2005年の教室

岩手県立大学ソフトウエア情報学部 市川 尚

はじめに

 今回は、2003年の1月号でありますが、テーマは「2005年の教室」と題してお送りします。文部科学省が進めている教育の情報化に関する政策のほんとが、2005年を目標としていますので、教育の情報化が節目を迎える年(IT環境がある程度整う年)ということになります。その環境のもとでどのように教育を展開していくか、そのためにはどんな準備が必要であるかが課題となってきます。
 文部科学省の調査によると、2002年3月時点でのインターネット接続率は98%、ホームページ所持している学校は46%だそうです。2005年になれば、学校のホームページを持っていることはあたりまえで、その頃にはもしかしたら、クラスの半分くらいの生徒が学校とは別に個人のホームページを持っているかもしれません。
 今回は、これまでに本連載を通して紹介してきたサイトがかなり含まれていますが、教育の情報化政策の内容が載っているサイトや、実際にその政策によって公開されている(実践が行われている)サイト、先進的な実践を行っている(紹介している)サイトを紹介していきます。2005年のイメージを少しでもつかんでもらえれば幸いです。

サイト紹介

高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/index.html
 このサイトからは、国のIT戦略であるe-Japan重点計画2002の内容を見ることができます。2005年の教室像を考える上で、この戦略をはずすことはできません。様々なところで紹介されていますので、大半はご存知であると思いますが、よく知らないという方は一度見てみることを勧めます。
 e-Japan重点計画の中には、「教育及び学習の振興並びに人材の育成 」が掲げられています。各省庁が連携して学校教育の情報化を進めることになりますが、その内容として「学校のIT環境の整備」、「IT活用型教育の本格的実施の推進」(IT教育の充実、先進的な実践事例の積極的な紹介・普及、ITを活用した外国人の日本語学習への支援)、「IT指導力の向上」、「教育用コンテンツの充実・普及」、「教育情報提供体制の整備等」、「障害のある子どもたちへの対応」の6項目があげられています。例えばIT環境の整備には、2005年までにすべての学校が高速回線で常時接続され、さらにすべての教室がインターネットに接続できるようにするということが掲げられています。

文部科学省
http://www.mext.go.jp/
 このサイトにある「初等中等教育」の「情報化の対応」では、e-Japan重点計画に沿った2005年に向けた具体的な教育施策を知ることができます。
 「学校情報化推進計画」として、学校の情報環境整備のタイムラインを見ることができます。2005年までに全ての学級のあらゆる授業において教員及び生徒がコンピュータやインターネットを活用できる環境を整備することを目標に、校内LANの整備、普通教室に2台のPCの設置、回線の高速化、教員研修の実施、NICERの整備などが計画されています。また、今後の施策については、「教育用コンピュータの整備、インターネット接続」や「初等中等教育におけるITの活用の推進に関する検討会議」でも知ることができます。
 「新・情報教育の手引き」は、平成2年7月に作成された「情報の手引き」の見直しが行われ、平成14年6月に公開されたものです。児童生徒の情報活用能力育成のための実践や、これからの学校の情報化についての考え方などを教員向けに解説しています。
 さらに「教育用コンテンツの開発・提供」として、これまでに開発されたデジタルコンテンツを紹介しています。

NICER(教育情報ナショナルセンター)
http://www.nicer.go.jp/
 e-Japan重点計画のところで述べた「教育情報提供体制の整備等」の一環として、国立教育政策研究所が整備を進めているセンターです。平成14年9月にリニューアルされ、以前本連載で紹介したときよりもかなり情報が集まってきています。2005年には教育関連のポータルサイトとして、中心的な役割を果たしていることでしょう。
このセンターでは、登録する教材に学習オブジェクトメタデータ(LOM;Learning Object Metadata)を付加することにより、利用者に応じた検索が可能となっています。LOMとは、Web上の教材を記述するための共通の規格を設けることで、教材の探索や共有を容易にしていこうというものです。今後は、こういった標準化の考え方がさらに普及して来ると思います。登録している教材は、「教育用コンテンツ検索」から検索することができます。
 また、「情報化推進事業」として、例えば文部科学省が推進していた高速回線(光ファイバー網)を利用した学校への委託事業の報告書集があり、今後高速回線が整備されていく上で参考になる事例もあることでしょう。

