市川尚・鈴木克明(1999)「日本における小・中・高等学校WWWホームページの調査研究〜黎明期における実態の把握と発信内容の分析〜」『日本教育工学会誌(日本教育工学雑誌)』22(3), 153-165


日本における小・中・高等学校WWWホームページの調査研究
-黎明期における実態の把握と発信内容の分析-

Web Site Contents Survey of Japanese Elementary and Secondary Schools: Status-Quo of the Early Years

市川 尚
Hisashi ICHIKAWA
東北学院大学大学院人間情報学研究科
Graduate School of Human Informatics, Tohoku Gakuin University
〒981-31仙台市泉区天神沢2-1-1
2-1-1 Tenjinzawa Izumi-ku, Sendai, 981-31 Japan

鈴木 克明
Katsuaki SUZUKI
東北学院大学教養学部
Faculty of Liberal Arts, Tohoku Gakuin University


要約
 本研究は,黎明期における日本の小・中・高等学校ホームページを悉皆調査した報告である.1995年8月から1996年8月まで全3回実施し,各々の発信内容を全て調べた.件数は1年間で98件から603件(6倍)となり,1日1.4件以上のペースで伸びていた計算になる.第1回調査では,独創的なホームページを同定した.第2回調査では,発信内容のカテゴリ分けを行った.また,ホームページの一般型を校種別に作成した.第3回調査では,対象ホームページをすべて収集した.カテゴリ件数とその推移を把握すると共に,ファイル数や容量も調査に含めた.どの校種も1割未満の学校が全体の5割にあたる情報を発信していた.また,公開目的の枠組みを作成し,発信内容を分析した.高校は学校(広報)レベルの発信が多いのに対し,小学校は授業レベルの発信が多かった.教科別等の発信では,情報,図工・美術,理科,社会が多かった.
キーワード:インターネット,ホームページ,初等中等教育,情報発信,悉皆調査

Summary

The purpose of the study was to investigate status-quo and characteristics of Web uses among Japanese primary and secondary schools in its early years. Three whole sample surveys were conducted in August 1995, January 1996, and August 1996, trying to locate all the Web sites of Japanese schools, via uses of Web site listings and search engines. It was found that 98, 251, and 603 Web sites were located at the time of each survey, respectively. The ratio of the site increase was 1.4 sites per day on the average. All of the pages were then examined by looking at them manually, in order to find unique Web uses, to categorize the contents of each site, to identify a "prototypical" site for each school level, among others. Since all pages were collected using an auto-pilot software in the third survey, quantitative analyses were made possible, including the number of pages and total file size of each site. The purposes of Web uses were also analyzed into a matrix, finding more administrative uses in high schools and more classroom uses in elementary schools. Web uses were categorized into subject matters, that resulted Information, Science, and Social Studies as being top three uses.
Keyword:Internet,Web Sites,Primary-Scondary Schools, Information Publishing,Whole-Sample Survey


1. はじめに

1.1. 研究の目的

 本研究の目的は,黎明期における日本の小・中・高等学校によるホームページの発信内容等の実態を,悉皆調査・分析することにあった.日本では,1995年ごろからインターネットを教育へ導入する試みがはじまった.インターネット利用の中でも,WWW(World Wide Web)上でのホームページ公開による情報発信が電子メールと並ぶ主たる応用例となっている(市川 1997;後藤 1997).
 例えば,大阪教育大学が提供している「インターネットと教育」リンクリストの増加率は,1996年2月に8校/週,1996年8月に17校/週,1997年2月では31校/週と,リスト開設から常に右上がりで上昇しており,増加率は半年毎で2倍近い伸びであったと報告されている(越桐 1997).また,100校プロジェクト対象校が最終的にすべての学校(111校)でホームページを公開したように(IPA・CEC 1997),各プロジェクトでもホームページ公開は必須課題となっている.
 ホームページは,従来の教育には有り得なかった学校からの世界的な情報発信を可能にしている.しかし数の上では膨大になったホームページだが,「公開されているホームページを巡ってみると,非常に質的なばらつきが大きい(p.238)」との指摘もある(中川ほか 1997).このばらつきは,各々が発信内容に関して試行錯誤を繰り返している結果であろう.「現状では,ページ構成・編集・運営に至るノウハウを扱ったベストな参考書が存在しない(p.254)」(中川ほか 1997)ことからも,学校ホームページをどのように構築・利用していけばよいのか,検討を加えることが早急な課題である.
 そこで,本研究では,WWWホームページの構築を支援するための基礎的な研究として,小・中・高等学校ホームページの実態を明らかにする目的で,調査・分析を行った.

