英語圏の文化


Cultural Aspects of English-speaking Countries
Winter Session 2009

Eishiro Ito

章毎のタイトル

英語が好きな皆さんへ
1 はじめに

a.「英語」とはいかなる言語か?
b.「日本語」とはどう違うか?
c. 日本人は英語をどう学習すべきか?
2
「英語」の歴史1:ブリテン諸島における英語の歴史

a. 古英語 (Old English): 5世紀から11世紀中ごろまで
b. 中英語 (Middle English): 11世紀から15世紀ごろまで
c. 近代英語 (Modern English): 16世紀から19世紀まで
3
英語」の歴史2:新世界へと広がる英語圏

a. 北アメリカ大陸
b. オセアニア
c. アフリカとアジアへの英語の普及
4
現在の英語文化を実感するには、ポピュラー音楽が手軽でお得!
5
現在の日本文化を紹介するには、漫画やアニメが一番!

おわりに:受講生のみなさんへ

 


[英語が好きな皆さんへ:

(00) みなさん、英語という教科は好きですか?ここにいる皆さんの「受講志願書」(application forms)を読ませてもらいましたところ、皆さんの大多数が英語が好きなことが分かりました。さらに他の外国語学習にも興味があるようですね。今日は、英語好きの皆さんのために"English Immersion" (英語に浸りきって[一般教科を]学ぶこと)で講義してみます。要するに、今日はなるべく英語を用いてみましょう、ということです。本講義はこのウェブ・ページに記された日本語の講義要旨(the Japanese summary of the lecture)に基づいて行われます。講義のすべてが理解できなくてもいいのです。私の英語も完璧ではありません。おおまかに全体の流れを理解できれば上出来です。外国語を学習する最大の目的は、コミュニケーションです。我々にとって、英語は外国語であり、しかも普段は英語をほとんど必要としない日本で皆さんは学んでいるのです。これから90分、下記を参照しながら、私の完璧ではない英語の講義を完璧でなくてもいいので精一杯理解しようと聞いてください。これも大事な異文化体験です。そんなに難しいことは話しませんから、大丈夫ですよ!






1. はじめに

[1a. 「英語」とはいかなる言語か?]



(01) では、皆さんがなぜ英語が好きなのかといえば、「英語を使えるようになれば、世界中の人たちとコミュニケーション出来るから」、「英語圏(the English-speaking world)の文化に興味があるから」だと答える人が多いことでしょう。ところで、「コミニュケーション」という英単語はどう日本語に訳せるでしょうか?「意思疎通」というのだと少し固いですね。もともと「コミニュケーション」などという概念は日本語になかったのです。

(02) 英語/イングランド語(English)は、インド・ヨーロッパ語族のゲルマン語派に属し、イングランド地方を発祥とする言語です。世界で最も多くの国で話されている共通言語(lingua franca)です。使用国数は80カ国以上で、その中には、イギリス、アメリカ、カナダ、オーストラリア、アイルランド、南アフリカ共和国、ニュージーランド、シンガポールなどが含まれます。


世界の英語圏地域: 濃い青色(dark blue))は英語が公用語(official language)となっている地域。薄い青色(light blue)は英語が公用語であるが主要な言語(majority language)ではない地域 (Wikipediaより)


(03) 英語圏 (the English-speaking world)は、公用語(official language)や準公用語(second [associate] official language)に英語が設定されている、もしくはそこに住む人々の主に話す言語が英語である国・地域の総称です。英語話者の2/3が集中するアメリカ合衆国では、憲法の規定としての公用語・準公用語が存在していませんが、事実上、英語の占める位置が圧倒的に優勢であるため、英語圏とみなされています。かつてのイギリスの植民地であった地域が、英語圏になっている場合が多いのです。

(04) 英語は、たしかに重要な国際語(universal language)です。2005年の調査で、世界中で約5億1000万人(five hundred and ten million people)の母語(mother tongue)となっています。これは、母語話者だけで13億人(one point three billion people)いる中国語 (北京語[Pekingese]もしくは普通語[putonghua])に次いで世界第2位の数です。ちなみに第3位はインドやフィジー(the Republic of Fiji)などで公用語とされるヒンディー語(Hindi; 4億9,000万人 )、第4位はスペイン及びラテン・アメリカ諸国で使用されているスペイン語(4億2,000万人)、第5位はロシア語(2億6000万人)とアラビア語(2億6000万人)、それにバングラディシュとインドの一部で使用されるベンガル語(Bengali; 2億2000万人)、ポルトガル語(2億1000万人)、フランス語(2億1000万人)、ドイツ語(1億3000万人)、そして日本語は1億3000万人によって使用され、世界第11位の母語話者数を誇ります。ちなみにお隣の朝鮮半島で話されている朝鮮語(Korean)は第13位(7,000万人)です。

(05) 17世紀はじめから20世紀半ばまで大英帝国 (the British Empire)が多くの植民地を抱えていたことが、英語話者数の増加の要因となりました。イギリスの採った植民地政策(colonial policy)は間接統治(indirect domination)でした。つまり、エリート層(the elite)をイギリス本国で教育させ、それぞれの植民地へ送り返したのです。上層階級(Upper Class)であるエリート層はみな英語で教育を受けたため、植民地行政では英語が支配的となり、独立後もこの状態が続いています。かくして、旧イギリス領(the former British territories)では英語が公的に、すなわち、政治・経済・教育で使われるようになり、イギリスとこれらの地域の共通語になったのです。

(06) 第二次世界大戦後、イギリスは徐々に国際政治(international politics)での影響力を弱めていきましたが、かつての英領で同じ英語を使用するアメリカ合衆国が強い影響力を持つようになり、結果として英語が有用な外国語として世界に広く普及することになります。

(07) 「日本人は英語が出来ない」とよく言われますが、不景気(depression)とはいえ、まだまだ日本は世界でも豊かな国の一つです。皆さんは岩手県に住んでいて、英語が使えないと不便なことがあるでしょうか?日常生活をおくる上で不自由なことはないはずです。