eスクールインターネットフェスティバル
http://e-school.nicer.go.jp/
 このサイト(NICER内にある)では、2002年10月に金沢で行われたeスクールインターネットフェスティバルの内容を見ることができます。このイベントは、e-Japan重点計画の中でも実施することが述べられており、子どもたちがPCやインターネットに慣れ親しみながら学ぶ様子や海外の学校との交流の様子等、2005年度の姿を先進的に実現している学校の様子をインターネット等を通じて広く一般に紹介することが目的となっています。
 イベントは4部構成で行われており、「2005年の教室デジタル授業プロジェクト」「2005年の学校間交流プロジェクト」「2005年の国際交流プロジェクト」「2005年の学校と家庭と地域の連携プロジェクト」があります。これらのプロジェクトについているタイトルは、2005年のキーワードと見ることもできます。それぞれのプロジェクトのページでは、プロジェクトのねらいや具体的な取り組みの事例を見ることができます。また、イベント当日のステージ発表やブース発表については、動画でその様子を見ることができるようになっています。

Eスクエア・アドバンス
http://www.cec.or.jp/e2a/
 この事業は、100校プロジェクト、Eスクエア・プロジェクトの後を受けて平成14年度より実施しており、Eスクエア・プロジェクトの資産を整理活用するとともに、さらに前進する意味を込めています。2005年に向けて、教育・学習に役立つためのITの要件調査と教育効果を上げるためのIT活用方法の研究を行い、その成果を公開していくとのことです。例えば、平成14年度の活動内容としては、「高品質映像伝送による次世代型遠隔交流の実証実験」「携帯情報端末を活用したモバイル学習環境の実現」「IT結晶技術であるロボット活用の先進的情報教育検証」などの、先進的な教育プロジェクトが行われています。
 また「過去の実践プロジェクト」では、Eスクエアや100校プロジェクトで行われてきた数々のインターネット教育実践例が蓄積されており、2005年に向けた教育実践を考える上で、参考になる部分も多いと思います。さらに「教育情報」として、画像データベースなども公開されています。
本格稼動は12月からということで、今後の動向が楽しみなサイトのひとつです。

JAPET(日本教育工学振興会)
http://www.japet.or.jp/
 JAPETは、平成13年度から教育情報化コーディネータの検定試験を実施しており、このサイトの「コーディネータ検定試験」では、試験の実施要項や過去の問題と解答を見ることができます。情報化コーディネータとは、学校の情報化にあたり、環境の整備や組織づくりなどを学校や教育委員会にバランスよく適切にアドバイスできる人材です。各地で研修が行われている情報化推進リーダーとあわせて、2005年に向けて今後学校現場で活躍していく人たちであると思われます。
 また、JAPETは平成12・13年度にネットデイ委員会を設置し、調査研究を実施しました。校内LANの整備を2005年までに自治体がやってくれるのを待つのでなく、保護者や地域住民(ボランティア)と連携して、ネットデイなどによって行うことは、LANを実現するだけでなく、地域の風が行き交う学校づくりに大変有意義なものとなるとのことです。実際にネットデイによってネットワークを整備した学校は各地に多数存在しています。「ネットデイ」のページでは、ネットデイとは何かの説明や交流掲示板など、ネットデイに関する情報が公開されています。