1.2. 過去の調査研究とその問題点

 日本の小・中・高等学校を対象としたホームページ調査には,越桐(1997)が自ら公開しているリンクリストに登録されている学校を対象として実施したものがある.件数等の数量的調査と,ホームページ管理者へのアンケート調査が中心であった.また,100校プロジェクト事務局と大阪大学人間科学部教育システム学講座が,1995年11月に100校プロジェクト対象校にアンケート調査したものがある1).この調査はインターネット全般についてを調査範囲としたが,ホームページについても,発信内容や作成に携わった人が誰かなどについての質問項目が含まれていた.
 これまで行われてきたホームページ調査は,アンケートが中心であり,ホームページ自体を調査対象とし,発信内容を分析したものは少ない.アンケート調査は,管理者の苦労等のホームページに載っていないことを知る上では有効であるが,実際にホームページに載っている内容を,なるべく客観的に把握する必要性も指摘されている.例えば,「サイバースペースの地誌学」2)と題するホームページでは,インターネット空間を数量的,構造的,あるいは社会的に測定し,可視化するための仮想地理学を提唱し,さまざまな測定ツールや統計データを収集している.
 インターネット先進国の米国においても,学校におけるホームページ利用の正確な実態が把握できている状態にはない.米国教育省と教育研究改善局による米国公立学校のアンケート調査報告書(U.S. Department of Education 1997)では,1996年秋時点でWebへのアクセスが可能な学校が80%あり,70%の学校では児童・生徒が利用できる状態になっていると報告している.しかし,ホームページ自体を調査対象とし,発信内容などの分析を試みたデータは,ERICにも登録されていない.
 ホームページ自体を調査対象とし,発信内容や活用法に触れたこれまでの研究は,事例紹介がほとんどであった(市川・鈴木 1996-1997,1997a).しかし例外的には,日米の14の高等教育機関から公開されているホームページの現状把握と評価を目的とした研究がある(西村ほか 1996).発信内容をカテゴリにわけ,実用性等の観点から得点化して評価したり,使いやすさの側面について調査したもので,示唆に富む.また,西森(1996)は,米国の初等中等学校から公開されているホームページ130校分の調査を行った.発信している情報の種類についての全体的な傾向を捉えることを目的として,また優れた実践例を発掘することも同時に期待している.クリッカブルマップの使用やフォームの有無等の技術的側面からと,教師の自己紹介等の内容的側面から検討を加えようとした.
 ホームページを活用した独創的な教育実践を紹介することは意義深い.しかし,更新が頻繁なホームページの場合,再び同形のホームページには出会えない可能性があるため,ある時点でのホームページの内容のスナップショット記録を残しておく必要性も指摘されている3).刻々と変化するホームページ利用の動向を把握するために,半自動的に量的な調査を継続させるための共通指標や手続きの提案も始まった(FAGRELL & SORENSEN 1997).

1.3. 「ホームページ」の定義

 ホームページとは,ブラウザを起動したとき最初に表示されるページや,ひとまとまりとなったWWWコンテンツの最初に表示されるページを指す言葉4)である.しかし,日本には,最初のページだけでなく,WWWコンテンツ全体をホームページと呼ぶ習慣ができている(エスプリ 1997).本稿では,ホームページという用語を,コンテンツ全体を指すという後者の意味で使用する(英語のWeb Page,Web Siteに相当する).よって,ひとつの学校ホームページの調査範囲は,そこから発信されている情報(ページ)すべてを含むものであった.