(08) むしろ、長年日本に住んでいる英語圏出身者が日本語をほとんど使えるようにならないことのほうがずっと恥ずかしいことです。日本語を話せない外国人が英語だけで生活するのに困らない程度に英語が通じるのは東京、名古屋、大阪、京都などの大都市のみです。したがって、岩手に住む英語圏出身の外国人は東京などの同胞よりも日本語能力が一般的に高い傾向があります。

(09) 私のホームページでは"Japan Pics Index"などからたどれば、日本各地の名所(places of interest)、伝統文化を紹介する地域ごとのページに行けます。暇のあるときに少しずつ現地を訪れて写真撮影をし、英語で詳しく紹介しているので、ときどき日本文化に興味のある外国人たちから「日本文化の奥深さ(the depth of Japanese culture)を教えてくれた」と感謝のメールをいただきます。

(10) 2008年12月22日に高等学校の新学習指導要領案(The Proposal of the New Course of Study for Senior High Schools)が発表されました。その中で英語だけが大きく報道されています。「高校での英語教師は英語で授業を行い、日本語の使用は複雑な文法を説明するときに限る」(English teachers at senior high schools in Japan will teach their classes in English and limit the use of Japanese only to the explanation of complicated grammar.)と明記されているのです。英会話力アップを目指すのが狙いなようです。この新しい英語の指導要領は2013年度入学生から適用される見通しです。

(11) 明治維新以来、第二次大戦の敗戦を経て、日本の外国語教育は英語を中心に行われてきました。実際、お隣の韓国と並んで、日本ほど英語教育(the teaching of English)の盛んな国は多くないのです。Oxford English Dictionaryという最高権威の英語の辞書が一番売れているのは、イギリス、アメリカではなく、日本なのです。北上市出身の漫画家三田紀房の『ドラゴン桜』第4巻でも英語を教える川口先生が日本人の英語熱 (a zeal for improving their English ability)について説明しているところがありますね。また、英国BBCの調査によれば、日本語には実に2万語ほどの英語からの借用語(loan words)があるそうです。

(12) ところで、大学入試センター試験(National Center Test for University Admissions)では、英語が一番難しいのです。都市部の有名私立中学・高校では、英語以外で「外国語」として受験できる言語を積極的に教えているところがあります。難易度(the level of difficulty)を不等号(greater-than sign)で表すと、英語>ドイツ語>フランス語>中国語>韓国語の順と言われています。一番簡単な韓国語は、ハングル検定(Hangul Language Proficiency Test)3級くらいだそうで、頑張れば1年くらいで9割近く取れるようになるということです。

(13) 私は、このホームページでお分かりになるように、岩手県立大学で英語を教えながら、文部科学省の外郭団体である日本学術振興会(Japan Society for the Promotion of Science)から助成金をいただき、主にヨーロッパで国際学会で研究活動をしております。ひまなときに私のホームページ"Atelier Aterui"を探険してみてください。このHPには、授業用ページのほかに、たくさんのヨーロッパなど外国の写真が英語解説付きであります。また、日本、とくに岩手や関西の伝統文化の写真付き英文紹介などもしております。

(14) この講義の原稿を書く前にこの教室にいる皆さんの「受講志願書」(application forms)をじっくり読ませていただきました。総じて、皆さんは英語学習に意欲的ですし、英語のみならず外国語を学ぶことがいかに大切かをよく理解されているようです。ですから、今日の講義はそんな皆さんに英語圏の文化の概略と魅力について英国BBC放送制作のビデオを見てもらいながら楽しんでもらいたいと思います。


[1b. 「日本語」とはどう違うか?]


(15) ロシア語の同時通訳(a simultaneous interpreter)だった米原万里(よねはら まり, 1950-2006)は『米原万里の「愛の法則』(集英社新書)の中で、次のように話しています:

  ところが【国土がないのが圧倒的多数のユダヤ人と違って】日本は逆なのです。日本のように国土があって、それが非常に堅牢な天然の国境に囲まれている。そうすると、国土という意識をあまり持たなくていいのです。天然の国境が意識しなくても常に守ってくれるから、心の中に国境を持たなくてもいい、そういう日本人にとって、国際、つまり、ほかの国あるいはほかの文化との出会いというのは、先ほど言ったように、思い切り非日常的なことになるわけです。

(16) 英語と日本語の違いというと、最初に思いつくのは、日本語にあって英語にない表現ですね。「よろしくお願いします」、「いただきます」という表現は英語にはありません。

(17) 日本語と英語で一番目立つ違いは、単語と文法の違いだと思います。一番の弊害になっているのは、「発音の違い」のようです。

(18) たとえば、「カバ」を逆さに読む(to read in the reverse order)と日本語では、「バカ」となりますが、アルファベットで表記して考えると、"kaba" -->"abak"となります。日本語では母音(vowels)が5つで子音(consonants)が10つで「50音」(the fifty sounds; the kana syllabary)と呼ばれますが、「ん」以外は全てに母音が入っていて、その全てが有声音(vocals)です。一方、英語の場合は、20の母音と24の子音があり、その44ある発音のうち1/3以上が無声音(voiceless [breath(ed)] sounds)による発音です。その為、日本語に無い発音を日本語に当てはめて発音しようとして、正しい発音ができないのです。

(19) 以下は"Lucky's Home Page"から抜粋した、「日本語と英語の違い」です。参考にしてください。

1. 日本では自分の気持ちを控え目に表現することが多いが、英護圏では自己を直接的に表現することが多い。
例:日本語・・・つまらないものですが。
例:英語・・・I hope you'll like it.

2. 日本語の場合、結論を最後に述べたり、あるいは明確にしない場合が多いが、英語は結論を先に述べ、 その後に具体的に論理的に説明する場合が多い。
例:日本語・・・英語は役に立つから. . . (好きです)。
例:英語・・・I like English, because it is useful.

