章 | 章毎のタイトル |
発想の起点:東日本大震災後の復興の遅れ | |
1 | はじめに
1a. 東日本大震災 1b.「日本」とは? 1c. 「東北」とは? |
2 |
「東北」の歴史:「日本」に組み込まれる経緯
2a. 蝦夷(アイヌ)の地「東北」への近畿王権の侵略:アテルイと坂上田村麻呂 2b. 奥州平泉の盛衰 2c. 鎌倉期以降の東北 |
3 |
「スコットランド」の歴史:
ローマ人が記したカレドニアが大英帝国に組み込まれ、さらに独立を目指すまで
3a. スコットランドの紹介: 概要、位置と基本数値、気候、首都、産業、歴史的有名人、スポーツ・文化等、「スコットランド系」食べ物 3b. ケルト民族の地: タキトゥスの『アグリコラ』 3c. 中世スコットランドの形成 3d. 近代スコットランド史: 大英帝国に組み込まれるまで 3e. 19世紀以降のスコットランド:スコットランド独立問題とは? |
4 |
「東北」と「スコットランド」の類似点・相違点 |
5 |
これからの「東北」:日本の東北から世界の東北へ |
おわりに:受講生のみなさんへ |
[3a. スコットランドの紹介]
(21) スコットランドの紹介 |
[MP4 1: "Symphony No. 3 in A minor, op. 56 "Scottish"
by Felix Mendelssohn (1809-1847) 1. Movement "Andante con moto- Allegro un poco agitato" Gewandhausorchester Leipzig Franz Konwitschny, conductor Leipzig 1962 概要:843年から続いたスコットランド王国(Rioghachd na h-Alba; Kinrick o Scotland; Kingdom of Scotland)が1707年の連合法(Acts of Union)によって、グレートブリテン連合王国(Kingdom of Great Britain)の一部になりました。ラテン語では「カレドニア」と呼ばれます。南太平洋のニュー・カレドニア(New Caledonia/Nouvelle-Caledonie)は現在はフランス領ですが、イギリスの探検家ジェームズ・クック(キャプテン・クック; James Cook, 1728-1779)が1774年、海上からニューカレドニア本島(グランドテール)を「発見」し、山の多いスコットランド(カレドニア)を思わせる眺めからニューカレドニアと名づけたのです。すなわち、スコットランドといえば山地(ハイランド)のイメージがあります。北上山地、特に葛巻町から岩泉町へと向かう国道340号線沿いなどはスコットランド中央のグレン・コー(Glen Coe)にそっくりです。 グレン・コー(Glen Coe) 位置と基本数値:スコットランドは大ブリテン島北部に位置し、2012年人口5,254,800人、面積は78,772 sq kmで、北海道本島(77,984.86 sq km)より少し大きい程度です。これは大ブリテン島(Great Britain; 219,850 sq km)全体の約3分の1に相当します。(英国全体の面積は244,820 sq km、人口63,181,775人[2011]ですが、世界各地に海外領土(territories)、王室属領[Crown dependencies]があるほかに英連邦[Commonwealth of Nations]と呼ばれる国々があります。) なお日本列島総面積は377,961 sq kmで周辺諸島を含む北海道面積は83,456 sq km、東北地方66,890 sq kmです。こういうと英国本国は日本よりも小さな国という印象を受けるかもしれませんが、スコットランド以外は平坦な地域が多いので、実は山国日本よりずっと広々としています。緯度的には、スコットランドは北緯54度から61度の間に位置しています。首都エジンバラやグラスゴーの緯度は北緯約56度で、日本の北海道よりはるか北にあたり、モスクワとほぼ同じ緯度にあたります。(北極圏は北緯66度33分です。) ちなみに岩手県立大学の緯度は北緯39度48分ですので、どれだけスコットランドが高緯度に位置するのか分かりますね! 気候:典型的な西岸海洋性気候で、メキシコ湾流の一部である北大西洋海流と偏西風の影響により緯度の割に比較的穏やかです。冬は高緯度の割に暖かく、最寒月平均気温は2℃〜6℃で、日本だと北関東(群馬県や栃木県)くらいの過ごしやすさです。夏は最暖月でも14℃〜19℃程度と涼しいのです。岩手県に比較すると一年を通じて気温差が小さく過ごしやすいです。山間部を除いてまとまった雪も降りません。 首都:エディンバラ (Edinburgh; 2006年人口463,510人)で欧州有数の美しい街並みがユネスコ世界遺産登録されていますが、最大都市は英国産業革命発祥地である工業都市グラスゴー(Glasgow; 2006年市街地人口580,690人;都市圏人口2,850,000人)でロンドン、バーミンガム(Birmingham)、マンチェスター(Manchester)に続く英国第四の都市です。 優秀な人材を輩出し続けるグラスゴー大学本館 (The neo-Gothic Main Building, University of Glasgow) エディンバラの美しい街並み (A north view from Forewall Battery, Edinburgh Castle) 産業:古くは石炭がスコットランドの主要産業であり、英国の産業革命を支えました。