先進校紹介 〜総合的な学習の情報を発信している学校ホームページ


 市川 尚(岩手県立大学ソフトウェア情報学部助手)

はじめに

 本誌の総合的な学習の特集と連動し,今回は新春特集の第一弾として,総合的な学習の情報を発信している先進校のホームページ紹介をします.現在,学校のホームページに教員が期待する情報のひとつに,総合的な学習の実践事例が挙げられるのではないでしょうか.本連載では,1997年9月号〜1998年3月号(12月号を除く)に総合的な学習を特集し,環境・国際理解・平和・福祉・情報などの観点から紹介しました.それらのホームページにつきましては,バックナンバーのページをご覧下さい.当時は総合的な学習の情報を検索しても,大した情報は見つからない状態でしたが,今回は「総合的な学習」と題したページが,大学の附属学校を中心として,かなり増えて来たという印象を受けました.
 総合的な学習の時間は,各学校が,地域や学校,児童・生徒の実態等に応じ創意工夫を生かして,特色ある教育活動を展開することが期待されているので,教師が自分の学校での取り組み方を考えるときに,先進校の事例が役に立つことでしょう.また,自分の学校が実践を行っているのであれば,現状の情報に対するニーズは高いと思われるので,多少不完全な情報であっても発信していくことが大切です.もちろん,総合的な学習に関する情報は,テーマ,課題の一覧,カリキュラムへの位置づけや指導案,そして実際の授業の様子,子どもたちの作品や感想など,授業の一連の流れに沿って,すべての情報が提供されることが望ましいことは言うまでもありません.
 さらに,子どもたち自らが課題を見つけていくものであるなら,子どもたちが課題を見つけたり,その見通しをたてたり,学習計画を立てるために,ホームページを利用して他校の実践事例を参考にする可能性があります.つまり,今後は子どもたちが見ることも視野に入れ,総合的な学習の情報を発信していくことが必要になってくると考えられます.
 今回は,総合的な学習の実践事例を紹介している学校ホームページを,これまで本連載で紹介していなかった学校を中心に紹介していきます.

総合学習の情報を発信している学校ホームページ

山口大学教育学部附属小学校(http://www.ymg-es.yamaguchi-u.ac.jp/index.htm;図1)
 この学校は総合的な学習の時間として「総合の時間」を設けており,10年以上実践してきた「総合活動」と、新たに組み込んだ「総合学習」の二つから成り立っています。 「総合活動」では、「製作、表現、遊び、食」などをテーマに具体的な活動を展開する,「異年齢集団」による「体験的な活動」です。 それに対して「総合学習」では、「個の主体的な追求を重視した、問題解決的な学習」を基本にしています。子供に学習の決定権を委ね,自己評価能力の育成を柱としています.「研究大会のページ」や「総合の時間」では,総合学習の基本的な考え方と年間計画・実践事例が載っています.「5年生総合学習リサーチ創造の森」では,学校の裏にある創造の森について様々な体験や調査をする実践を実況しています.最初は昨年度を振り返りながら総合学習でについての意見の出し合うことからはじまり,森(自然)に親しむために,まず遊びから入ります.徐々に子どもたちに遊びのなかにも目的意識が出てきて,それらの体験を元に調査・活動計画をたて,実際に探求活動を行っていく事例が実況されています.「おすすめの総合学習」では,国際領域で,探ろう作ろう味わおうトルコの食・世界の食と題して,実際に食を味わったりしながら,最終的には世界食祭りを開くという授業の,単元計画や本時案が載っています.こういった自分の学校でうまくいった事例をおすすめとして,他の教師が見てもわかるような形で提供しておくことは,大変有用です.

京都府京都市立御所南小学校(http://www.edu.city.kyoto.jp/hp/goshominami-s/;図2)
 総合「かがやき」の時間は,子どもたちの身近な生活の問題や生活を取り巻く今日的な課題を,「環境」「人」「郷土」の3 つの視点で取り組みます. 1年生は学校探検にはじまり,2年生は近所の町など,発達段階に応じて徐々に足を伸ばす範囲を広げています.高学年になると身近なところから自分たちで課題をみつけて追求していくことになります(発見→探求→研究の流れになっている).各テーマでは,まず実際に自分で体験し(ふれる),体験内容を振り返って課題設定を行い(つかむ),そのあとで調べを行い(むかう),発表等をする(生かす)という実践の流れになっています.この学校の「総合的な学習」のページでは,各学年ごとに年間計画とその記録が載っています.記録は画像中心で,活動のイメージがつかめます.
 関連情報としては,NHKから教育トゥデイで総合的な学習の時間を取り上げたときの関連資料という形で,各学年のテーマと目標についての資料が提供されています.(http://www.nhk.or.jp/sch/tokubetsu/summer/hint/kyoto/index.html).

佐賀県千代田中学校(http://www.saga-ed.go.jp/school/edq11551/edq11551.htm;図3)
 総合学習「やってみよう科」は,地元の千代田の探検を通して、環境・福祉・表現・情報の分野から調査・研究し、もっとすてきな千代田を発見していこうという実践です.千代田調査隊(環境),あなたも偉大なSocialworker(福祉),千代田を知り隊・調べ隊・創作し隊(統計),情報発信!千代田(情報)の4つの講座を設けています。例えば「情報発信!千代田」では,生徒が企画して、千代田町・千代田中学校について紹介するページを作っています.また,「やってみよう科」の紹介の中には,「総合的な学習に興味のある先生方に」として,各講座の指導目標・活動内容をはじめ,どうやって総合的な学習が実現してきたのか,担当者は何名なのか,どこを視察してきたが紹介されています.こういった総合的な学習にいたるまでの裏舞台についても詳しい情報は,教員が必要なものと言えるでしょう.