3. 日本語は(主語)+目的語+動詞の形[S+O+V]が多いが、英語は主語+動詞+目的語[S+V+O]の形が多い。(*実は、世界の言語はほとんど英語と同じ語順で、中国語さえもそうです。日本語と同じ語順は朝鮮語やウラル・アルタイ語系(the Ural-Altaic languages)に属するごく少数の言語だけです。)
例:日本語・・・(私は) 英語を話します。
例:英語・・・I speak English.

4. 日本語は語順を変えても、ある程度は理解できるが、英語の場合は理解できなかったり、意味が違ってくる場合が多い。
例:日本語・・・父は私に本をくれた。 (○): 私に本をくれた、父は。(○)
例:英語・・・My father gave me a book. (○): Gave me a book my father. (X)

5. 日本語は子音+母音の形が多いが、英語は子音+母音+子音の形が多い。
例:日本語・・・hana (花), sakura (桜), mizu (水)
例:英語・・・cat (猫), bad (悪い), sit (座る)

6. 日本語は高低のアクセント(pitch accent)が主であるが、英語は強弱のアクセント(stress accent)が主である。
例:日本語・・・ ha shi
例:英語・・・dog
[1c. 日本人は英語をどう学習すべきか?]


(20) 日本人は、上記のような違いに気をつけながら、英語を学習すべきです。日本語には母音も子音も英語に比べてずっと少ないので、発音をよくしたいのならば、英語をとにかく聞くことです。スカパー!やケーブル・テレビを利用出来るのならば、CNNやBBCの放送を聞くのもいいですし、NHK BS1では英語を主として各国後のニュース・ダイジェストを一日に何度も放送します。NHK BS 2で放送している日本紹介の"News Watch"という英語番組はおすすめです。また、英語圏の映画を見るのもいいでしょう。その場合は、日本語字幕だけでなく、英語字幕で見るのもリスニングとリーディングを一緒にやっているような効果があります。
  (*"BS"という表現は、実は英字新聞では使用しておりません。アメリカ英語で"B.S."というのは、"bull-shit"の略語(abbreviation)だからです。日本の英字新聞には、"NHK S[atelite]-1"のように表されます。では、岩手県内にも多くあるスーパー "Big House"の看板を見て、英米人たちが笑うのはなぜでしょうか?答えは辞書で確かめてくださいね。

(21) 日本人は完璧さを求め過ぎてしまいます。よほど英語に自信がないと、英語圏から来ている外国人に話しかけることも難しいようです。何でもいいから積極的に話しかけることは大事なのです。東北とくに岩手出身者は引っ込み思案が多いです。英語に限らず外国語を勉強している場合、実際にその言語を使う機会がないと、なかなか上達しません。ペーパー・テストはそこそこなのに、なかなか英語が話せない現象はじつは男子学生により頻繁に起こるようです。ブロークンでもいいので、まず英語を話してみましょう!



2.「英語」の歴史1:ブリテン諸島における英語の歴史

[2a. 古英語 (Old English): 5世紀から11世紀中ごろまで]


(22) 現在直接さかのぼれる英語の最古の祖先は印欧祖語 (Proto‐Indo‐European language、PIE)です。印欧祖語はかつて黒海沿岸に居住していた民族が使用していた言語であると推定されています。そこから幾つもの言語集団がインドからイラン、ヨーロッパにかけて移動し、ヒンディー語(Hindi)、ペルシャ語(Persian)や、ヨーロッパの諸言語として分かれていったと考えられています。このうち黒海(the Black Sea)からヨーロッパ北部へ分かれた言語がゲルマン祖語(Proto-Germanic)と想定されています。これをルーツとする言語集団をゲルマン語派(the Germanic branch)と言い、その中に現在の英語、ドイツ語、オランダ語、北欧諸言語が含まれていました。そのゲルマン族のうち、ドイツ西北部に移住した部族にアングル人(Eng. Angle; Ger. Angel)・サクソン人(Eng. Saxon; Ger. Sachsen)・ジュート人(Eng. Jutes; Ger. Juth)がおり、しばらくそこに住んでいましたがやがて4世紀ごろにフン族(Hun)の圧迫で西部に押し出され、ブリテン島(Great Britain Island)に渡りました。

(23) 紀元前からブリテン島Great Britain Island)にはブリトン族(Brit)などのケルト人(Celts)が住んでいましたが、 ブリタニア(Britannia: 現在のイギリス)はシーザー(Gaius Julius Caesar)の進軍(A.D. 43年)によってローマ帝国に組み込まれました。しかし帝国が衰退するにつれ、ローマ軍は大陸へ撤退せざるを得なくなり、その空白期間(interregnum)を縫ってゲルマン人の部族であるアングル人(Eng. Angle; Ger. Angel)、サクソン人(Eng. Saxon; Ger. Sachsen)、ジュート人(Eng. Jutes; Ger. Juth)が5世紀ころブリテン島に侵出し、ケルト系住民を西北に押しやって定住しました。英語の最も基礎的な語彙、文法はゲルマン語に基づきます。(folk, mind, ghost, shape, withなど)。

(24) また大陸からキリスト教典などのラテン語文献も翻訳し、およそ450語のラテン語彙が流入しましたが、これらは主に宗教、学術用語でした。現在もほぼ同じ形で使用されています。(angel, candle, organ, Antichrist, prophet, discipleなど。)

(25) 8世紀ころからデーン人(Daners)、すなわちヴァイキング(Eng. Viking; Ger. Wikinger)の侵略(aggression)が激しくなり、11世紀はじめにはイングランドはデンマーク王クヌーズ1世(Canute/Cnut/Knut I、995 - 1035)の支配下に入ります。この長い混乱の過程で古ノルド語 (Old Norse, ON)の語彙が英語に入ってきます。古ノルド語も英語と同じくゲルマン語であるため、英語は古ノルド語から数千もの日常語彙を借用しました。


[DVD 1: Chapter 2 of The Story of English (1986 BBC)]


 

