第1章 調査結果の概要 <キーワード解説>

 ここでは,本研究で浮かび上がってきたキーワードを列挙し,それに解説を加える形で調査結果の概要を報告する。

■Mediaworkshop New York■--ドイツ系放送メディア資本「Bertelsmann」の在米財団( Bertelsmann財団)が単独出資する非営利団体の名称。1994年設立。スタッフ12名(うち5名は非常勤)。ニューヨーク州の学校教師がメディアテクノロジーを利用した教育実践を支援する活動を中心に展開している。マンハッタンの中心地タイムズスクエアに程近いのビルの一室に,ランダムハウス(出版),Bertelsmann Music Group (BMG)などの系列会社とともにオフィスを構えている。

■Partner Schools■-- Mediaworkshop New Yorkが資金援助を行って,新しい形の学校教育を例示するために公募・選出した学校。4つの学校と複数年にわたってパートナーシップを組み,資金援助だけでなく,技術援助や広報活動を支援している。教師の研修(放課後や休日出勤)のための時間給を支払うためにも,資金を使うことが許されている。

■Staff Developer■--学校教師の相談役として、教師によるテクノロジー導入を支援するために外部団体から派遣される支援者。契約に基づいて、放課後の2時間程度(週1回ずつ1学期間派遣されるなど)、主に個別指導を軸に、ある特定の作業について指導・助言する。参照:On-site Support

■On-site Support■--外部団体の援助者(staff developer)が、学校に出向いて技術支援などを行う契約。クラス運営や授業方法への助言、インターネット上の情報を探す手伝い、あるいはホームページ制作などの技術的サポートなどを行う。

■Tech Camp■--夏休み期間などに2週間程度子どもを集めて、インターネットを利用した活動を中心に実施する集中講座。たとえば、空気汚染と環境問題をテーマに、午前中の取材活動の成果を午後にホームページにまとめていくなどの活動を通して、インターネット活用方法を集中して学ぶ。

■Tech Team■--放課後の課外活動として、学校のホームページ作りやニュースレター作りなどの目的をもって集まって活動するグループ。Mediaworkshop NYでは,学校との契約に基づいて,放課後集まってくる子どもたちのグループに,施設利用と機材の貸し出し,専門職員のアドバイスを提供している。数カ月単位での活動の成果として,学校のホームページの立ち上げや,記事の更新などの実績をあげている。

■WebQuest■--教師が作成したリンク集を使って子どもが調べ学習をする活動。子どもの興味をかきたてるようなシナリオを想定できるかどうかが,活動の成否を大きく左右する。特命探偵団としての任務(調査課題)を持たせ、調べた結果をまとめさせる。「WNET(ニューヨークのPBS局)のものがアイディア豊富でフォーマットも使いやすくお勧め」とはMediaworkshop NYのシュナップ女史の弁。バークレーのプロジェクトWISEでもこの考え方が活かされている。

■WISE■--Web-Based Integrated Science Environmentの略。wise(かしこい)を意味する。カルフォルニア大学バークレー校教育学部のリン教授を中心にしたプロジェクトで,全米科学財団(NSF)のサポートを受けている(1998-2001,$1,187,265)。「科学を身近に」「思考過程を目に見えるように」「互いに学びあう」「自主性を高める」の4つの目標のもとに,小5から高校レベルの理科教育教材の開発とWebを通しての無料(会員制)提供,理科教師相互の情報交換を促進するためのホームページを運営している。

■Project Library■--これまでに開発された理科教育の単元(プロジェクト)のうち,WISEスタッフによって整備されて良質なものと認められたものをリストしたページ。調査時点では以下の12トピックが収められていた。各トピックには,1?3のプロジェクトがあり,短いもので2時限,長いもので8時限相当の活動に必要なリンク集,ワークシート,理科実験,探究活動などがパッケージ化されている。

Deformed Frogs
Earthquakes!
Genetically Modified Foods
HIV
Houses in the Desert
How Far Does Light Go?
Malaria
Plants in Space
Scientific Controversy
Thermodynamics
Water Quality
Wolves

■The Next Shake Project■--WISEのプロジェクトライブラリのトピック「Earthquakes! 」に収められている「次の地震はいつどこに来るか」を予測する単元案。小6?中2向けの地球科学単元として,5時限分の活動が提案されている。地震の経験を振り返る導入部に始まり,次の地震を予想する活動,Web上での断層(falt)調べと危なっかしい(falty)予想,学校の耐震性調査などを通して,当初の予想を見直しながら,自分の生活と地震の関わりを考えさせる。情報を収集する前に「自分はどう思うのか」についてノートをくり返し書かせることで,学習に積極的に関与するよう促す。また,Web調査に際しては,科学的根拠,データ収集の方法,情報提供者の信頼性を確かめることの重要性を強調している。子どもたちがホームページを見る感覚で学習を進めることができ,Web上の情報へのリンクもシームレスに扱われている。また書き込んだメモや予想はWISEのデータベースに蓄積されていくので,教師があとで点検できる。授業ごとの指導案(教師向けの解説)も準備されているなど,典型的なWISEプロジェクトの一例。