1960年代に北海油田(North Sea oil)が開発され、埋蔵量が欧州随一と判明すると、漁港アバディーン (Aberdeen)は石油基地として大きな発展を遂げ、現在の人口192,080人(2006)です。石油資源の存在はスコットランド独立派の強みとなっています。さらに1980年代からは半導体産業や情報通信産業の誘致が盛んに行われており、スコットランド中部のIT産業の集積地帯はシリコン・グレン(Silicon Glen)と呼ばれています。 歴史的有名人:アダム・スミス (Adam Smith, 1723-1790;「経済学の父」で『国富論』著者)、ジェームズ・ワット (James Watt, 1736-1819; 蒸気機関の改良によりグラスゴーから産業革命を起こす)、ジョン・ロウドン・マカダム (John Loudon McAdam, 1756-1836; 道路のアスファルト舗装を発明)、ジョゼフ・リスター (Joseph Lister, 1827-1912; フェノールによる消毒法の開発)、アンドリュー・カーネギー (Andrew Carnegie, 1835-1919; 米鋼鉄王となりカーネギー・ホール[Carnegie Hall, NY]で有名)、ジョン・ボイド・ダンロップ (John Boyd Dunlop, 1840-1921; タイヤチューブ、バルブを発明)、 アレクサンダー・ベイン (Alexander Bain, 1811-1877; FAXの発明等)、アレクサンダー・フレミング (Alexander Fleming, 1881-1955; ペニシリン[Penicillin]の発見で有名な細菌学者)、ジョン・ロジー・ベアード (John Logie Baird, 1888-1946; テレビの発明等)、アレクサンダー・グラハム・ベル (Alexander Graham Bell, 1847-1922; 世界初の実用的電話の発明等) 等々。 アダム・スミス像 (Statue of Adam Smith in front of St Giles' Cathedral, Edinburgh) ジェームズ・ワット像 (Statue of James Watt, George Square, Glasgow) *コリン・ジョイス (Colin Joyce, 1970-)によれば、イギリス人の生活を皮肉って次の物がすべてスコットランド人によるものだということです:マーマレード、レインコート、自転車、タイヤ、乾留液(タールマック舗装)、蒸気エンジン、イングランド銀行、糊つき切手、タバコ、電話、ローストビーフ、アメリカ海軍、麻酔薬など。『聖書』にもスコットランド人が最初に出て来ますが、これはジェームズ6世が英訳を進めたからです。(『驚きの英国史』[NHK出版新書] 2012年 pp.79-83) **よくドラマや映画で登場する[ニュー・]スコットランド・ヤード ([New] Scotland Yard)は、ロンドン警視庁 (Metropolitan Police Service; MPS)の通称です。特にスコットランドには関係がなく、ロンドン警視庁本部の所在地ニュー・スコットランド・ヤード(New Scotland Yard)に由来しています(Big Benから徒歩10分程度; Big Benの脇道Bridge Streetを通り、Parliament SquareからA302[Victoria Street]沿い右手に見える)。日本の警視庁の通称を本部所在地旧称にかけて「桜田門」(正確には、「外桜田門」; 幕末に井伊直弼大老が暗殺された江戸城桜田門付近;現在の「霞が関」)というのと同じです。 スポーツ・文化等:スコットランド発祥のスポーツといえば、15世紀に始まったゴルフ(golf/ Scot. gowf)が有名です。全英オープン(The Open Championship)は1990年以降、5年に1回はゴルフ発祥の地セント・アンドルーズ (St. Andrews)で開催されます。また、14世紀初頭にハイランド地方ではじまったハイランド・ゲームズ (Highland Games/Highland Gathering)は、スコットランドのハイランド地方各地で5月から9月にかけて行われる競技会です。もともとは力自慢の競技会でしたが、バクパイプ (bagpipe)の演奏会などもあり、伝統文化を感じるイベントです。また、毎年8月に盛大に開催されるエディンバラ・フェスティバル) Edinburgh Festival)は芸術と文化の祭典で、市内の各所で数えきれないほどの大道芸人たちのパフォーマンスが楽しめる楽しいイベントです。 ロバート・バーンズ (Robert Burns, 1759-1796; 「蛍の光」["Auld Lang Syne"]や「故郷の空」["Comin' Thro' the Rye"]で有名な詩人)、ウォルター・スコット (Walter Scott, 1771-1832; 詩人、歴史小説家)、コナン・ドイル (Arthur Conan Doyle, 1859-1930; 『シャーロック・ホームズ・シリーズ』著者)、ロバート・ルイス・スティーヴンソン (Robert Louis Stevenson, 1850-1894;『宝島』や『ジキル博士とハイド氏』著者)、ショーン・コネリー (Thomas Sean Connery. 