[2b. 中英語 (Middle English): 11世紀から15世紀ごろまで]


(26) 1066年にフランス北部からやってきたノルマンディー公(duc de Normandie)ギヨーム(Guillaume)によるイングランドへの征服、いわゆるノルマン・コンクエスト(The Norman Conquest of England)が起こります。ギヨーム(Guillaume)は後にウィリアム1世(William I、1027-1087)としてイングランド王に即位します(在位:1066-1087)。すると、イギリスの支配階級はほとんどノルマン系フランス語しか話さない人々によって占められることになり、フランス語が大量に流入しました。(pavilion, tennis, umpire, nasty, bribe, gentleなど。)

(27) まとめれば、5世紀から11世紀という中世前半に、アングロ・サクソン人のゲルマン語が母体となって、ラテン語・フランス語・古ノルド語の影響を受けて、英語が出来上がっていきます。Englishとは「アングル(Angle)族の言葉」という意味です。

(28) しかしノルマン人(Normans)は少数だったため、13世紀になると英語がイギリスの国語としての地位を確立し始め、百年戦争(the Hundred Years' War, 1337-1453)の敗退などを受けて14世紀には貴族でさえ英語を母語とするようになりました。一方で、この間にフランス語から借用された語彙は一万語に及び、その75%が現在まで残っているといいます。

(29) それまで、英語では話し言葉と書き言葉(ラテン語)が長らく分離していましたが、ルネサンス(文芸復興: 14?16世紀)の運動がようやくイギリスにも伝わると、両者を一致させる動きが現れ、ジェフリー・チョーサー(Geoffrey Chaucer)の『カンタベリー物語』(The Canterbury Tales)などが言文一致体(colloquial style)で書かれました。


[DVD 1: Chapter 2 of The Story of English (1986 BBC)]




[2c. 近代英語 (Modern English): 16世紀から19世紀まで]


(30) 15世紀から16世紀にかけて、発音と綴りが著しく異なるようになりました。最初に研究を行った言語学者オットー・イェスペルセン(Jens Otto Harry Jespersen)によって「大母音推移」 (Great Vowel Shift)と名付けられました。英語は、中英語期に、強勢のある長母音(long vowels)の調音位置(articulation point)が一段ずつ高くなり、これ以上高くなることのできない[i:][u:]はいわゆる「音割れ」(breaking)を起こして二重母音化(to be diphthongized)しました。このため、該当する英単語の発音と綴り(スペリング)とが一致しない現象の大きな原因となったのです。かくして、ほとんどローマ字読みのイタリア語やスペイン語などと比較して英語の発音が難しくなったというわけです。
*長母音[a:]は、二重母音→[ei]への変化
(例: nameなど:[na:me]→ [neim])
*長母音[ε:]や[e:]は、長母音[i:]への変化
(例: feelなど:[fε:l]→ [fi:l])
*長母音[i:]は、二重母音[ai]への変化
(例: timeなど:[ti:me]→ [taim])
*長母音[oː]は、二重母音[ou]への変化
(例: homeなど: [hoːme]→[houm]」)
*長母音[o:]は、長母音[u:]への変化
(例: foolなど:[fo:l]→[fu:l])
*長母音[u:]は、二重母音[au]への変化
(例: nowなど:[nu:]→[nau])

(31) 16世紀から17世紀には、啓蒙時代(the Age of the Enlightenment)の文人たちが、「粗野な」(barbaric) 英語の水準を高めようと、ラテン語、ギリシャ語を借用したため、学術用語を中心に数百ものラテン語が定着しました。(cynic, analogy, animate, explain, communicateなど。)印刷技術の普及(progress)とともに、ラテン語・ギリシャ語文献が広くいきわたりました。この時代の高等教育を受けた人々はラテン語やギリシャ語を読めたのです。

(32) 1611年に出版された欽定訳(King James VersionあるいはAuthorized Version)聖書は、多くの改訂版がその後に続き、広く流布したために英語の文体に影響を与え、聖書の英語を日常の英語にするのに貢献しました。旧約聖書が原典のヘブライ語から、そして新約聖書が原典のギリシャ語から初めて直接英訳されたのです。

(33) 大航海時代(the Age of Discovery)の到来とともにイギリスの生活圏(sphere of life)が広がり、世界各国から新しい単語が入ってきたのもこの時代の特徴です。(イタリア語からballot [無記名投票用紙], スペイン語からcigar, ポリネシア語からtaboo, ペルシャ語から(ヒンディー語を経由して)pyjamasなど。)一方でフランスとの交流も相変わらず盛んだったため、フランス語も絶え間なく流入しました。

(34) また、この頃まで二人称(a second person)を表す語が複数存在し、現在使われているyouは元々二人称単・複数の敬称形(honorific term)で、親しい間柄を表す親称形 (non-honorific term)はthouを用いていました。シェイクスピア作品にはこの"thou"と"you"を上手く使い分けたセリフがしばしば登場します。以下は、有名な『ロミオとジュリエット』(Romeo & Juliet)の例です:
父親が娘に対し心情をあらわにしている場面
a: Capulet. Thou counterfeit’s a bark, a sea, a wind (RJ 2:3.5.131) [キャピュレット 舟と海と風をもっているように見えるぞ。]
b: Capulet. Out, you green sickness carrion! Out, you baggage! / You tallow face! (ibid.: 3.5.156)
[キャピュレット ええい、この貧血病!できそこない!青ビョウタン!]

