第4章 事例2:ジョージ・ルーカス教育財団

George Lucas Educational Foundation(GLEF)

URL:http://www.glef.org/

1.はじめに

 米国のカリフォルニア州サン・ラファエルに事務所をもつ、ジョージ・ルーカス教育財団(The George Lucas Educational Foundation;略称はGLEF)は、映画監督のジョージ・ルーカスが1991年に設立した。非営利団体として、米国の学校における教育実践例を発掘・共有していく活動を行っている。Webサイトの公開はその一環であり、その他のプロダクト(本、ドキュメンタリーのビデオ、CD-ROM、ニュースレターなど)も手がけている。

図4.1 GLEFホームページ

2.Webサイトについて

(1)概要

図4.1にホーム(トップ)ページを示す。教師のためのサイトであり、子どもたちの利用はまったく想定されていない。教師をはじめとする学校関係者が、自分たちの教育活動をよりよいものにするためにサイトを利用するような、教師教育・現職研修(professional development)のためのサイトである。そのために、このサイトからは、教育に関するドキュメンタリーを中心としたコンテンツが提供されている。

現在進めてられているプロジェクトは、「Teaching in the Digital Age」と呼ばれ、新しいテクノロジー(Web、E-mail)に対応して教育の質の改善(学校改革やテクノロジーの有効利用)を行っていくためには、特にリーダーシップと教員研修が必要であるという考え方で推進されている。このプロジェクトは、学校管理者、大学教授、両親、教育委員会、企業・コミュニティの仲間、出版社、児童・生徒自身などの新しいルールづくりを提唱しており、各々について、注意点や出発点となるドキュメンタリーを載せることで、議論の材料を提供している。

(2)サイト構成

 サイトは6つの部分(メニュー)から構成されており、これらのページがすべてデータベースと連動している形となっている。表4.1に、サイトの構成を示す。サイト構成については、ホームページ上の「About our new Web site」に解説がある。ホームページや各ページからは、ページ上部についているバナーにより、下記のページへ常に飛ぶことができるようになっている。

表4.1 サイト構成

HOME

最初のページであり、新しく追加された情報を提示

TOPICS

発信しているドキュメンタリーを、分野別に分類整理したインデックスにより提供

FEATURE STORIES

特別なテーマで、ある学校等に焦点をあてて、関連するドキュメンタリーを提供

SEARCH

サイトにあるコンテンツのキーワード検索

ABOUT THE FOUNDATION

財団(Web発信元)の紹介

PRODUCTS

ビデオ、CD-ROM、雑誌等の紹介など

(3)ドキュメンタリー

このサイトの主要なコンテンツは、ドキュメンタリーである。ドキュメンタリーは、記事の形態をとるものと、インタビューの形態をとるものの2種類がある。ドキュメンタリーは、データベースと連動した形で提供されており、研究分野における分類や、特集からの参照、キーワード検索等からアクセスすることになる。例えば、特集の場合では、図4.2のようにドキュメンタリーの記事がリストされて提供される(この場合は、School Leadershipに関するSherman Oaks Community Charter Schoolの特集)。ドキュメンタリーのタイトルの最初にカメラのマークがついているものは、ビデオを見ることが可能な記事であることを示している。また、記事のリストには、その中身に関する若干の解説が添えられている。

図4.2 特集記事のリスト

a) 記事(articles)

教育に関わるドキュメンタリーを記事としてまとめているものであり、このサイトから提供されている情報の大部分はこの形式である。画面を図4.3に示す。各記事には、動画や画像が用意されている(動画がないものもある)。動画はナレーション入りで、その記事に関連した説明が行われる。QuickTimeムービー形式で用意されており、QuickTimeプラグインが必要となる。また、記事には、関連リンクが、特集(feature)、人物(people)、組織(organizations)、リソース(resources)、トピックス(topics)、記事(articles)の分類で用意されており、関連した項目をすぐに参照できるように配慮されている。例えば、組織について知りたいなら組織の項目のリンクをたどれば、組織の詳細な情報を得ることができる。リソースは、本の紹介等のことである。人物の部分をクリックすれば、著者のプロフィールと、当人が書いた記事すべてのリストが表示される。

図4.3 記事の例

b) インタビュー(interview)

少数ではあるが、インタビュー形式でドキュメンタリーが用意されているものもある。画面例を図4.4に示す。インタビューの内容を参照するには、Video(ビデオ)、Audio(音声) 、Text(テキスト)の3種類を選択することができる。ビデオは実際にインタビューの様子を視聴することができ、音声は音のみを聞くことができ、テキストでは、インタビューで話し合われた内容をすべてテキストで参照することができる。

図4.4 インタビューの例

(4)TOPICS

「TOPICS」のページは、このサイトのインデックスであり、どのような種類の情報(ドキュメンタリー等)が公開されているかを一覧するのに適している。そこで、インデックスの一覧を表4.2に示す。かなりの範囲にわたっているが、それぞれのカテゴリについて、記事(Articles)、人(People)、組織(Organizations)、リソース(Resources)に情報が分類されて提供されている(ひとつのカテゴリにこれらすべての分類があるとは限らない)。カテゴリ間での重複はあるが、それぞれ2〜10数個の記事がある。これらは,ジョージルーカス教育財団が「重要」であると考える教育改革のキーワードを示すものとして興味深い。


