ヨーロッパの公共交通に関する調査報告

1. 目的
 ヨーロッパにおける公共交通などについて調査するために2001年9月8日から14日にかけてフィンランド、イギリスを訪問した。フィンランドは寒冷地、低人口密度と岩手県の状況と似ている点があることと過疎地の交通として注目されるデマンドバスの運行を大規模に行っていること、イギリスは国情の相似から従来我が国が交通政策の参考としてきた国であるため選定した。

2. 日程
         出発地     到着地    会社便名  出発時間 到着時間
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9/8(土)  成田      ロンドン   JAL403   11:10    15:35
9/8(土) ロンドン   ヘルシンキ  BA798    17:25    22:15
9/9(日) ヘルシンキ市内調査
9/10(月)フィンランド運輸通信省(午前)
     コルシサアリグループ(デマンドバス運行会社)(午後)
9/11(火)フィンランド道路局
9/12(水)ヘルシンキ  ロンドン   BA795    07:45    09:05
     ロンドンカレッジ大学交通科
9/13(木)ロンドン    成田      JAL402    19:45
9/14(金)      成田             15:15

3. 調査団員
元田良孝 岩手県立大学総合政策学部教授
高嶋裕一 岩手県立大学総合政策学部講師
堀篭義裕 岩手県立大学総合政策学部助手

4. 調査内容
@フィンランド運輸通信省
交通政策一般、交通統計、公共交通政策
Aコルシサアリグループ
会社の概要、デマンドバス
Bフィンランド道路局
道路政策一般、道路統計、冬期事故対策、公共交通支援策
Cロンドンカレッジ大学
交通政策一般

5. 調査成果概要
 ヨーロッパでは環境対策の点から公共交通に重点を置く政策を実施しつつあり、ロンドンのロードプライシングに見られるように総量規制が行われようとしている。またフィンランドでは北部地方のような人口過疎地域など自家用車を使うことが適切な地域と都市内、都市周辺など公共交通を使うことが適切な地域と分けて政策を実施している。
 ヨーロッパでは既にインフラが整備されていることもあり、新規の道路建設は我が国ほど道路投資はされていない。イギリスではロンドン市内の渋滞解消のため大規模な環状道路M25が完成したが、全体の交通量が増え渋滞はいっこうに解消されず、新規の道路整備による渋滞対策は疑問視されてきている。フィンランドでもデンマークからスウェーデンを通ってフェリーを通じてフィンランドからロシアに抜ける国際ハイウェイ以外は道路整備は活発でない。
 規制される車の代替手段として公共交通の振興が行われているが、元々ヨーロッパでは公共交通には政府の高率の補助が行われており、我が国とは極めて対照的である。フィンランド郊外で実施されているデマンドバスでは経費の40%が政府から補助されている。このため利用者の少ない地域でもバスの運行が可能になっているものと考えられる。このデマンドバスは従来福祉目的で運行されていたバスサービスも含めて行っているため、自治体の経費削減にも役立っているようである。デマンドバスは利用者の少ない地域で特性を発揮するので岩手県の山間部のような地域の交通手段として有望である。
 我が国のデマンドバスの歴史は古く1972年に大阪の能勢町で開始されたが、採算性が見込めず撤退した。今後我が国でデマンドバスを成功させるためにはITSなど情報処理、通信技術の導入と自治体の大幅な補助が必要と考えられる。
 盛岡市で本年導入されたゾーンバスシステムと同様なシステムはイギリスのニューキャッスルで17年間行われた実績がある。やはり乗り換えが面倒なことと、基幹バスと支線バスの経営者が別れたことで中止になった。今後先行事例を調査し問題点の点検を行うことは意義のあることと考えられる。
 その他当県のような寒冷地に共通な話題として冬期の道路交通対策がある。フィンランドでは気候条件が厳しいため対策は充実している。それほど多くの雪が降らないため、凍結が交通の障害となっている点は共通である。
 凍結は全国に300箇所ある気象ステーションで検知し、塩水を散布して対応している。フィンランドでは冬期に気象の予測をし交通の警告情報を発している。これに対し、イギリスでは冬期に気象条件で交通障害になる日は少ない。フィンランドでは塩水による地下水の環境問題も指摘されている。
 
 フィンランドのディマンドバスは我が国の自治体でも導入が可能であるように思われる。システムの詳細は企業秘密で明らかにされなかったが、最適ルートの設定方法は宅配便などに既にシステムがあり、東芝などメーカーでも個別に開発が行われている。このため自治体の需要さえあればシステムの開発はすぐにでもできると思われる。いずれにせよヨーロッパに見られるように、交通需要が少ない地方では自治体がかなり補助しなければ実用的なレベルの公共交通は成立しないものと考えられる。しかし乗用車交通を野放しにすると環境面、社会インフラ面で大きな投資をしなければならないことを考えると、公共交通への投資は決して割に合わない話ではない。
 またヨーロッパでは環境問題から都市部の自動車利用を抑制しようとする動きがあり、その代替手段として公共交通の振興を図っている。我が国においても東京都のロードプライシングなど最近TDM(交通需要マネジメント)の導入が検討され、自動車総量を抑制する動きはあるが、まだ端緒についたばかりである。これからの交通問題を考える上でヨーロッパの取り組みは参考になるものと考えられる。
 最後に本調査は(財)岩手県学術研究振興財団の研究助成により行われた。ここに感謝の意を表したい。

 
             ヘルシンキ近郊のディマンドバス