第3章 事例1:メディアワークショップ・ニューヨーク

Media Workshop New York

URL: http://www.mediaworkshop.org/

1.はじめに

 Media Workshopは、Bertelsmann Foundationが1994年に設立した非営利団体で、米国で行っている3つのプロジェクトのうちのひとつである。数年間の学校での仕事の経験を基礎としているばかりでなく、Center for Children and Technologyの指揮のもとに研究も行ってきた。教師が、教授や学習の実践へ新しいメディアや技術を統合していくことを支援している。よい教育を拡大する努力の中で、Media Workshopは、何かを作ることよりも、新しいメディア・技術と教授・学習との接続の過程に焦点をあてて活動してきた。ワークショップが中心的な活動である。

図3.1 Media Workshop New Yorkのホームページ


2.Webサイトについて

 このサイトでは、Media Workshop New Yorkの活動やその成果が紹介されている。図3.1にホームページを示す。また、サイトの構成を表3.1に示す。Media Workshopでは、ワークショップの成果物はほとんどがWeb ベースで作られており(教師のポートフォリオなど)、その作品が紹介されている。また、ワークショップについても、簡単な紹介がある。オンラインワークショップとしてその内容自体がすべてホームページ上に公開されているものや、ワークショップの活動の拠点としての役割をホームページが果たしている場合もある。Webが記録的な役割を果たしているだけでなく、実際の活動の場として活用されている。以下、サイト構成(表3.1)の項目に従って内容を紹介していく。

表3.1 サイトの構成

HOME

ホームページ(図3.1)

SERVICES

ワークショップの紹介をしている

OUR WORK

ワークショップの成果物の紹介をしている

RESOURCES

リソースのアーカイヴなどがある

WHO WE ARE

発信者の紹介がある

(1)SERVICES

 SERVICES(サービス)のメニュー画面を図3.2に示す。このページには、Media Workshopで行われている教育を対象としたワークショップが紹介されている。ほとんどは、文章による紹介であるが、中にはその手順がわかるものもある。行われているワークショップは、Professional Development Services(現職教育向けのサービス)と、New Media Seminar(ニューメディア・セミナー)の2つに分けて紹介されている。ワークショップについては、子ども中心(student-centered)で、 共同的な(collaborative), 調べを基本とした(inquiry-based)方略をとっている。以下では、この組織で行っている活動の紹介も兼ねて、提示されているセミナーを概観する。

1)「Professional Development Services」

a) Critical Basics

3日間で行われるワークショップ。メディア活用法(評価方法、指導案を含む)を身に付けることをめざしている。内容としては、インタラクティブCD-ROMのような新しいメディアに慣れることや、さまざまな形式の情報へのアクセス・分析・発信を行ったり、新しいメディアのリソースの評価方法、評価基準を考えたり、教室の最新のメディアを活用して調べ学習の設計を行う。オンライン版のセミナーも用意されており(図3.3)、実際にそこから学ぶこともできる。学校における研修の最初のステップとしてMedia Workshopが推奨しているセミナーである。

図3.2 SERVICESのメニュー画面

図3.3 Critical Basicsワークショップのオンライン版(第1日目)

b) Design Teams

1学期から1年のフォローアップ活動である。Critical Basicsにおいて獲得したアイデアやスキルや方略を実行してみるという位置付けである。Media Workshopのスタッフが、参加者と共同で計画を立てたり、小さなカリキュラムのプロジェクトの実行・評価することを通してガイドする。それにより、学級経営や、教授と学習の実行、技術の利用などについて継続的に議論していく。毎週か隔週で1度のミーティングを持ち、全15回程度で、約45時間分が計画されている。

c) Teacher Consultation/On-Site Support

 Critical BasicsやDesign Teamsのフォローアップ活動である。学習計画の構築や、教師の専門的な視点からのニューメディアの利用の支援に焦点をあてる。それぞれのプロジェクトにつき最低でも5日間を要する。

d) Whole School Planning

ニーズの評価や、テクノロジー・メディアの計画の構築、学校の状況にあったスタッフ研修のプランの設計、教師と学校と学区と親のミーティングを促進することを含めた総合的なサービスを提供する。

e) Administrative Consulting/ Technology Planning

 技術の入れ替わりによって使えなくなるようなテクノロジーの計画ではなく、Media Workshopは、コミュニケーション、ミッション、メディアやテクノロジー資源、学校やコミュニティーベースの支援、スタンダードの開発、スタッフの教育についての包括的な計画を指導する。特定のカリキュラムや学習目標を支援するための、柔軟だが焦点のあった長期間のテクノロジープランの開発と実行と改善をすることで、学区や学校のリーダーを助けていく。