表4.2 TOPICSの分類項目一覧

TEACHING(教授)

Career Transfers to the Teaching Profession(職種変更で教育職へ)、Colleges of Education(教育大学)、Higher Education(高等教育)、Mentoring(すぐれた指導者)、Multi-Age Classrooms(複式学級)、New Teacher Support(新しい教師支援)、Preservice Education(教員養成)、Professional Development(現職研修)、Professional Development Schools(現職研修学校)、Recruitment(教員採用)、Teacher Certification and Licensing(教員免許)、Teachers as Leaders(リーダーとしての教師)、Team Teaching(ティームティーチング)

CURRICULUM(カリキュラム)

Art and Music(美術と音楽)、Language Arts(国語)、Math(算数・数学)、Media Literacy(メディアリテラシー)、Science(理科)、Social Studies(社会)

CONNECTING COMMUNITIES(コミュニティとのつながり)

Adult Education(成人教育)、Business Partnerships(産学協同)、Community Partnerships(地域共同)、Community Services in Schools(学校におけるコミュニティサービス)、Learning Community(学習コミュニティ)、Libraries(図書館)、Museums(博物館)、Parent Involvement(親を巻き込む)、School-to-Career Programs(学校と職業を結ぶプログラム)

LEARNING(学習)

Accountability(アカウンタビリティ)、Alternative Assessment(第二の評価法)、Assessment(アセスメント)、Bilingual Education(バイリンガル教育)、Cooperative Learning(協調学習)、Emotional Intelligence and Character Education(情意的な能力と人格教育)、Multiple Intelligences(知能の多面性)、Portfolio Assessment(ポートフォリオ評価)、Project-Based Learning(プロジェクト学習)

STUDENTS(児童・生徒)

Rural Schools(田舎の学校)、Second-Language Learners(外国語の学習者)、Students Considered At Risk(危機にひんする子どもたち)、 Students with Disabilities(障害児)、Urban Schools(都市部の学校)

REINVENTING SCHOOLS(学校再生)

Charter Schools and School Choice(チャータースクールと学校選択)、Equity Issues(平等という問題)、 Scheduling and Time(スケジュールと時間)、School Architecture and Design(学校建築とデザイン)、 Site-Based Management(学校単位の運営)、Technology Integration(技術の統合)


3.訪問聴取

(1)訪問日時2001年2月2日(金)午前10:00〜11:30

(2)応対者:Dr. Milton Chen, Executive Director

(3)聴取内容:

* ジョージルーカスが抱える会社はLucas Film, Lucas Art, Lucas License, Lucas Learning, THXの5つである。これとは独立した教育支援目的で設立されたのがこのジョージルーカス教育財団である。サンフランシスコ郊外のハイテクオフィスビルに,これらの関連会社(いずれも営利)とともにオフィスを構えている。(近く移転の予定)

* 活動の集約は「教師のベストワークを5分間のフィルム(ビデオ)セグメントに記録し、ウェブおよびビデオテープにて配信することである。」この活動は主にルーカスフィルムの映像制作のノウハウを生かしたもののようである。目標は毎年50校紹介していくことである。

* チェン氏に言わせれば「我々の役割は記録(Document)と配信(Disseminate)である。」GLEFは補助金も出さず,自らが実践者と提携して新しい授業実践を作るわけでもない。良い(とGLEFが考える)実践を発掘し,それを広げるための活動を展開している「紹介者」に過ぎない。「我々は紹介者です。新しい教育実践のイメージを持ってもらえるように,我々が得意な<映像>を駆使して,ジャーナリスティックに物語を伝えます」とチェン氏は語った。

* キーポイントはチームワークとコミュニケーションそしてプロジェクト指向型学習。GLEFが良しとする教育の特徴を示すキーワード群は「GLEFアジェンダ」と呼ばれ,何を先進事例として取り上げてフィーチャーするのかの判断基準となっている。良しとするキーワードを中心に事例を集め,「事例に語らせる」アプローチをとる。映画づくりをとおして培った「多様な芸術の統合」や「チームワークの重視」などを理想の教育像としてかかげている。

* 現在ブロードバンド対応に備えて準備中。とりあえずはビデオテープとCDで配布している。革新的な教育実践(K-12)の収集と普及啓蒙には,映像でイメージをもってもらうことが大切。Webサイトの運営だけでなく,ニュースレターの発行,ビデオや書籍,CD-ROMの制作など多方面からアプローチしていく。スタッフ約20名のほとんどは技術系。教育実践の発掘には,外部からの専門委員を充てている。

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(財)日本放送教育協会(2001)『教育目的のホームページについての調査・研究報告書』NHK学校放送番組部からの受託研究、[鈴木克明・伊藤拓次郎・市川尚の共同執筆]