教科別紹介第8回
 〜図工・美術科関連のホームページ

 市川 尚(岩手県立大学ソフトウェア情報学部助手)

はじめに

 前回までは夏休み特集をお送りしましたが,今回は教科別紹介に戻りまして,図工・美術科のホームページを紹介します.本連載で美術科をとりあげるのは初めてです.関連するものとして,99年8月号では,美術館を一部取り上げました.図工・美術科関連のホームページは,学校ホームページが公開しはじまった当初から,作品を展示しているページを見かけました.作品を公開することで,外部の人に見てもらったり鑑賞会を行うという実践もあります.現在では,イラストによる文化紹介を通しての海外交流や,ネット上の共同作業によって絵を制作するためにウェブが利用されているところもあるようです.また,授業実践紹介のページや,美術の教材を公開しているページもあります.図工で言えば,前回の夏休み特集で紹介した工作のページなども活用できるでしょう.さらに,カラーコーディネート資格のための情報から,DTP出版関係の企業により公開されている情報など,活用できるサイトは様々です.今回は図工・美術科の教員や学校から公開されているホームページを中心に紹介していきます.

図工・美術科関連のホームページ

広島大学附属福山中・高等学校の「美術教育」(http://www.hiroshima-u.ac.jp/japanese/fukuyama/artedu/index.html;図1)
 このページは,美術の授業実践例や作品が豊富に紹介されています.例えば,中学校の実践では,生徒たちの書いた絵をコンピュータ上に取り込んで(スキャナ等を利用すればできる),ページ上に作品を展示したり,それに合わせて指導案が公開されています.高等学校では,コンピュータグラフィックスにも力を入れているようで,ペイントツールや3DCGを使った実践の指導案や作品を見ることができます.美術教育へのコンピュータ活用についての論文も掲載されており,どうしてコンピュータを活用しているのかを知ることもできます.  授業の実践例を紹介するのであれば,見に来た人がページを読むことで同様の実践ができるようにしておくことが大切です.ただ様子を画像で紹介するだけにとどまらず,その実践の目的や指導内容を詳しく書いた指導案や,実際に行ってみての結果・反省点などを載せると,他の教員にとって非常に有用な情報となることでしょう.
 また,作品を公開する際には,そのページ上の配置(順番)にも気をつける必要があります.例えば作品への感想をもらうことを目的とした公開であれば,ひとりの作品に感想が集中しないような配慮が必要です.特に偶然見に来る人を期待している場合は,ページを開いてすぐ見える作品や,配色が目立つものなどに集中してしまう可能性があることでしょう.現在では学校ホームページは膨大な数に昇っていますから,宣伝が不十分だと見に来る人がいるかどうかすらも期待できません.作品を公開する場合には,複数の学校との間で鑑賞会形式にするなど,教員があらかじめ相手を決めておき,かつ全員にうまく感想が送られるような,反応の個人差への配慮が必要となります.こういった交流相手を見つけておくということも,インターネットを活用する教員には必要なスキルと言えます.
 もちろん作品公開は,外部に見てもらうためだけではありません.情報をデジタル化しておけば,美術作品を劣化させることなしに保存しておくことを可能としますし(もちろんデジタル化することで,作品の良さが失われたり,立体の作品を平面の画像として保存してしまうという問題もありますが),学生が作品を持ちかえる場合であっても,そのコピーを学校のコンピュータ上に保存しておくことができます.つまり作品の蓄積が可能となるわけです.美術では特に多くの作品に触れることが大切なように思いますから,そういった意味では先輩たちの作品を常に鑑賞できるような状態にしておくことは重要であると考えられます.例えば,授業の最初に過去の優秀な作品をホームページを提示しながら紹介してあげるのも面白いでしょう.あとあと公開/保存されるということが前提の授業であれば生徒の意欲というものの向上につながるかもしれません.それには,生徒の作品が完成した時点で公開していいか尋ねるということも必要となってきます(作品は生徒の著作物ですから).
 このページには他にも,学校の近隣にある美術館のホームページを,許可を得て資料提供や 監修などの協力をもらいながら制作したとのことです.自分たちで美術館のホームページという,大きなホームページを制作していくという試みは生徒たちもやりがいがあったことでしょうし,ホームページ自体のデザインを考えることは,美術の授業とつながります.データ入力作業を通してもいろいろ学んだことでしょう.制作された美術館のページでは,収蔵作品をウェブ上で鑑賞することができますし,最新の展示会情報も載っており更新は続いているようです.こういった美術館のサイトは,美術の鑑賞に利用するということが考えられます.99年8月号で紹介したように,美術館のサイトはたくさんあり,またそのなかで収蔵品を公開しているもの(クリックして絵が拡大し鑑賞に耐えうるもの)も少なからず存在しています.普段行くことのできない海外の美術館にある収蔵品を鑑賞することができます.海外の英語のサイトであっても,絵を鑑賞するために訪れるのであれば,言語の壁も低く感じられます.また,こういったサイトからは,教科書にない情報をとってくることもできます.ただし美術館サイトを使って鑑賞をする場合に,作品をただ鑑賞しに行って感想を書いておしまいとするだけではなく,またその感想をページ上に公開して,人々の見る視点の違いや,ひとつの作品にも様々な感想があるとに目を向けさせたりするなど,ネットワークを生かした展開などを考えていきたいところです.