2)「NEW MEDIA SEMINARS」

授業で新しいメディアを利用するためのセミナー(主に操作方法を実践的に身に付ける)。デモや実践的な経験、ディスカッション等を通して、新しいメディアを利用して自分たちのカリキュラムの質を高める方法を身に付ける。

a) InternetT

 このワークショップは、インターネットについての「教師のための概観」を提供し、教室で利用できる鍵となる点やリソース、活動を吟味するものである。インターネットについての歴史的かつ重要な部分の概要や、Webを実際に探索することを含む。Webの探索を通して、Webリソースを評価する基準を作成する実習も含んでいる。

b) InternetU

このワークショップは、InternetTで学んだ概念を基にして、参加者に、シミュレーション、探検、スレッド型掲示板、チャットや他のバーチャルコミュニティなど、オンラインのインタラクティブなサービスを紹介する。参加者は、特定の領域に組み込むことのできる小さなカリキュラムのプロジェクトを作成するために、これらのツールを生徒と共に使うことのできるような様々な方法を模索していく。

c) Multimedia Authoring

キッドピクスやパワーポイントなどのマルチメディアオーサリングツール(リニアとノンリニア)の教室での使い方を学ぶ。参加者には、マルチメディアプロジェクトやカリキュラムモジュールの設計・制作の文脈の中で、これらのツールを紹介する。

d) Web Publishing

 オーサリングツール(Claris HomepageやDreameweaver)を用いた小さなWebサイトの設計と制作の方法を学ぶ。参加者は、効果的な設計や、教師がつくったページと生徒が作ったページについての評価に関する基準についての議論を行う。

e) Custom Workshops

 カスタマイズできるワークショップを提供している。例えば、「Using Technology to meet Standards」、「Exploring and Evaluating Online Educational Resources」、「Creating Web Quests」(オンライン版あり)、「Creating a Collage in Photoshop」(オンライン版あり)などである。これらのワークショップは、1〜12時間の間で、放課後、研修期間、学校が休みの期間、週末に開催される。

f) About Our Media Lab

Media Workshopが提供する最新技術のラボが紹介されている。20名収容で、マッキントッシュのデスクトップ機と、それぞれにデジタルカメラが用意されている。部屋にはスキャナと、2つのプリンター(カラーと白黒)、大量のCD-ROMやビデオのコレクションもある。

3)「Special Programs and On-line Editorials」

「Tech Camp 2000」は、2000年の夏に、中学生を対象として、8日間かけて行われたワークショップである。50名を超える参加者があった。Webベースの学習やフィールド研究で、環境のさまざまなトピックを収集し、異なった社会的バックグランドを持つ仲間と共同して学習する。Tech Campに参加して得た情報に基づいてウエブサイトを構築する方法を学ぶ。Tech Camp2000のページ(図3.4)では、その目的等をはじめ、実際に子どもたちが作成したホームページ(図3.5)が紹介されており、その中では環境問題について、水、動物、大地、植物などの観点から自分たちがまとめたことを整理している。

図3.4 Tech Camp2000のページ

図3.5 Tech Campに参加した生徒たちが共同作成したページ

「Current Issues and Trends in Education」は、参加者が教育に対するテクノロジーのさまざまな観点や、カリキュラムに新しいメディアやテクノロジーを統合する実践的な方略を探究するワークショップである。ホームページには、秋と春の2回分が紹介されているが、両者とも内容的にはほとんど違いはない。このページには、ワークショップの流れが簡単に紹介されているので、春に行われたワークショップの内容を表3.2に示しておく。また、参加者が製作したポートフォリオも公開されている。その一例を図3.6に示す。

表3.2 Current Issues and Trends in Educationの内容

セッション1

Technology Integration: Scope and Issues--参加者たちの教育での新しいメディアやテクノロジーの経験を議論することにはじまり、管理者の視点からどのように教師を支援していくかを考えてみる。

セッション2

Introduction to Multimedia Literacy--マルチメディアリテラシーの導入として、簡単なパワーポイントの作成(リニア)を行う。

セッション3

Hyperlinking and Non-Linearity: An Introduction to the Internet--インターネットの導入としてWWWのハイパーリンクやノンリニア性、学習に対してどのような効果があるかを学ぶ。

セッション4

Non-Linear Multimedia Projects--パワーポイントを利用して、ノンリニアな活動を設計することで、ストーリーボードの重要性を学ぶ。

セッション5

Basic Web Production / Designing Your Digital Portfolio--Webページの基本的な作成方法(Netscape Composerを利用)やポートフォリオの枠組みの作成を行う。