インターネット活用教育実践コンクール
http://www.netcon.gr.jp/
 このコンクールは、学校教育・社会教育の活動において、インターネットを優れて有効に活用している実践事例を表彰し、全国に広く紹介することにより、教育の情報化の推進を図ることを目的に、学校教育部門と社会教育部門の2部門で実施しています。Webページのコンテストは数多くありますが、これは教育実践に対して行われています。文部科学省が主催しており、内閣総理大臣賞、文部科学大臣賞、総務大臣賞などの各賞が用意されています。
 これまで2回のコンテストが実施されており(執筆時点で3回目が募集中)、両方とも91件の応募があり、その入賞作品が紹介されています。入賞作品紹介は、関連サイトへのリンクだけでなく、詳細に取り組みの内容を記した報告書と映像資料からなり、実践の中身がよくわかります。先進的な教育事例として2005年へ向けて参考になる部分もあると思います。
 過去2回のコンテストで内閣総理大臣賞を受賞したのは、「富山インターネット市民塾の取り組み」と、「玉川学園によるCHaT Net(Children Homes and Teachers Network)」でした。

NHK学校放送オンライン
http://www.nhk.or.jp/sch/
 このサイトでは、学校放送番組のフルデジタル教材化(執筆時点で5番組分)が進められています。これらのフルデジタル教材は、各番組で共通のインタフェースによって提供されています。「テレビ」では、これまで放映された分をすべて視聴することができます。「クリップ」では、番組に盛り込めなかった映像など、番組に関連した(授業に利用できそうな)短い動画を多数提供しています。「ホームページ」では、ゲーム・用語集などや、先生方へとして、各回ごとのあらすじ・利用案・ワークシート・教材案を提供しています。先生が授業に番組を導入しやすいように配慮されています。「けいじばん」として番組について話たり発表したりする場もあります。 
 提供されている動画は、高速回線でないと視聴するのに時間がかかってきついですが、2005年にはこういった動画を提供しているデジタル教材(より高画質なもの)が普及して、利用されていることと思います。
 また、現在放映中の教育番組の中には、「しらべてまとめて伝えよう」や「体験メディアのABC」など、情報教育に利用できそうな番組も多数あります。

D-project
http://www.d-project.jp/
 このプロジェクトは本誌で連載中なので、ご存知の方が多いことでしょう。今かなりホットな情報教育関連のプロジェクトだと思います。2003年3月31日までの限定プロジェクトではありますが、2005年に少なからず影響を与えると思います。このサイトからは、情報教育を実践していく上で、多くのヒントを得ることができます。
 「キーワードで読む情報教育」では、情報教育に欠かせないキーワードが並べられ、それぞれに対しての道案内と、関連する事例(レポート)が紹介されています。情報教育についていろいろと考えさせられるページです。「実践事例・アイデアファクトリー」では、デジカメや画像編集ソフト、ホームページ制作ソフトなどを活用した実践のアイデアが紹介されています。
 また、「情報教育スペシャルプロジェクト」では、デジタルポートフォリオCM研究などのプロジェクトを結成して実践していく状況が報告されています。「ポイントUP!アドバイス」では、著作権についてや画像表現の必須テクニックを学ぶことができます。「情報教育コミュニティ」では、情報教育の討論が行われています。

おわりに

 今回は、2005年に向けた教育の情報化に関連するサイトを中心に紹介してきました。2005年までに教育のIT環境が整備される計画となっていますが、どんなにインフラが整備されても、その環境下で教育を効果的に行っていくにはどうしたらよいかを考えるのは、教師の仕事であることに変わりはありません。ただし、環境が整備されれば、従来以上に授業でできることの選択肢が増えていくのも事実です。
2005年は、インターネットをただ利用すればよいという時代ではなく、どうやって教育に有効利用するかが問われる時代です。そういった意味では、先生方の実践の情報共有や情報交換が2005年に向けてかなり重要な役割を果たすでしょうし、実際に情報共有を行っていく場も整備されつつあるように思います。また、これまでにも先進的な実践や教育に役立つシステムの開発が数多く行われており、その内容が蓄積・整理して提供されていますので、大いに活用してほしいところです。

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