1.4. 調査概要

 小・中・高等学校ホームページの実態を把握するために行った調査の概要は以下の通りである.
(1)公開されている件数を把握した.
(2)発信内容をカテゴリで整理した.
(3)各調査のカテゴリ件数を比較検討した.
(4)独創的な活用をしているホームページを発掘した.
(5)発信内容を一般型という形で整理した.
(6)公開目的の枠組みを作成し発信内容を分析した.
(7)教科ごとの発信の頻度を調査した.
(8)調査対象のホームページをすべて収集した.
(9)ファイル数等,内容以外の量的な側面も調査した.

2. 調査方法

2.1. 調査期日

 調査は,1995年8月から1996年8月までの1年間に3回実施した(市川・鈴木 1996a, 1996b).各調査期日は以下の通りであった.
・第1回調査:1995年8月16日〜18日(3日間)
・第2回調査:1996年1月17日〜23日(7日間)
・第3回調査:1996年8月16日〜19日(4日間)
 ただし第3回調査に関しては,件数調査と発信内容の概要把握のみの期間であり,その後にホームページの収集作業を続けた.補充とリンク修復作業は,1997年2月までかかった.

2.2. 調査手順

(1)検索
 日本全国の小・中・高等学校から公開されているホームページを,見つけられる限り検索した.検索には特に大阪教育大学の「インターネットと教育」リンクリストが,ページの充実度や更新の頻度からみても有用であった.各調査で使用した検索サービスを表1に示す.調査対象は,その学校に所属する関係者によって制作・公開されているホームページだけとした.例えば,鹿児島水産高等学校のホームページでは,同地域にある他の学校をリストにして紹介していたが,紹介されている学校からの発信ではなかった.この場合は,鹿児島水産高等学校のみを調査対象とし,その他の学校は対象外とした.
(2)ホームページ収集
 検索後,第3回調査ではホームページを収集した.調査の効率化と量的調査が目的であった.これにより常に変化し続けるホームページの記録が残せ,さまざまな側面からの分析を後日行うことを可能にした.
 収集には指定したホームページを自動的にローカルディスク上に再現するオートパイロットソフト「波乗野郎」(B.U.G制作,ver.1.0)を使用した.30文字を越えるURLを指定できなかったり,収集が途中で止まったりするなどの欠点はあったが,ディレクトリ構造をそのまま再現するため,このソフトを選択した.とりこぼした部分の補充収集には「Local Internet Builder (LIB)」(鶴薗賢吾氏制作のフリーウェア,ver0.82 )を利用し,筆者が残りのホームページを手作業で収集した.
(3)発信内容の分析
 内容の分析は,すべてのページを一つひとつ見てまわって調べていくという手法で行った.各ホームページでは表2の調査項目について調べ,データベース化した.発信内容以外にも,責任者の提示や更新の頻度などの項目を調査した.個人のページについては,存在しているかどうかのみを記録し,その内容については調査範囲外とした.



3.調査結果

3.1. 件数(第1,2,3回調査)

 調査の結果,検索されたホームページの件数推移を図1に示す.ホームページの件数は1995年8月で98件,1996年1月で251件,1996年8月では603件であった.1年間で6倍にも膨れあがり,小・中・高等学校のホームページ公開は急速に増加していた.増加率は第1回調査と第2回調査の間が1件/日,第2回調査と第3回調査の間では1.7件/日と加速度も増していた.なお,複数の校種にまたがる学校は,その校種のうち一番上位に属する学校として扱った(例えば小中学校は中学校扱いとした).



3.2. 責任者の提示(第1,2,3回調査)

 各学校の最初に表示されるページに責任者の提示があるかどうかを調べた結果を図2に示す.ページの一番下の部分に責任者への連絡先(E-mailアドレス等)やリンクを提供することがWWWの通例4)となっている.
 第1回調査の時点では,まだホームページの基本的なエチケットが守られていなかったことが読み取れる.しかし,国際的にもエチケット自体が確立しておらず,浸透していなかったとも考えられる.第2・3回調査ではほぼ9割を越えていたことから,ホームページ公開がはじまって1年後には,ほぼ責任者提示のエチケットは確立されたと言えるだろう.