(a)では、父親は泣いているかわいい娘をなぐさめる際、thouを使用し、(b)では、父親の勧める結婚に背く娘にyouを使用することで、父子間に心的距離があることを示している。(引用出典: 嶋田亜由美・林由季子・武田暎子、「シェイクスピアの作品における二人称代名詞 ―『ロミオとジュリエット』と『夏の夜の夢』を中心に―」『名古屋女子大学 紀要 50 (人・社)』217-229 2004)

(35) イギリスが世界覇権を握る(Britain is supreme in the world)に従い、英語話者の人口が増大しました。そして大英帝国の力が衰えるころ、代わって台頭してきた(to come to the fore)のがアメリカ合衆国です。英語の重要性がさらに拡大し、現在に至ります。






3. 「英語」の歴史2:新世界へと広がる英語圏




[3a. 北アメリカ大陸]



(36) アメリカではアフリカ系移民(African immigrants)が生み出した歌唱的要素を豊富に含む黒人英語 (Black English)が成立しました。この黒人英語と、アメリカ原住民(Native Americans)の言葉、英国系移民たちが持ってきた近代英語がアメリカ英語(米語)を成立させたのです。米語は英語の方言でしたが、分離後400年をへて、その隔たりはかなり大きいものとなっています。

(37) 黒人英語にはjitter, bogus, yamなどのユニークな単語がありますが、そのなかでも都会に住む黒人を中心に使われている口語は、流行語(vogue words)・歌唱語(singing words)としてアメリカや、さらに世界中に影響を与えることがしばしばです。(hip hop, rapなど。)

(38) 一方、かつてインディアンと呼ばれたネイティヴ・アメリカン(Native American)由来の言葉としては、tomato, potato, barbecue, powwow, Indian Summer (小春日和)などがあります。

(39) 米語の特徴として、品詞(a part of speech)を変えて使用したり(park [駐車場]→駐車する)、長単語の代わりに熟語を使ったりする(board → get on, eliminate → take away, finish → get done)など、簡略化(simplification)の傾向が見られます。これは世界各国からの移民を受け入れる上で誰にでも分かりやすい表現が求められた結果です。文字通り世界の政治経済の中心地として、アメリカ英語はその大衆文化とともに世界の若者に影響を与えております。アメリカ英語で新しい流行語が生まれると、あらゆるメディアを通して世界中に紹介されます。アメリカが英国を凌駕する現在の英語圏文化の中心地であることは否めません。


[3b. オセアニア]



(40) 皆さんの「受講志願書」(Application forms)を見ると、オーストラリアで二週間程度ホームスティを体験した人たちが数名いますが、もともとオーストラリアはイギリスの流刑地(place of exile)でした。オーストラリア英語は、 "Broad Australian" 、 "General Australian" 、 "Educated (or Cultivated) Australian" に分類され、最初の二つは、日常一般的に会話などで話されているもので、最後のものは教育機関などの正式な場面で使われるようです。この Educated Australian はイギリスの RP (Received Pronunciation) という、いわゆる BBC などで使われている「標準発音」(standard pronunciation)に近いと言われています。オーストラリアの人口は沿岸の都市部に集中していることもあり、オーストラリア出身の英語教師はほとんど「標準発音」を話します。

(41) 日常会話で使用されるBroad (or General) Australianはロンドン東部地域の Cockney (コックニー)の発音に近いと言われています。コックニー言葉というのは、日本でいえば「ひ」を「し」と発音してしまう、生粋の「江戸っ子」言葉に相当します。ミュージカル映画の「マイ・フェア・レディ」(My Fair Lady, 1964)を見たことのある人ならよくわかると思いますが、主人公イライザ(Eliza Doolittle)の発音がまさにこのコックニー言葉です。ヒギンズ教授(Prof. Henry Higgins)によって「発音矯正」の訓練(speech training)を受けるのですが、 "The rain in Spain stays mainly in the plain." という文章(脱コックニー発音矯正練習に用いられた有名な歌)は、コックニー話者のイライザが何度読んでも、"... [rain] .. [spain] ... [staiz] [mainli] ... ... [plain]"となってしまうわけです。"Hi! How are you?" は、Broad Australianの発音では[hoi haeu a:r ju:]のように聞こえます。母音の[ei]を[ai]と発音するので、"Did you come today?"は[did ju: kvm te-dai](→"Did you come to die?)"に聞こえてしまいそうですね。ちなみにこの[ei]を[ai]と発音する傾向は、ニュージーランド英語でもほぼ同様です。
  参考文献: (「英語雑貨屋/オーストラリア英語」)

(42) オセアニアを代表するもう一つの英語圏の国ニュージーランド (New Zealand; マオリ語で Aotearoa)も簡単に説明いたします。彼の地には、9世紀頃、ポリネシア人開拓者が島々にやってきていて、マオリ人(Maori: 「アイヌ」という言葉と同様、「人間」という意味)と呼ばれる彼らの子孫が住んでおりました。そこに1642年にオランダ人がやってきて、オランダのゼーラント州 (Zeeland) に因み、ラテン語で "Nova Zeelandia" (「新しい海の土地」の意味)と名付けます。それからジェームズ・クック(James Cook)船長が帆船エンデバー号 (Sailboat HMB Endeavou)で1769-1770年に訪れた時に、英語とオランダ語のちゃんぽんで "New Zealand" と呼んだのです。そして1830年代以降にイギリスを中心にヨーロッパ各地から移民流入がはじまります。先住民のマオリ人との間には二度大きな戦争がおきましたが、イギリスは鎮圧に成功し、19世紀後半からは工業化に成功、1907年にイギリス連邦内で自治国となり、事実上独立しました。二度の世界大戦では連合国側に立って参戦、戦後はイギリスを主な貿易相手国とする農産物輸出国として発展し、世界に先駆け高福祉国家となり、1990年代後半からは自然保護政策に重点を置き、外資に売却した鉄道会社を再購入するなど地球温暖化対策に積極的な姿勢を示しています。観光地としても大変人気がありますね。

(43) アメリカの覇権が確立するとともに、米語の影響力は強まり、現在では逆に英語(イギリス英語)にも影響を与えるようになっています。またヨーロッパ諸国やイギリス連邦(カナダ、オーストラリア)ではイギリス英語の勢力がまだ残っているのですが、日本では戦後のGHQ(General Headquarters)の占領などの影響で米語の勢力が圧倒的に強いのです。皆さんが中学、高校と親しんできた英語はほとんどアメリカ英語だと思います。もっとも私自身は毎年学会や研究リサーチのためにイギリスやアイルランドに出張しますので、どうしてもイギリス英語の影響が強いです。