■Project Editor■--提案されているプロジェクト(探究型学習活動)を地域や子どもの実態にあわせて教師がカスタマイズするためにホームページ上に準備されている機能。提案されているプロジェクトの流れに何かを追加したり,一部を削除または変更することができ,既存の単元計画をもとに独自の単元編成が簡単にできるようになっている。まったく新しいプロジェクトを提案するためにも使うことができる。参照:WISE

■ワークショップパッケージ■--KQED(サンフランシスコ)は全米教育団体との連携で,「メディアリテラシーについてのワークショップ」を年1回開催。本年1月の第1回は150人をこえる小中高校の教師が集まった。3日間の集中ワークショップの参加者には,300ページを超えるワークショップパッケージ(資料集)を配付し,明日からの実践に役立てられる情報を提供した。

■George Lucas Educational Foundation■--映画監督ジョージ・ルーカスが設立した教育財団。革新的な教育実践(K-12)の収集と普及啓蒙を目的に,Webサイトの運営,ニュースレターの発行,ビデオや書籍,CD-ROMの制作などを手がけている。サンフランシスコ郊外のハイテクオフィスビルに,LucasArts,Lucas Learning(いずれも営利)などとともにオフィスを構えている。スタッフ約20名のほとんどは技術系。教育実践の発掘には,外部からの専門委員を充てている。

■GLEF Schools■--ジョージ・ルーカス教育財団(GLEF)が特定のテーマについての取材をするために探し出した学校。これまでに14のテーマについて,約50校を紹介してきた。一つのテーマにつき,10校前後をホームページ上に紹介し,そのうち3-4校には,カメラクルーを入れて映像取材を実施している。

■GLEF Agenda■--ジョージ・ルーカス教育財団(GLEF)が良しとする教育の特徴を示すキーワード群。何を先進事例として取り上げてフィーチャーするのかの判断基準となるもの。良しとするキーワードを中心に事例を集め,「事例に語らせる」アプローチをとる。映画づくりをとおして培った「多様な芸術の統合」や「チームワークの重視」などを理想の教育像としてかかげている。

■紹介者■--ジョージ・ルーカス教育財団(GLEF)は補助金も出さず,自らが実践者と提携して新しい授業実践を作るわけでもない。良い(とGLEFが考える)実践を発掘し,それを広げるための活動を展開している「紹介者」に過ぎない。「我々は紹介者です。新しい教育実践のイメージを持ってもらえるように,我々が得意な<映像>を駆使して,ジャーナリスティックに物語を伝えます」とはエグゼキュティブディレクター チェン氏の言葉。

■Sherman Oaks Community Charter School■--ブライアン校長率いる先進的小学校(幼稚園から4年生まで)。カリフォルニア州サンノゼ市の低所得者区に4年前に設立。児童数500人弱の約半数はスペイン語を母国語とする家庭に育つ。教師の半数がバイリンガルで,スペイン語と英語の二カ国語教育を推進。オープン型の教室,テクノロジー利用,総合学習などを特徴とし,GLEFでフィーチャーされ見学者が絶えない(我々も数多い見学者の仲間として歓迎された)。

■Pencil Lab■--コンピュータ専用教室はおかずに,各教室に分散配置するという主張で用いられた比喩。「コンピュータ専用教室は置きません。子どもが使いたい時に使えるように教室に配置します。だって,鉛筆教室(Pencil Lab)なんてありますか,ないでしょう。」とはシャーマンオークス小学校長ブライアン先生の言葉。

■Great Room■--パソコンや図書資料等をおいて,複数のオープン型教室から共同で使うスペースのことをシャーマンオークス小学校では,「大きい部屋Great Room」と呼んでいる。建物の入口から「大きい部屋」に直接入り,そこから開閉式の壁を隔てて6つの教室が半円型に広がる建築になっている。

■Mid-day Block■--昼食を挟む11:30から1:00までの90分の呼称。シャーマンオークスでは,援助者(両親等)が子どもの昼食と昼食後の遊びを監督する一方で,全校の教師が昼食をともにし,打ち合わせを行う時間を保障している。曜日ごとに,学年内協議,異学年集団協議,算数指導法研究,特別協議などが計画的に行われている。「お金もかからないMid-day Blockがこの学校の大きな支えになっている。様々な目的で来校する見学者の一番の収穫」だとする。

 

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(財)日本放送教育協会(2001)『教育目的のホームページについての調査・研究報告書』NHK学校放送番組部からの受託研究、[鈴木克明・伊藤拓次郎・市川尚の共同執筆]