3.3. 更新の頻度(第1,2,3回調査)

 更新日が提示されていたホームページについては,調査日と更新日の差を更新の頻度として調べた.結果を図3に示す.ホームページは頻繁に更新されていることがより望ましい.この頻度は,ホームページの活用度合の指標と見ることもできる.
 更新を表示しているホームページの中では約5割(全体の約2割)が,1ヵ月以内に更新していた.頻繁に更新されているようにも受け取れるが,熱心に更新しているホームページだからこそ更新日を表示しているという可能性もある.3回の調査の推移を見ても,ほとんど変化がみられなかった.制作年月日と最終更新年月日を作品に加えておくことはウエブのエチケット4)であるが,更新日提示なしが5割以上と多く,このエチケットは定着していなかった.



3.4. 言語(第1,2,3回調査)

 ホームページで使用している言語を調査した結果を図4に示す.日本の学校から発信されているホームページであるから,作りやすさや見に来る人たちのことを考えても,全般的に日本語主体で作られているのは当然のことである.小学校においては,日本語を使用している割合が次第に増えてきていた.ホームページの件数が増加するにつれて,まず日本語のページを用意しようとする小学校の割合が増えたことが,主たる要因であろう.
 中学校・高等学校においては,英語を用意しているホームページが4割ほど存在していた.その中には,授業の一環としてホームページを英語化しているところや,海外を視点に置いた発信を行っているところもある.一方で,小学校には低学年向けに,「ひらがな」表示のオプションを用意しているホームページがあった.



3.5. ファイル数・ファイル容量(第3回調査)

 第3回調査では,収集したホームページのファイル数と容量を調査した.ファイル数の合計は85,264で,学校数で割った平均ファイル数は141(SD=250)であった.ファイル数は,HTMLファイルと画像ファイルの合計であり,その他のファイルは含まれていないが,集計の都合上,ファイル数にはディレクトリ数も含まれている.ファイル容量は,合計で1,225MB,平均容量は2,031KB/学校(SD=4,073)であった.
 ファイル数とファイル容量ともに,平均値とSD値のバランスに示されるように,ごく一部の学校が大容量のホームページを公開しており,一般的な学校の公開するホームページは,ファイル数,容量ともに,平均値を大きく下回っていた.中央値は,ファイル数が59,ファイル容量が705KBであった.この傾向は,ファイル数,ファイル容量とも,各校種で共通に見られた.図5に,小学校のファイル数の分布をその代表例として示す.



 ファイル数の平均は,小・中・高等学校の順に,148(SD=280),120(SD=196),150(SD=258)であり,校種別に大差はなく,中学校が若干少ない程度であった.ファイル容量の校種別上位校を表3から表5に示す.校種ごとの全容量のうちの50%を表中の学校だけ(いずれも1割未満)で占めていた.
 ファイル容量の平均値は,小・中・高等学校の順に,2,637KB(SD=5,745),1,700KB(SD=2,808),1,843KB(SD=3,347)であった.小学校が圧倒的に大きく,1ファイル当たりの容量は,小学校が18KB/ファイルである一方,中学校が14KB/ファイル,高等学校が12KB/ファイルであった.小学校は画像などを多用しページ単位の容量が多く,逆に高等学校はテキスト主体の発信であることがわかった.



4.分析

4.1. 発信内容

 ホームページの発信内容のカテゴリ分けを行ったものを表6に示す.カテゴリは,第1回の調査において,ホームページの発信内容を見ながら,帰納的に分類枠を作成し,第2回調査において修正を加えたものである(市川・鈴木 1996a).表6のカテゴリとその内容の例示をみると,日本全国の小・中・高等学校ホームページから発信している内容が広範囲に渡っていることがわかる.発信内容のカテゴリは,類似したもの同士を集めて上位カテゴリにまとめ,それを第一カテゴリとし,詳細な内容を示す項目を第二カテゴリとして分けた.