滝澤俊先生による「美術関連検索サイト」(http://www.venus.dti.ne.jp/~orthias/artindex.htm;図2)
 このサイトは,美術に関する情報を効率よく収集するために設置されているそうです.美術関連検索サイトという名称からもわかるように,美術情報へのリンクが非常に充実しています.たいていの美術関連のリンクリストは,全国の美術館へのリンク程度で終わってしまうものも多いのですが,小中高等学校の実践例の紹介へのリンクも用意され,教員にとっては有用なものとなっています.また,全国のほとんどの美術館の住所や電話番号,それにホームページを持っていれば,そこへのリンクの入ったリストが提供されています.  さらに,年代,作家,技法といったジャンルから,調べ学習ができるようなコンテンツが用意されつつあります.まだ工事中ですが,用語集も準備されています.特に作家の検索は,日本と西洋の作家が50音で整理されており,その人物の簡単なプロフィールや,作品を知ることができます.また,その作家の作品を収蔵している美術館のホームページへのリンクが張られています.調べ学習のためのサイトにとって重要なことのひとつに,関連サイトへのリンクを十分に提供することで,学習の広がりを持たせることが挙げられます.このデータは,かなり膨大な量に上っており,作者も言っていますが,リンクの更新や確認作業等は制作者個人では困難とのことです.インターネットでは,手軽に情報交換をしながら共同作業が行えるということが利点ですから,ますます混沌としてくるウェブの状況を考えても,今後は興味のある人々で協力しあいながら実際に学習の中で調べものをする際の拠点ともなり得る「〜〜の教科ならまずここを見よ」的なホームページを作成してほしいところです.
 インターネットの実践で比較的簡単に行えるのが調べ学習と言えます.しかしながら,インターネットの海原へすぐに学生をほおりだしても,情報量の多さに自分に必要なコンテンツを見つける前に時間切れになってしまうかもしれませんし,好ましくないサイトへ迷い込むことも十分に考えられます.そういったとき,こういった調べ学習用のサイトが役に立ちます.また,調べ学習を行う場合は,調べたという行為と結果だけで満足することなく,調べた結果を検討するための方向づけが重要な課題です。

川島真紀雄先生による「小学校図画工作科」(http://www2.justnet.ne.jp/~kawasimaqa/;図3)
 このホームページは,美術教育と総合的学習の関わりについての情報が豊富なホームページです.「図画工作科と総合的な学習の時間年間活動計画案」では,一年間の計画だけでなく,その様子や実践例へのリンクがはられており,どのようなに授業が展開しているかを一望することができます.授業の実践例としては国際理解教育として,国際交流の様子が紹介されています.アニメーションの共同制作を行ったり,折り紙を折って送ったそうです.折り紙については,自分たちの手で作品をつくり,その作品で日本文化を外国の子供達に伝えています.例えば,お互い言葉は通じなくとも,絵は万国共通であり,視覚的に理解できるものですから,そういった絵を通した交流ができます.国際交流は電子メールによる情報のやりとりが主流ですが,それを補うためにホームページに画像を載せれば(イラストを交換するなど),お互いの理解が深まることも考えられます.もしくは,複数の学校との共同作業で,ひとつの作品をつくりあげるという実践も考えられます.
 また,環境学習として,森のスケッチや森の絵本作成を行ったり,インターネットを活用して環境問題の調査をしたりしている実践が紹介されています.5年生は学級で行う環境学習の前後に、調べたいテーマあるいは学習した感想などをコンピュータを活用してワープロや絵で表現しています。この他にも卒業制作や卒業アルバム,コンピュータグラフィックスなどについても紹介され,あらゆる面で,美術教育は今後どうあるべきかについて考えさせられるページと言えるでしょう.

MAOI中学美術(http://www.fsinet.or.jp/~maoi/index.htm;図4)
 このページは,美術に関するウェブ上の教材が公開されています.ページの内容は,大きく表現の世界と鑑賞の世界にわかれています.鑑賞の方では,美術作品を見ることができます.特にこのページでは,絵画,彫刻,デザイン,工芸のそれぞれの分野で体験しながら学ぶことのできる教材が公開されています.教材にはJava等が用いられ,ページ上で実際に絵(デッサン)を書き込んだり,絵の構図を部品をいろいろな場所に配置していくことができます.ただ解説するだけでなく,自分で試してみたりする場を設けることは,学びを支援する上で大切です.こういった,すぐに色を変えたり,構成を変えたりといろいろ試してみることができるのは,コンピュータの利点と言えるでしょう.
 マルチメディア題材では,文字,静止画,音声や,作品をクリックすると,それにあわせて何かアクションが起こるような作品が紹介されています.動きが加わることで,ひとつの作品にいろいろな側面を見ることができますし,その上で自分なりの表現をして,新たなる作品とすることもできます.マルチメディアによって表現の世界が広がったとも言えるでしょう.特に美術の苦手な子どもへの対応の一つとして,マルチメディアが使える可能性があります.ホームページでは,マルチメディア情報が扱えますから,こういった子どもたちの表現を伸ばすためにも活用できることでしょう.

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図1 広島大学附属福山中・高等学校の「美術教育」
図2 滝澤俊先生による「美術関連検索サイト」
図3 川島真紀雄先生による「小学校図画工作科」
図4 MAOI中学美術


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