セッション6
(土曜日)

Working Session--終日を使って、学習活動やポートフォリオの作成作業を行う。

セッション7

Technical Administration and Grant Writing--教師や学校、学区のための様々な援助金を得る機会について学ぶ。

セッション8

Inquiry Based Research and the WWW--Inquiry Baseの学習を支援するために、WWWの使い方を中心に学ぶ。

セッション9

Assessing Student Projects--参加者が、管理者の立場にたって、教師に対してどのようにテクノロジーを統合していくためのワークショップを設計し、広めるかを議論する。

セッション10

Assessing Student Projects--教師がプロジェクトベースの学習を構築し、自分自身の評価の基準を準備することができるようになる。

セッション11
(土曜日)

Working Session--ポートフォリオ完成へ向けての作業を行う。

セッション12

Portfolio Presentations--参加者は、最終ポートフォリオを提出する。一人の仲間のポートフォリオを批評する。

 

図3.6 教師のポートフォリオ(Current Issues and Trends in Educationより)

(2)OUR WORK

 ワークショップの参加者たちが制作したもの(成果物)が紹介されている。紹介の方法は図3.7に示すように(ここでは、High SchoolのMultimedia Curriculumを例としている)、それぞれの作品が、その紹介文とともにリストされている形である。大きくは、「K-8 Curriculum」、「High School Curriculum」、「Special Projects」、「Works-In-Progress」に分かれている。以下、それぞれで発信されている内容について説明する。ここで紹介されている作品のほとんどは、Media Workshopのサーバー内に置かれている。

図3.7 ワークショップの作品を紹介しているページの例

1)K-8 Curriculum

「Class Web Sites/Student Showcase」では、子どもたちの作品を載せた教師のデジタルポートフォリオのページや、クラスのページなどが公開されている。中には、授業計画が載っているものもある。子どもたちの作品は絵などをスキャナで取り込んだものが多い。

「K-8 Multimedia Curriculum」では、マルチメディアソフト(お絵かきソフトやプレゼンテーションツール)を活用した授業の計画と、その作品の例が紹介されている。例えば図3.8は、小学校3年生に3種類の比較級(例えば、sad, sadder, saddest)の絵をKidPixで書かせるという授業についての計画で、児童たちは3つのスライドを作成・構成して、スライドショーを作った。

図3.8 授業計画のページの例(K-8 Multimedia Curriculumより)

「Teacher Portfolios」では、Current Issues and Trends in Educationに参加した教師たちのポートフォリオが公開されている。

「K-8 Web Curriculum」では、Web上に作成したオンラインカリキュラムを公開している。オンラインカリキュラムとは、ここではWeb上に学習を進める手順や教材(リンク)がすべて提供されているものである。例えば、Friends Web Questという調べ学習を行うページ(オンラインカリキュラム)が公開されている(図3.9)。友人の重要性をWeb上にすでに公開されているページを見ながら理解し(リンクが張ってある)、文通相手(Web上のペンパルを見つけるためのページを利用)にメールを書くというものである。共同学習のパートナーとの相互評価のための手順や評価シートも用意されている。なお、このWeb Questの作り方については、Media Workshopよりオンライン版のワークショップが公開されており、その手順に従って構成されたものとなっている。

図3.9 Friends Web Quest(K-8 Web Curriculumより)

2)High School Curriculum

「Multimedia Curriculum」では、a Microsoft PowerPoint Projectで作成した教師のパワーポイント作品をダウンロードして参照することができる。指導計画が紹介されているものもある。また、これとは別にマルチメディアを利用した授業実践例を載せているものもある。

「School Web Sites/Brochures」では、生徒や教師が作成した学校のホームページを紹介している。

「Web Curriculum」では、K-8で紹介したWeb Questをはじめとする、さまざまな教師が作成したオンラインカリキュラムが公開されている。

3)Special Projects

「The writing workshop」は、オンライン上のワークショップで、ニューヨークの中学校(District 6)の生徒のために作られている(図3.10)。作品は、On the Bridge literary magazineという雑誌に実際に載ることになる。writingの手順(Prewriting→Drafting→Revision→Editing/Proofreading→Final Draft/ Publication)や、雑誌に載せるためのwritingの4つの形式(Descriptive、Expository、Narrative Writing、Persuasive )が解説されている。

図3.10 The Writing Workshop

4)Works-In-Progress

 現在製作中(ワークショップが進行中)の作品を見ることができる。常に変化しているので、頻繁に見に来ることで、その過程がわかる。学校のホームページなどが公開されている。