4.2. 各調査のカテゴリ件数の比較

 各調査の第一カテゴリ件数の推移を図6に示す.「学校紹介」と「リンク」は常に多く,ホームページ公開当初から,発信内容の中心的存在であったと言える.「その他」も3割近くあり,ホームページの発信内容が多岐に渡っていたことが読み取れる.また,ほとんどのカテゴリに増加傾向が見られ,特に「学校の内容」「活動」が大きく伸びていた.第1回調査時には「学校紹介」が最頻カテゴリであったが,第3回調査では「活動」が最も多くなっていた.学校の紹介と同程度に,学校で行っている活動を紹介することが重視されてきたようである.唯一,「プライベート」は減少していた.



4.3. 独創的なホームページ活用の発掘

 独創的な活用をしているホームページを多数見つけることができた.例えば,授業実践の報告や,ホームページ上で行われている共同プロジェクト,子どもたちによる情報発信などがあった.これらの紹介については割愛するが,市川・鈴木(1996-1997;1997a)に紹介している.

4.4 小・中・高等学校ホームページの一般型

 第2回調査では,第1カテゴリごとの件数の多いもの上位5つを一般型とし,校種別に一般型を提案した(市川・鈴木 1996a).小学校ホームページの一般型は図7のようになった.



 さらに第3回調査では,第2カテゴリの件数の多い順上位5つをホームページの一般型とした.全体ならびに校種別の一般型は表7のようになった.全体の一般型に入るカテゴリは,最低限必要な情報とみなすことができる.多くのホームページが載せているということは,紹介しやすい,役に立つなど,何らかの利点があると考えられるからである.
 校種別にみると,小学校は「とりくみ」が5割と最も多く,子どもたちの活動紹介に重点がおかれているという特徴があった.中学校では「行事」が最も多いが,次に「地元」の情報や「とりくみ」の紹介が上位にきていた.一方で,高校では「クラブ」が最も多い一方で,「組織」や「沿革」などが上位にきており,学校組織の紹介に重点が置かれていたようである.


4.5. ホームページ公開目的

 第3回調査では,第2回までの調査結果などをもとにホームページ公開目的の枠組みを作成し,その枠組みを使用してホームページの発信内容を調査した.枠組み作成においては以下の2つの資料を参考にした.
 100校プロジェクトでは,その募集要項に「インターネット利用企画例」として,(1)情報収集,(2)情報交換,(3)共同学習,(4)ネットワーク・カンファレンス,(5)情報発信他を示している(IPA・CEC 1994).WWWに限らず,ネットワークを活用できる企画を列挙し,網羅したものである.また,豊福(中川ほか 1997)は,学校ホームページの意義として表8の4つを挙げている5).豊福は,学校ホームページの意義を簡潔にまとめており,これは公開目的の分類枠を考える基礎となった.



 100校プロジェクトの利用例と比較すると,「(1)情報発信」は(b)デジタルリソースアーカイヴや(a)広報に入り,「(2)情報交換」「(3)共同学習」「(4)ネットワークカンファレンス」が(c)コラボレーションに入る.「(1)情報収集」にあたる項目が,豊福の表(表8)には見当たらないが,例えばリンク集のように情報収集を行うために利用することもあるので,公開目的として新たに加える必要があった.さらに個人のページを設けて個人的な情報を発信している場合についても公開の目的として加えた.こうしてできあがったのが,表9である.



 広報は学校代表者の立場からの案内や紹介なので「学校レベル」,アーカイヴ・コラボレーション・収集は,主に授業・学習目的で使うものなので「授業レベル」,そして,個人で発信する「個人レベル」があり,公開目的には3つのレベルが存在する(表9最左列).授業レベルの公開には3つの目的があるが,目的とする情報の流れが異なる点に注目した.図8に示すように,アーカイヴは発信,コラボレーションは受発信,収集は受信であり,情報の流れに着目することにより,ホームページの利用目的も明確になると考えられる.