(44) 英語には、世界各国からの語彙の流入も継続しています。借用語の多さこそが、異民族の領土を勝ち取ってもその民族がいた文化的痕跡をあえて残してきたアングロ・サクソン人の言語、英語の特徴です。同じく借用語の多いことで知られる日本語からはtsunami, manga, kamikazeなどが英語の辞書に登録されるようになりました 。最新版Oxford English Dictionary(CD-ROM v4.0, 2009)には日本語からの343の借用語が収録されています。

[3c. アフリカとアジアへの英語の普及]



(45) アジア、アフリカ諸国でも、英語は国際公用語(lingua franca)です。英語を公用語とするアジアの国数は4カ国(インド、パキスタン、フィリピン、シンガポール)、アフリカの国数は南アフリカ共和国など合計22カ国です。なお、オセアニアは11カ国、北米は11カ国、中央アメリカはベリーズ(Belice; かつてのBritish Honduras [旧英領ホンジュラス])のみ、南米はガイアナ(Guyana)のみの1カ国です。

(46) インドには少なくとも30の異なる言語があり、全体で、2000前後の方言があることで知られます。第一公用語はヒンディー語(Hindi)ですが、第二公用語は英語です。インドの主要な大学では英語で講義が行われ、日常的なビジネスでも英語が一番使用されます。英語運用能力は豊かに暮らすためには必ず必要なものだといいます。インド英語はイギリス英語を基調としているものの、/r/を強調して発音することに特徴があります(例: park → [paRk])。 ヒンディー語などインドの諸言語からの借用語を多く使い、また英語本来の単語でも古めかしいものを用いる場合があるという特徴もあるようです。慣れないとちょっと我々日本人には聞き取りにくい英語ですが、聞き取れないときに筆記してもらうと、その風雅な表現(sentimental expressions)に感動することすらあります。


[DVD 2: Chapter 1 of The Story of English (1986 BBC)]




(47) 皆さんが近隣諸国、ロシア、朝鮮半島、中国に将来旅行すれば実感するでしょうが、現地語が話せない場合、少し英語が使えればそこそこのコミュニケーションが出来ることがよくあります。これは、英語が世界各国で一番学ばれている外国語だからです。母語としての使用者数ではとても中国語にかないませんが、ビジネスやアカデミックな舞台をはじめとして一番頼りになるのはまだまだ英語なのです。これからもその傾向は当分続くでしょう。


4. 現在の英語文化を実感するには、ポピュラー音楽が手軽でお得!



(48) では、どうすれば楽しく英語を学べるのか、実例をお見せしましょう。もし英語圏の映画やテレビ・ドラマが好きならば、DVDで視聴すれば、音声と字幕を選択出来ますね。「英語字幕」がオススメです。たとえば、Harry Potterは私も好きですが、あら筋が大体頭に入っているなら、「英語字幕」で彼らの話す英語を注意して聞いてみましょう。これは私が岩手県立大学や岩手大学で実際に使っている教材です。私は音楽が、とくに英語圏のポップスやロックが好きです。実を言えば、好きな音楽アーティストにイギリスやアメリカ出身者が多く、歌詞も大体英語であったので、中学や高校時代、英語だけは勉強しなくてもある程度点数が取れたのです。とくに高校時代はバンド活動ばかりでしたので、クラスメートからも大学受験は大丈夫かと言われたほどでした。それでも英語だけは、なぜか平均点より20-30点は上でした。

(49) たとえば、こういう歌は好きですか?有名なイギリスやアメリカの歌手やグループの曲です。この歌詞カードをあらかじめ聞き取って、重要な英語表現に注釈をつけてYouTubeを活用してリスニングをしています。

(50) 私は普段この語学学習室3 (Computer Language Laboratory 3)という教室で授業をしています。受講生は一人一台MACを使います。授業ではMS Wordファイルを授業用HPからダウンロード、もしくはSHAREサーバから"Drag and Copy"して、自分の答えを書き、答え合わせの後、どこが間違ったか確認してから、SHAREサーバを通じて、自分のファイルを提出いたします。試験もすべてペーパーレスで、コンピュータ・ネットワークを用いて行います。

(51) もっとも英会話の授業では敢えてコンピュータを机の中に収納して、しっかりお互いの顔を見ながら行います。コンピュータには辞書ソフトウェアがインストールされていますし、インターネット上では(外国語を学習する場合、決してオススメ出来ませんが)翻訳サイトなどもあります。しかし、英会話の授業の場合は、英会話中には原則としてコンピュータや辞書を用いてはいけないことにしています。大学生の場合は、中学、高校と6年間以上、英語を学んできたのですから、頭の中にはじつはもう十分に英語の知識があります。その引き出しの中にある英単語や用法をうまく使えさえすれば誰でもそこそこ英語を英語を話せるようになるのです。

(52) 文字として意味の分かる単語は普段からどんどん書いたり話したりして、"passive vocabulary"を"active vocabulary"に変えましょう!ネイティブ・スピーカーが身近にいればいいのですが、岩手ではなかなか難しいですね。友だちとアイスクリームやハンバーガーなどを賭けて、登下校途中でも休み時間でも"English Only Time"を作って、どちらが最初に日本語に頼るか競争してみませんか?書いたり話したりすれば、どんどん英語がおもしろくなります。ますます英語が得意になります!





5. 現在の日本文化を紹介するには、漫画やアニメが一番!