熊本大学教育学部附属小学校(http://www.educ.kumamoto-u.ac.jp/~elem/;図4)
 この学校は、文部省の教育課程開発研究校に指定されており、総合的な学習のカリキュラム開発を行っています。総合学習のページには,全学年の全学級のリストがあります.学級単位のとりくみになっており,国際交流で伝統文化や祭りを海外に紹介している学級,野生のメダカについて調べてNHK教育「たった一つの地球」に出演した学級,バケツに稲を育てる学級,学校の木を観察する学級,ゴミの問題をとりあげる学級など様々です.その実践の様子が各学級のページから発信されています.

埼玉県杉戸中学校(http://www.sugito-jhs.sugito.saitama.jp/;図5×掲載拒否)

岐阜大学教育学部附属中学校(http://www.fuzoku.gifu-u.ac.jp/chu/index.asp;図6)
「総合的な学習」のページには,各学年の子どもたちが総合学習で学んだことのレポートがHTML形式で公開されています.例えば,3年生のレポートである「老人介護」は,課題及び課題設定理由,追究の手だて,指導してもらいたい先生及び指導してもらった先生,課題追究計画,課題追求という形でまとめられています.結果だけでなく,どんないきさつで,どのような展開で調べられたのか,どんな人がこの研究に関わって何を教えてくれたのかという,研究の背景にあることをきちんと伝えることは,総合的な学習のような,学習の方法を学ぶことを重視するものには必要です.総合的な学習の性質上,自分の成果をすべて電子化しておけば,発表会をはじめ,評価の際にも記録として役立ち,また,自主的に課題を設定することが通常であるから,次年度の子どもたちの課題設定の参考にもなるでしょう.学習データが代々引き継がれ,共有されることになります.さらに,この事例のように作品をHTML化して公開すれば,外部からも見てもらえるという利点も出てくることでしょう.

その他の実践校

 紙面の都合上,詳細な解説をはぶいた実践校の紹介です.
千葉県立小金井高等学校(http://www.asahi-net.or.jp/~at5n-smgm/kogane.html)
 ビオトープを総合学習・環境学として位置づけた研究が行われています.
香川大学教育学部附属坂出小学校(http://www.ed.kagawa-u.ac.jp/~sakasho/)
 総合的な学習を「未来学習」,「ワールド学習」の二つから構成しています.「未来学習」では,環境ホルモンの調査研究として,実際に自分達で周辺の海のカニを調べ,専門家の意見を聞きながら理解を深めていく様子が紹介されています.
茨城大学教育学部附属小学校(http://icert.edu.ibaraki.ac.jp/pub/fu-sho/)
 心の総合学習「ひびきの時間」を実践しています.
大阪府松原第三中学校(http://www.e-kokoro.ed.jp/matsubara/matsu3/)
 人権教育を基盤おいた総合学習として,「ヒューマンタイム」と「クリエイティブタイム」という2つの実践が紹介されており,コースの一覧や,各コースで実際の作品,公開授業の指導案等も見ることができます.
滋賀大学教育学部附属中学校(http://www.fc.shiga-u.ac.jp/home/index.htm)
 総合学習「BIWAKO TIME」が行われています.開設分科会&研究テーマ一覧表があり,子どもたちが取り組んだ報告書が載っています.
高知県魚梁瀬中学校(http://www.edu.net-kochi.gr.jp/home/yanase-j/start.html)
 リンカーン学習という総合学習の取り組みを数年前から行っていたようです.リンカーン学習の記録では,個人個人の目標と学習内容を見ることができます.

総合学習の実践校が見つかるホームページ

広島大学附属福山中・高等学校による「総合的な学習の広場」(http://133.41.234.8/;図7)
 Eスクエア・プロジェクトの学校企画で、広島大学附属福山中・高等学校が主宰し、運用をしています。中学校・高等学校用の総合的な学習の実践事例データベースが提供され,キーワード,テーマ,実施形態,時間割,教科などで表示することができます.今のところ,大学の附属学校を中心に収録しているようです.総合的な学習は,これをやりなさいという明確なものがあるわけではないので,こういった実践事例を集めているサイトは,大変ありがたいものと言えるでしょう.

国立教育研究所教育情報・資料センターによる「総合的な学習ランド」(http://www.nier.go.jp/homepage/jouhou/literature/sougou.html)
 総合的な学習に関するリンク集である。特に,総合的な学習を実践している学校ホームページがリストされており,学校種別や実践の力点の置き方(国際理解,環境など)で絞り込んで提示することも可能となっています.総合学習関連の情報を提供しているほとんどの学校はここにリストされていると思います.他にも,研究発表会・研究大会,資料・文献検索サイトなど,総合的な学習に関連するサイトへのリンクが充実しています.

清水秀晶先生による「総合的な学習情報」(http://www.kumagaya.or.jp/~sakutaro/)
 総合的な学習の実践校ページへのリンク集が提供されております.こちらは,ひとこと程度の紹介文があり,どんな実践が提供されているかを事前につかむことができます.また,総合学習に関する資料・提案ページや,福祉・ボランティアのページへのリンク集も提供されています.

自薦・他薦のホームページ募集中!ichikawa@soft.iwate-pu.ac.jpまで
ホームページ紹介記事バックナンバーhttp://www.iwate-pu.ac.jp/home/ichikawa/new/

図1 山口大学教育学部附属小学校ホームページ
図2 京都府京都市立御所南小学校ホームページ
図3 佐賀県千代田中学校ホームページ
図4 熊本大学教育学部附属小学校ホームページ
図5 埼玉県杉戸中学校ホームページ
図6 岐阜大学教育学部附属中学校ホームページ
図7 広島大学附属福山中・高等学校による「総合的な学習の広場」


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