 さらにホームページ利用の教育的な意義は,情報主体(子ども,教員,共同体)によっても異なるので,それぞれの公開目的に対して,情報主体の次元を設けた.表8のうち,残りの「(d)学校コミュニティの窓口」に関しては,広報やアーカイヴに入ったり,表9のC列がコミュニティの窓口というイメージであるため,別項目として挙げる必要はないと判断した.共同体とは,主に学校コミュニティを形成する外部の人たち(卒業生,保護者,地域の人々)を含む一般を指す.
 以上の公開目的の各分類それぞれに当てはまる情報発信を行っている学校数の割合を図9に示す.図中の「2A」などは,公開目的の分類枠(表9)の記号に対応している.



 広報目的の情報は全校種とも最も多く,ほとんどの学校で広報に該当する何らかの情報を発信していることになる.授業レベルでは,中学校・高等学校に比べて,小学校からの発信が目立つ.一方で,地域コミュニティを視野に入れている例は,高等学校に多い.総合的にみると,ほとんどの場合は,小学校か高等学校が両極端に位置し,その中間が中学校という位置付けである.高等学校が広報的な学校レベルのホームページの公開,小学校は授業のとりくみなど授業レベルの公開をより多くしている傾向は,前節で述べたカテゴリごとの調査結果を裏付けるものであった.
 授業レベルの発信に関しては,公開目的はアーカイヴが圧倒的に多く,WWWが最も得意とする外へ向けて情報を発信する目的にホームページが使用されていることがわかった.その反面,共同学習などの情報交換にホームページを活用する例は少なく,今後の取り組みが待たれる利用方法であることもわかった.情報主体については,子どもの発信が教員の発信を上回っていた.教師の指導のもとで,ホームページが子ども主体の情報活動に活用されている実態が明らかになった.

4.6. ホームページ教科別利用

 教科ごとの発信の割合を図10に示す.これらの割合では,授業レベルの発信のみの数字である(広報等に属する発信は含まれていない).教科等では図工 ・美術(15%),理科(15%),社会(15%)が続いた.これらは情報が発信しやすい教科であることが伺える.また,発信内容には,授業実践例の紹介,子どもたちの作品発表,画像データベース等があった.教科別に独立してページを構えている学校もあった.教科等の発信は小学校によるものが多かった.総合的な学習では,情報(19%)が最も多く,特にインターネットを導入した結果の報告が目立った.インターネットはもともと情報の分野に属す(コンピュータを扱う)ことから全体的に多いのは自然である.また,特別活動では,クラブ(23%)や学級(14%)レベルからの発信にも力を入れていることがわかった.



5.まとめと今後の課題

 本研究では,黎明期における日本の小・中・高等学校ホームページ実態を調査した.発信内容をカテゴリで分類・把握し,一般型や公開目的,教科の観点からも検討したことで,ホームページの構築を支援するための基礎的なデータを得ることができた.特に公開目的に関しては,その枠組みを提案した.さらに1996年8月時点における小・中・高等学校ホームページをすべて収集したことで,今後,記録としての価値も高まると思われる.
 本研究をその基礎として,今後いくつかの方向に研究を展開することが求められる.その第一は,小・中・高等学校ホームページ構築ガイドラインの作成である.特にホームページ使いやすさの側面(市川・鈴木 1996c)からは,インタフェースやユーザビリティ研究を踏まえる必要がある.また,内容の側面からは,先進国アメリカのホームページを調査し,日本のホームページ活用と比較検討した研究(市川・鈴木 1997b,西村ほか 1996,西森 1996)が参考になるだろう.
 第二は,検索サーバの提供である.収集したデータの有効利用として,教科・公開目的ごとに検索をかけ,その情報を発信しているホームページがリストされるようなサーバを構築する.収集したデータそのものをアーカイブとして公開することは,著作権上の問題があるとしても,検索サーバが提供するリンク集は,学校ホームページ構築者にとって,便利な参考文献となるだろう.
 第三は,調査手法の改善である.ホームページが膨大になってきたので,短期間で調査をするための方策が問われる.ホームページの自動収集はその一つの手段であるが,今回の調査ではソフトの性能やネットワークインフラの問題で,収集が失敗におわり,補充に時間をとられてしまった.トラフィックに配慮しつつ,相手の迷惑にならないような収集方法等を検討する必要がある.