(53) 皆さんは英語圏の文化にあこがれているでしょうが、英語圏のみならず世界中の人たちがあこがれている、あるいはみんな大好きな日本の文化があります。それは何でしょうか?皆さんも大好きな漫画やアニメの文化なのです。欧米では長らく、漫画やアニメは小さな子供たちのためのものと考えられてきました。ディズニーのアニメなどはその最たるものですね。ところが、ここ10-15年ほどの間に日本の漫画やアニメが世界に紹介され、各国語に翻訳されると、日本のMANGAやANIMEが世界最高峰であることと認識されてきました。たとえば、DRAGONBALLPOKEMONONE PIECEなどは世界数十カ国語に翻訳されています。


日本製アニメDVD専用のショーケース、ダブリンのタワー・レコードにて


(54) 『ドラえもん』はなぜか東アジア限定です。なぜ欧米では『ドラえもん』は受け入れられないのかと、ドイツ人の友人(OTAKU)に尋ねたところ、「のびた君はあまり努力してないのに、ドラえもんは無償で便利な道具で助けてあげている。このアニメは子供の成長に悪影響を与える、と考える親が多いせいではないか」とのことでした。また、欧米の漫画にはスポーツものが少ないのが不思議です。ブラジルで一番有名な日本のサッカー選手は、依然としてアニメのキャプテン翼くんだそうです。

(55) 宮崎駿監督のアニメも大変人気があります。代表作の英語タイトルを少しご紹介しましょう。どれがどれか分かりますか?
Future Boy Conan (『未来少年コナン』1978 NHK anime series)
The Castle of Cagliostro (『カリオストロの城』 1979 film)
Nausicaa of the Valley of the Wind (『風の谷のナウシカ』1984 film)
Castle in the Sky (『天空の城ラピュタ』1986 fillm)
My Neighbor Totoro (『となりのトトロ』1988 film)
Kiki's Delivery Service (『魔女の宅急便』1989 film)
Porco Rosso (『紅の豚』1992 film)
Princess Mononoke (『もののけ姫』1997 film)
Spirited Away (『千と千尋の神隠し』2001 film; winner, Academy Award for Best Animated Feature, 2002)
Howl's Moving Castle (『ハウルの動く城』2004; nominee, Academy Award for Best Animated Feature, 2005)
Ponyo on the Cliff by the Sea (『崖の上のポニョ』2008 film)





[おわりに:受講生のみなさんへ]


(56) 将来、世界で活躍したいと願う人はもちろん、当分日本から出る予定がなくても、日常会話くらいは出来るように英語を覚えておくべきだと思います。まず、英語を学んである程度使えるようになってから、他の外国語にもどんどんチャレンジしてください。英語が使えるようになれば、他の外国語を覚えるのも早いです。

(57) ただし、外国語を学習するには、若いほうが効率がいいのです。どんなに優秀な人でも、年を取ればとるほど、記憶力が低下して、新しい単語や表現がなかなか身につかなくなります。勉強するのならば、高校生のうちから始めましょう。また、小学生や中学生のご兄弟・姉妹がいれば、やさしいお兄さん、お姉さんとして、なるべく楽しく英語を学ぶ機会をつくってあげてください。