1930-; 『007シリーズ』等で有名な俳優)、ユアン・マクレガー (Ewan McGregor, 1971-; 『スター・ウォーズ・シリーズ』のオビ=ワン・ケノービ役等で有名な俳優)、ジェラード・バトラー (Gerard Butler, 1969-; 『オペラ座の怪人』等で有名な俳優)、アンディ・マレー (Andy Murray, 1987-; プロ・テニス・プレーヤー) 等々。 ロバート・バーンズ像 (Statue of Robert Burns, George Square, Glasgow) ロバート・バーンズ作「蛍の光」レリーフ (Plaque commemorating Robert Burns' "Auld Lang Syne," Buchanan Bus Station, Glasgow) ウォルター・スコット像 (Statue of Sir Walter Scott, Scott Monument, George Square, Edinburgh) シャーロック・ホームズ像 (Statue of Sherlock, Marylebone Road, London) 「スコットランド系」:スコットランド系アメリカ人ですと、一番日本と関係が深いのは、第二次世界大戦後日本を占領した連合国軍最高司令官ダグラス・マッカーサー (Douglas MacArthur, 1880-1964)でしょう。彼自身はアーカンソー州 リトルロック (Little Rock, Arkansas)出身ですが、父方の家系はハイランド出自の貴族の出で、祖父のアーサー・マッカーサー(Arthur MacArthur, Sr., 1815-1896)はグラスゴー生まれの弁護士でごく短期間ながらウイスコンシン州知事となった人物です。また『赤毛のアン』(Anne of Green Gables, 1908)などで知られるカナダ人作家L・M・モンゴメリ(Lucy Maud Montgomery, 1874-1942)もやはり父方がスコットランド系で、旦那さん(Ewen ["Ewan"] MacDonald)もスコットランド系長老派教会牧師でした。『赤毛のアン』でも主人公アン(Anne Shirley)はノバスコシア州(Nova Scotia; "New Scotland")出身の孤児という設定で、養父母となるマリラとマシュー・カスバート(Marilla & Matthew Cuthbert)の兄妹もスコットランド系で、二人の母親がスコットランドから祖国の花スコッチ・ローズ (Scotch rose)をたずさえて渡ってきたと『赤毛のアン』第37章に記されていますね。 『ハリー・ポッター』(Harry Potter):当時まだ無名だった作者J. K. ローリング (J. K. Rowling, 1965-)がエディンバラのコーヒー・ハウス「エレファント・ハウス」(The Elephant House)で『ハリー・ポッターと賢者の石』(Harry Potter and the Philosopher's Stone)を執筆したのは有名な話です。エディンバラ城の外観はホグワーツ魔法魔術学校 (Hogwarts School of Witchcraft and Wizardry)のモデルと言われております。 エディンバラ城 (The Gatehouse of Edinburgh Castle) ポッタリアン・ガールズの皆さん (Potterian Girls for advertising Harry Potter and the Deathly Hallows at Eason Bookshop, Dawson Street, Dublin) 食べ物: ハギス (Haggis): 羊の内蔵、玉ねぎ、ハーブなどを羊の胃袋に詰めたもので、煮るか茹でて食べます。シングル・モルト・ウイスキーによく合いますが、好みの分かれる味です。 ハギス (Haggis)料理の一例 (The Willow Tearooms, 217 Sauchiehall Street, Glasgow) スコッチ・エッグ (Scotch egg): 茹でた卵を香辛料の効いた牛ひき肉で包み、さらにパン粉を付けて揚げたもので、日本でもスーパーなどで入手可能です。ピクニックでよく食べます(*厳密にはスコットランド料理ではありません)。 スコッチ・ウイスキー (Scotch whisky)は、現在放映されているNHK朝ドラ『マッサン』でもおなじみですが、定義上スコットランドで製造されるウイスキーのことです。麦芽を乾燥させる際に燃焼させる泥炭(ピート)に由来する独特の煙のような香り(スモーキー・フレイバーと呼ぶ)が特徴の1つです。大麦麦芽を原料としたモルトウイスキー(malt whisky)とトウモロコシと大麦麦芽を5:1の割合で配合したグレーンウイスキー(grain whisky)があります。ウイスキーは英国にとって5大輸出品目の1つであり、その輸出規模はおよそ200か国、日本円にして約6000億円です。スコットランド全体では石油に次ぐ大事な輸出品目となっております。 スコッチ・ウイスキー専門店 (Whisky Galore of The Green Welly Stop, Tyndrum, Crianlarich, Perthshire FK20 8RY, Scotland) 英国は、ユーラシア大陸を挟んで極東にある日本とは対称的に極西にある島国で、東北の比較材料として扱う資格は十分なのです。 |