注記

注のホームページアドレスは,すべて1998年5月9日現在のものである.
1)山内祐平(1995)「インターネット活用調査アンケート集計結果[URL=http://www.hus.osaka-u.ac.jp/esthome/yamauchi/100/~AL.html]
2)DODGE, M. (1997, 1998). The Geography of Cyberspace. Centre for Advanced Spatial Analysis (CASA), University College London, UK.[URL=http://www.cybergeography.org/geography_of_cyberspace.html]
3)越桐國雄(1997)「インターネットの教育利用の現状'97.1 -学校・学級のWebページから-」[URL=http://www.osaka-kyoiku.ac.jp/educ /enq97/enq97.html]
4)Webエチケット日本語版(1996.9)[URL=http:// www.togane-ghs.togane.chiba.jp/netiquette /webetqj.html] 5)豊福晋平(1996)「学校ウエブをつくる」[URL=http://KIDS.glocom.ac.jp/eduwoods /schoolweb/index. html]

参考文献

エスプリ(1997)『Web Building パワーガイド』ソフトバンク
FAGRELL, H. & SORENSEN, C.(1997).It's life Jim, but not as we know it! A paper presented at WebNet97, Toronto, Canada.
後藤邦夫(監修)(1997)『インターネット実践事例集』日本家庭教育新聞社
市川尚(1997)「インターネット教育実践の動向」『IMETS』126号 (財)才能開発教育研究財団 pp.77-83 市川尚・鈴木克明(1996a)「WWWホームページはどのように設計したらよいか? 〜小中高ホームページの現状調査・分析からの提案」『IMETS』120号 (財)才能開発教育研究財団 pp.24-31
市川尚・鈴木克明(1996b)「小中高ホームページの調査研究」『日本教育工学会第12回大会講演論文集』pp.133-134
市川尚・鈴木克明(1996c)「ホームページの使いやすさを左右する要因」『第3回日本視聴覚・放送教育学会発表論文集』pp.82-83
市川尚・鈴木克明(1996-1997)「連載:授業のためのホームページ案内(全5回)」『NEW教育とコンピュータ』学習研究社 1996年11月号〜1997年3月号
市川尚・鈴木克明(1997a)「連載:授業で役立つホームページ」『NEW教育とコンピュータ』学習研究社 1997年4月号〜12月号
市川尚・鈴木克明(1997b)「アメリカK-12ホームページの特徴〜Web66のホームページ調査を通して」『第23回全日本教育工学研究協議会全国大会発表論文集』 -
IPA・CEC [情報処理振興事業協会・財団法人コンピュータ教育開発センター](1994)『ネットワーク利用環境提供事業募集要項』
IPA・CEC [情報処理振興事業協会・財団法人コンピュータ教育開発センター](1997)『ネットワーク利用環境提供事業(100校プロジェクト)成果報告書』
越桐國雄(1997)「インターネットの教育利用の現状'97.1」『インターネット白書'97』インプレス
中川一史・佐藤幸江・豊福晋平(1997)『インターネットはじめの一歩:教師のためのインターネット実践入門』あゆみ出版
西村昭治・野嶋栄一郎・中山顕子(1996)「高等教育機関におけるWWWホームページの日米比較」『ヒューマンサイエンス』 Vol9.No.1 早稲田大学研究センターpp.105-125
西森年寿(1995)「米国の初等中等教育におけるWWWの利用に関する調査 -各校のホームページを対象として-」『日本教育工学会第12回大会講演論文集』pp.133-134
U.S. Department of Education (1997)Advanced Telecommunications in U.S. Public Elementary and Secondary Schools, Fall 1996. NCES97-944.