(58) 最後に、受講生40名全員の「受講志願書」(application forms)に書かれた異文化体験や「なぜ異文化に興味を持っているのか」を簡単に紹介したいと思います。この後「第5講:グループ討論と感想発表会準備」があるので、皆さんがどのような思いでこの講座を受講しているのかが少しでも分かれば、グループ討論しやすいでしょう。また、この90分で何をどう話せばよいのかを考える上で、とても興味深い情報を私には与えてくれました。
    Aさん(盛岡第二高)は、大好きな英語を使える仕事に就くという将来の夢のためにこの講座を受けています。Bさん(盛岡北高)は、新渡戸稲造の"I do hope that I will be a bridge over the Pacific Ocean" (「願わくば我、太平洋のかけ橋とならん」)のように、「外国の文化を知り、日本の文化を外国に伝えたい」と思っています。同じく、Cさん(盛岡北高)は、アメリカに2週間ホームスティをして、「考え方や生活習慣の文化の違いやコミュニケーションの大切さ」を学んだとのことです。Dさん(盛岡北高)のお宅にはイギリスの高校生がホームスティをし、その後、ご自分がアメリカでホームスティを体験したそうです。Eさん(盛岡北高)も幼少の頃、ご両親に連れられてアメリカとタイを旅行し、異文化を学んだそうです。Fさん(盛岡北高)さんは将来国際協力の仕事につきたいと考え、職業について漠然と考えるより、実際に興味のあることを聞いて、勉強したいと願っています。Gさん(盛岡北高)は小学生の頃から何度も家族ぐるみで異文化体験をする機会があったそうです。Hさん(盛岡南高)は、異文化に触れることによって、自身の固定された世界観から脱却できる可能性を感じています。H.K.君(盛岡市立高)は、大学で国際文化について学びたいと願う一方で、まず日本の文化について学び、外国から見た日本、外国の文化と比べた日本の文化を知ることによってさらに深く学べるのではと考えています。
    I君(盛岡市立高)は、日本語と英語の表現の違いに興味があり、一人称単数代名詞が日本語では「私」、「僕」、「うち」、「オラ」、「オレ」のように多種多様ですが、英語は"I"だけなことや、「日本語は状況中心的な言語で主語をあまり表さない特徴があり、逆に英語は人を中心とした線の表現で、現在完了形にその特徴が表れています」と説明してくれました。J君(盛岡市立高)は、「英語の物語への挑戦」という講義に興味を持ち、さらに英語以外の言語も学びたいと考えています。Kさん(盛岡市立高)は、本講義「英語圏の文化」に興味を持っていますが、「英語の物語への挑戦」という講義も普段英米文学を英語で読むことがなかったので、これをきっかけに挑戦したいと願っています。L君(盛岡市立高)は、「グローバル化が進む中で、ただ英語ばかりを勉強するのではなく、ロシア語など、ほかの国の文化や言語も学び、よりよい国際人になれるように」と願っています。
    Mさん(平館高)さんは、様々な国々の言語に興味を持っていて、将来国際的な警察官を目指しているそうです。N君(平館高)は、特にアメリカの文化を学びたいそうですが、先日「日本の次世代リーダー養成塾」に行き、次世代リーダーの方々と交流した際、留学して外国で生活すると様々な発見や学ぶ点があったという話を聞いたそうです。Oさん(平館高)は、将来保育士になりたいそうですが、通訳という仕事にも興味を持っているそうです。
    Pさん(花巻南高)は将来客室乗務員になりたいと願い、様々な国々の文化を学びたいそうです。ボランティア活動をしているQさん(花巻南高)は、将来外国の人たちを助ける仕事に就きたいと考えているそうです。R君(花巻南高)は、「やはり何事も最初は文化を学ぶことが大切だということと、アメリカなどの英語圏の国々は日本の外交において重要な国々である」と考えているそうです。
    Sさん(北上湘南高)は英語が大好きで、発音の面白さや美しさに惹かれてから、文化やコミュニケーション、翻訳などに興味をもっています。Tさん(北上湘南高)は、外国の小説の中に出てくる文化の違いに興味があり、それぞれの国の言葉で歌う音の響きがとても不思議に思えるそうです。英語部に所属しているUさん(北上湘南高)も英語圏の文化に大変興味があるそうです。Vさん(一関第二高)も、「英語圏の文化と日本の文化の間では何かどのように違うのか詳しく比較したい」ということです。詳しく知れば、英語を習うのがもっと楽しくなると期待しています。
    W君(一関第二高)は、日本のアニメや漫画の文化が世界でも一目置かれる価値があることを十分理解しているそうです。Xさん(千厩高)は、日本の歴史、文化に持っていて、特に時代ごとに変化していく暮らしや言語に興味があり、日本をよく学ぶためにも異文化に理解を深めたいと願っています。Y君(千厩高)は、オーストラリアでホームスティを体験した後で、今度は自分がホスト・ファミリーとして自宅にオーストラリアの高校生を受け入れたそうです。Zさん(大船渡高)は小学生の頃に英語に出会って興味を持ち、今回の講座では「アフリカ系アメリカ人と公民権運動」に興味を持っています。
    AAさん(高田高)は、英語を学ぶことにとても興味があり、英語で話すことが好きですが、以前フランス文化についての講座を受けたときにもいろいろ学んだそうです。BBさん(住田高)は3年前に中国から日本に来て、日本語に慣れるまでとても苦労したそうですが、2月にオーストラリアでホームスティを体験し、オーストラリアと日本の文化の違いを感じたそうです。CCさん(大槌高)は、今年の夏に「イングリッシュ・キャンプ」に参加し、アメリカの高校生と交流して、「アメリカ人は率直に自分の感情を出す部分がある」など、文化の違いを改めて感じたそうです。
    DDさん(宮古高)は、昨年度の岩手県高校ユネスコ研究大会に参加し、「識字」というテーマを選択し、「世界には読み書きのできない人が私の想像を超える位いることを知り、衝撃を受けました」とのことです。EEさん(宮古高)は去年アメリカで2週間ホームスティを体験し、まるで別世界だったそうですが、その違いに苦労しながらも面白い体験をしたそうです。FFさん(宮古高)は中学から楽しく英語を学んでおり、英語で外国人と会話がしたいと思い、外国の文化にも興味を持ち始めたそうです。
    GGさん(岩泉高)は、大学で英語を学び、将来はホテルで働きたいと考えています。ホテルを利用する外国人の割合が増えているので、語学力はもちろん、文化や習慣を理解しておくことが必要だと考えています。HHさん(岩泉高)も英語に興味があり、将来は外国に旅行に行ったり住んでみたいと思っています。IIさん(福岡高)は、中学生のときにオーストラリアにホームスティを経験し、「その土地の文化、言語に直接触れ、体験することにより、今までのものの考え方やとらえ方が私の中で変わっていくような気がしました」そうです。JJさん(福岡高)は、小学生のときにALTの先生と簡単な英語で会話をしているうちに諸外国に興味を持ち、中学のときに発展途上国の国々のことをテレビの特番などで知り、衝撃を受けたそうです。
    KK君(盛岡中央高)は、好きな科目が世界史で、それは世界中の国々の歴史を学ぶからだといいます。「現在」を知ることは、そのまま、そこの「過去」を知ることになると考えているそうです。LL君(盛岡中央高)は、高校で行った「国際教育フォーラム」という異国との交流を深めるためのイベントに参加し、異国の文化を多角的に考察し、文化現象を探っていくことをとても面白いと思ったそうです。MMさん(盛岡中央高)は、人と人とのコミュニケーションがとても楽しく、外国の人たちとのコミュニケーションはとてもわくわくした気持ちになり、言葉が通じるととてもうれしくなるそうです。文化が違いすぎるとお互いに理解できないこともあると思うので、この講座で勉強したいそうです。
  以上、ざっと皆さんの「受講志願書」を要約してみましたが、皆さんそれぞれが期待しながら、この「異文化理解の第一歩 -様々な言語と文化を学ぶ-」を受講してくださったことがよく分かりました。

(59) 皆さんは、今日の私の講義をどのように受け止めたでしょうか。私の言ったことをすべて鵜呑みにするのはやめてください。どんな人の言うことでも必ず自分でもう一度考えて、自分なりにまとめ、あるいは疑問を持ち、あるいは反論してみてください。そうすることで、より理解が深まり、いろいろな意味で成長できると思います。

(60) ご承知かと思いますが、ここしばらく、大学入試センター試験(National Center Test for University Admissions)の岩手県の平均点は全国最下位で、科目別にみても、英語の平均点も全国最下位です。どうしたら岩手の高校生が英語が好きになってくれるのか、頭を悩めている先生方はじめ教育関係者、ご父兄が多い中で、ここにいる皆さんは「英語が好き」と言えるのですから、将来楽しみな人たちです。皆さんが、大学受験を乗り切って、無事志望校の希望学部に合格し、それぞれの夢を叶えてくれることを願いながら、本講義の結びとさせていただきます。本日は、どうもありがとうございました。






 



 
 

 
 



 



        


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