(3)RESOURCES

このページでは、Media Workshopで所有するリソースのアーカイヴなどが紹介されている。

「Edu-Tech News Digest」では、学校で新しいメディア・技術を利用している新聞記事の一週間ごとの概要をメールマガジンで紹介している(weekly news summaries)。メールのアーカイヴもあり、キーワードによる過去記事の検索が可能となっている。

 「K-12 Web Resource」では、教師のためのおすすめホームページへのリンク集で、General Education、Humanities、Science、Math…などの分類に従って提供されている。なお、Just for Kidsとして、K-8の子どもたちのためのリンク集もある。

「Online Workshop」では、行われているセミナーのオンライン(Web)版がいくつか提供されている。


3.訪問聴取

(1)訪問日時2001年1月31日(火)午後1:30〜4:00

(2)応対者: Ms. Donna Schnupp, Program Director

(3)聴取内容:

* Bertelsmann財団の傘下にあるNPOで同財団が運営費、活動費を100%出資している。そのため、他の資金源から活動費を得ることを制約されている。スタッフ12名(うち5名は非常勤)。スタッフには教師、博物館教育担当官、企業スタッフ、コミュニケーション技術教育スペシャリスト、ウェブデザイナー、Qualified Educatorなどの経験を持つものがいる。ニューヨーク州の学校教師がメディアテクノロジーを利用した教育実践を支援する活動を中心に展開している。マンハッタンの中心地タイムズスクエアに程近いのビルの23階に、ランダムハウス(出版)、Bertelsmann Music Group (BMG)などの系列会社とともにオフィスおよびIT研修室を構えている。

* 毎年、現在4つのパートナースクールを公募・選出し、共同プロジェクトを実施している。通常学校の先生たちは子供の世話や家事などがあるため残業する習慣がないので、訓練に参加させるためには財団から残業代を支払うことも予算の一部としてカバーしている。予算はベルテルスマン財団から25000ドル/年で、そのうち三分の一までを教師の残業代にあてることができる。機材の購入にもおよそ三分の一までを使うことができる。公募の際に予算計画を審議している。

* 学校教師の相談役として、教師によるテクノロジー導入を支援するために外部団体から派遣する支援者を「Staff Developer」と呼んでいる。パートナースクールとは別に、個別の契約(On-site Support契約)に基づいて、放課後の2時間程度(週1回ずつ1学期間派遣されるなど)、主に個別指導を軸に、ある特定の作業について指導・助言する。クラス運営や授業方法への助言、インターネット上の情報を探す手伝い、あるいはホームページ制作などの技術的サポートなどを行う。

* 夏休み期間などに2週間程度子どもを集めて、インターネットを利用した活動を中心に実施する集中講座「Tech Camp」が好評である。たとえば、空気汚染と環境問題をテーマに、午前中の取材活動の成果を午後にホームページにまとめていくなどの活動を通して、インターネット活用方法を集中して学ぶ。成果の一部がホームページにも公表されていて、宣伝にも一役かっている。

* 放課後の課外活動として、学校のホームページ作りやニュースレター作りなどの目的をもって集まって活動するグループを「Tech Team」と呼んでいる。Mediaworkshop NYでは,学校との契約に基づいて,放課後集まってくる子どもたちのグループに,施設利用と機材の貸し出し,専門職員のアドバイスを提供している。数カ月単位での活動の成果として,学校のホームページの立ち上げや,記事の更新などの実績をあげている。

* 教師が作成したリンク集を使って子どもが調べ学習をする活動を「Web Quest」と呼んでいる。米国では広く認知されている言葉で、多くのホームページに用いられている。子どもの興味をかきたてるようなシナリオを想定できるかどうかが、活動の成否を大きく左右する。特命探偵団としての任務(調査課題)を持たせ、調べた結果をまとめさせる。「WNET(ニューヨークのPBS局)のものがアイディア豊富でフォーマットも使いやすくお勧め」とはMediaworkshop NYのシュナップ女史の弁。バークレーのプロジェクトWISEでもこの考え方が活かされている。ニューヨーク市内から選ばれたモデル校にスタッフを派遣してメディア活用のOJTを行っている。

* 参考データ:NY市内では百万人の人口で2万5千人の学童、8万人の教員がいる。

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(財)日本放送教育協会(2001)『教育目的のホームページについての調査・研究報告書』NHK学校放送番組部からの受託研究、[鈴木克明・伊藤拓次郎・市川尚の共同執筆]