第2章 背景:デジタルコンテンツを取り巻く米国の状況

ここでは,2000年12月に発表された2つの米国レポートから,デジタルコンテンツを取り巻く米国の現状について報告する。

1.米国教育省レポート(2000年12月)

 米国教育省が2000年12月に公刊したレポート「eLearning-世界一流の教育をすべての子どもたちの指先にー」では,1996年にクリントン政権によって定められたアメリカ国家目標が学校におけるコンピュータとインターネットの整備に大きく貢献したことを報告している。
 その上で,国家目標を改訂し,新たなゴールを設定すべきであると提案している。新たなゴールでは,「デジタルコンテンツ」の拡充がうたわれている(ゴール5)。また,ブロードバンドを学校へのインターネット接続の新スタンダードとして位置づけ,マルチメディア素材に対応した通信品質を確保することを重視している(ゴール1)。新ゴールと1996国家目標は表2-1の通り。

表2-1. 新ゴール(2000.12教育省レポートの提案)

  1. すべての子どもと教師が,教室,学校,地域,家庭で情報技術(IT)にアクセスする。
  2. すべての教師が,子どもの高い学力水準到達を効果的に援助するためにテクノロジーを利用する。
  3. すべての子どもが,テクノロジーと情報についてのリテラシースキルを身につける。
  4. 研究と評価によって,指導と学習におけるテクノロジー利用を次世代に躍進させる。
  5. デジタルコンテンツとネットワークアプリケーションによって,指導と学習を一新させる。

■参考: 1996国家目標(クリントン政権)■

  1. すべての教師は,子どもがコンピュータと情報スーパーハイウェイを使って学習できるようにするために必要なトレーニングとサポートを受ける。
  2. すべての教師と子どもは,教室で最新のマルチメディアコンピュータにアクセスする。
  3. すべての教室を情報スーパーハイウェイに接続する。
  4. 効果的なソフトウェアとオンライン学習リソースが,すべての学校のカリキュラムの必須部分となる。
出典:米国教育省レポート(2000年12月)eLearning: Putting a World-Class Education at the Fingertips of All Children(http://www.ed.gov/Technology/elearning/)


2.ウェブによる教育審議会レポート(2000年12月)

 2000年12月,ウェブによる教育審議会(Web-based Education Commission)は,米国大統領と議会に対する最終レポート「学習のためのインターネットの力:約束から実行へ」を発表した。このレポートは,小中学校におけるインターネット利用のみならず,大学や生涯学習,あるいは企業内教育への応用もカバーしたものである。
ヒアリングを重ねた結果,インターネット利用で教育者が重視していることとしては,

1) 学習を教室中心から学習者中心に転換できること
2) 個々の学習者のニーズと長所に焦点をあてられること
3) 生涯学習を現実のものにできること

の3つを挙げている。
 これらを踏まえて,審議会が答申したことは以下の通りである。連邦政府に対しては,ブロードバンドアクセスの拡充を第1の課題とするように強調している。

1) 強力なインターネット資源,とくにブロードバンドアクセスを,すべての学習者が経済的に問題なく使えるようにすること。
2) あらゆる教育者と管理職に適切なトレーニングと支援を提供し続けること。
3) インターネット時代に人はどのように学ぶかについて研究する新しい枠組みをつくること。
4) 高い水準を満たす教育コンテンツをオンライン上に作成すること。
5) 新しいもの(イノベーション)の足かせになる古い規制を撤廃し,いつでもどこでも自分のペースで学習できるように刷新すること。
6) オンライン上の学習者を保護し,プライバシーを守ること。
7) 継続と新規を含めて,新しい試みに十分な財源を確保すること。技術は資金を必要とし,Webによる学習もその例外ではない。

 ウェブ上のコンテンツについては,その品質を問題視し,次のように述べている。

「Web上に今日提供されているコンテンツのうち,一定量は優れたものであるが,多くは二級品である。コンテンツ開発者と教育者に求められているのは,良質のオンラインコンテンツを制作し,流通させ,カタログを整備し,目次を作り,評価することである。このマーケットにおける理想と現実のギャップを認識し,断片的な授業案を完全な科目にまとめ,Web上の高等教育機会という望みを現実のものとし,この新しい環境の質を保証していかねばならない。(p.69)」


 表2-2に,審議会レポートがまとめた,オンライン情報の提供者別の特徴を紹介する。1999年時点では,K-12の13%にあたる学校で何らかのオンラインカリキュラムが使用されているという調査結果を報告し,良質なコンテンツの整備が急務であることを強調している。

表2-2. オンライン情報の提供者別特徴

提供者 長所 短所 事例 URL
政府機関 ・専門性・高品質 子ども向きに開発されたとは限らない NASA
連邦議会図書館
教育卓越資源
教育省GEM
http://learn.ivv.nasa.gov
http://memory.loc.gov
http://www.ed.gov/free
http://thegateway.org
博物館
科学館
・稀少価値,独自性,独特
・専門性
・展示は常時所蔵品の5?10%
・最近の調査では59%がWeb上に学習素材を提供中あるいは提供予定
デジタル化に要する費用が高い セントルイス科学センター
全米自然歴史博物館
探検館
ボストン美術館
http://www.slsc.org
http://amnh.org
http://exploratorium.edu
http://www.mfa.org
専門団体 ・教育課程基準へのリンク
・教師からの情報
・掲載されるかどうかはホームページ利用者の推薦のみに頼っているものがある

全米科学教師協会
全米教育協会

http://www.nasta.org
http://www.nea.org
教師 ・経験の幅
・教育的に敵したまとめ方/取捨選択(学年,質など)
・品質管理の問題,審査を経ない応募に対する知的所有権の問題 Rennebohm Franz先生の教室
Donn夫妻の古代史サイト
http://www.psd267.webnet.edu/~kfranz
http://members.aol.com/donnandlee
子ども ・創造性
・子どもの視点
・主体性の価値
・審査されている場合高い基準
・品質管理の問題,審査を経ない応募に対する知的所有権の問題 ThinkQuest http://www.thinkquest.org
出典:Web-based Education Commission (2000) The power of the Internet for learning: Moving from promise to practice, pp.70-71 (http://interact.hpcnet.org/webcommission/).

 

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(財)日本放送教育協会(2001)『教育目的のホームページについての調査・研究報告書』NHK学校放送番組部からの受託研究、[鈴木克明・伊藤拓次郎・市川尚の共同執筆]