本放送教育協会(2001)『教育目的のホームページについての調査・研究報告書』NHK学校放送番組部からの受託研究、[鈴木克明・伊藤拓次郎・市川尚の共同執筆]